第十八話裏話 鏡子視点
### 【第18話裏:新藤鏡子の独白】娘の身代わりのつづきが、私の本気の恋(執着)になるなんて
私は、人間の感情をカメラで切り取る映画監督。
夫亡き後、日本映画界の重鎮なんて呼ばれて、どんな修羅場も冷静に仕切ってきた自負がある。
それなのに、娘の未来が『将来の映画の取材のため』なんて言って、レンタル彼女のサイトに登録して男と会っているという保護者通知が私のスマホに届いた時は、流石に理性が吹き飛んだわ。
「若い男なんて全員ケダモノよ!」って、娘のスマホを力ずくで没収して、その生意気なリハビリ目的のリピート客に、大人の、そして母親としての恐ろしさを叩き込んでやるために待ち合わせ場所に向かったの。
――そこに座っていたのが、十年前、私たちがその才能に惚れ込み、そして結果として芸能界の荒波で心を壊してしまった、あの伝説の主演・大河内駆くん(カケル)だと知るまでは。
慌ててパニックを起こしている駆くんの顔を見た瞬間、私の中にあったのは、激しい後悔と、切ないほどの愛おしさだった。
あの子が芸能界を去った後、友達が0人のボッチになって、寂しくてこんなサイトを使っている。それは、十年前、まだ小さかったあの子を過酷な大人たちの利害関係から守りきれなかった、私たちの罪、大人の責任。
「……ごめんね、駆くん。寂しかったよね。今日だけは、私があなたの『彼女』として、あの日のすべてを甘やかしてあげる」
罪滅ぼしのつもりだった。ソファーの隣に座らせて、あの子の頭を優しく撫でてあげた時、私の胸の奥で、母親の義務なんてとうに消え失せて、一人の未亡人としてのクソデカい独占欲が首をもたげたの。あの子の髪の温かさ、私を頼るような潤んだ瞳。ああ、愛しい。この子を、私が一生守って、私の温もりだけで満たしてあげたい――。
だけど、あの子が何気なく見せた、指先の動き、空間の支配力、そしてレディファーストの洗練された所作(※毎週のレンカノで鍛えられた職人技)を目撃した瞬間、私の映画監督としての血が、恐怖するほどの歓喜で沸き立った。
(……化け物だわ。引退してボッチのくせに、あの子のポテンシャル、当時を遥かに凌駕して美しく仕上がっているじゃない……っ!?)
レンズを通さなくても分かる、圧倒的な主役のオーラ。
撮りたい。私のカメラで、世界で一番美しく、あの子のすべてを独占して撮影したい。
だけど、もし駆くんを芸能界に戻したら、白雪詩織ちゃんや、うちの娘(未来)みたいな若い泥棒猫たちが、一瞬であの子に群がって、またあの子の心を擦り減らしてしまう。それだけは絶対に許さない。
(だったら……私が、大人の財力と権力のすべてを使って、駆くんを私の『プライベートの専属主演(旦那様)』として、一生私の部屋に閉じ込めて、私だけのために笑わせればいいんじゃないかしら……?)
スマホを開くと、娘や城ヶ崎(脚本家)たちが裏で「カケルの次の予約枠」を巡って大騒ぎしているのが見える。
ふふ、娘の分際で、そして部下の分際で、総監督のこの私に出し抜き勝負を挑もうなんて100年早いわよ。あなたたちの予約枠、すべて私の職権乱用で白紙(上書き)にしてあげる。
待っていなさい、私の愛しい駆くん。
大人の女性の、そして未亡人監督の、誰よりも深くて逃げられない『究極の映画(愛)』で、あなたのこれからの人生を完璧にプロデュースしてあげるからね――。




