第二十話裏話 美麗視点
私は、芸能界のルールと所属タレントの未来を守る敏腕マネージャー。
数々の修羅場をくぐり抜けてきたけれど、ここ最近の芸能界の一部の大物たちの様子は、明らかに異常だった。
うちの事務所の人気アイドルである詩織や、スポンサー令嬢の麗華。さらには大物映画監督、敏腕トレーナー、天才脚本家に至るまで、業界のトップに立つ女たちが、暇さえあればスマホを連打して、顔面の四季(喜怒哀楽)を目まぐるしく巡らせているの。1年が1日以下で過ぎ去るような激しい季節の流れで、ブツブツと何かを呟いている。
気になって裏から詳しく事情を調べてみたら、絶句したわ。
やれ「彼氏ができた!」だの「婚約が決まった!?」だの、中には気が早すぎて「ベビー用品を買いに行く」と宣う輩までいる始末。
待て待て、あんたたち全員トップ芸能人でしょうが! コンプライアンスはどうしたのよ! スキャンダルで一発アウトよ!
事務所のチーフとして、この『諸悪の根源である男』の身元を徹底的に調査したところ、すべての矢印が、十年前、私が担当としてお世話をしていたあの伝説の主演子役――大河内駆くん(カケル)に繋がっていたの。
(駆くん、あなたも元芸能人ならコンプライアンスの重さは分かるでしょうに! 一体どんな手を使って、業界の女たちをまとめて洗脳したのよ!?)
私は怒り心頭で、あいつに直接会って問い詰めてやろうとした。だけど、あいつに接触するには、あいつが利用している【レンタル彼女】のサイトのキャストとして登録し、指名枠を奪うしかないという信じられない結論に至ったの。
ルールを破る奴を成敗するため、私は大人の書類作成能力(事務スキル)をフル活用して即座に登録を済ませ、チーフマネージャーの職権で駆くんの予約枠を強引に上書きしたわ。
そうして迎えた、ラウンジでの個別面談。
私はあいつの胸ぐら(ネクタイ)を掴む勢いで、「どんな悪いことをしたの!」と問い詰めたの。そしたら、駆くんは本当に涙目を浮かべて、自分がどれだけ外の女たち(うちのタレントたち)に振り回されて、怯えて逃げ回っているかという悲惨な現実を必死に訴えかけてきた。
データを照合しても、あいつの言葉に嘘はなかった。
つまり……詩織たちの方が、勝手にあいつの魅力に狂って、暴走して、おままごと(同盟)をしてただけだったのね。
「なーんだ、みんなの誤解だったのね」
そう分かって安心した瞬間、私のマネージャーとしての『審美眼』が、目の前の男の子の姿を捉えてフリーズした。
ちょっと待って。大河内駆くん……しばらく見ない間に、信じられないほどの極上イケメンに成長しているじゃない。
無駄のない洗練されたエスコートの所作、冷たいようでいて、私を気遣ってくれる優しい瞳。ボッチの一般人男子高校生のはずなのに、そこらのトップ俳優を瞬殺できるレベルの、圧倒的な『大人の男のオーラ』がドバドバと溢れ出ている。(グヘヘヘ、これは極上のダイヤの原石だわ……!)
ドクン、と胸の奥のコンプライアンス(理性)が、一瞬で大爆発した。
あんなの、私が放っておくわけがないじゃない。
もし駆くんをこのまま放置したら、詩織たちおバカなタレントたちが本当に理性を失って、スキャンダルを起こして芸能界が滅びてしまう。
(だったら、芸能界の平和を守るため(※建前)にも、私が駆くんの『本物の彼女(管理者)』になって、私の部屋で一晩中、徹底的にプライベートのコンプライアンス指導(お付き合い)をしてあげればいいのよね……?)
スマホを開くと、詩織たちが裏の同盟チャットで「次の枠は私が――」なんて見苦しい醜聞を繰り広げているのが見えるわ。
ふふ、マネージャーに逆らうなんて100年早いわよ。あなたたちのスキャンダル(予約枠)、私のチーフ権限ですべて『もみ消し(白紙化)』にしてあげる。
待っていなさい、私の可愛い駆くん。
これからは私の完璧なスケジュール管理(愛)で、あなたの心も身体も、すべて私だけのものにしてあげるからね――。




