閑話が本題 駆の脚本家
「……はぁ。だから、俺は城ヶ崎先生にアドバイスなんて本当に1ミリもしてないって。何も教えてないよ。何もしてない」
学校の放課後。俺は、ヒット作を連発する天才脚本家の城ヶ崎マキ先生から、激しい尋問を受けていた。
先生はスランプ中、ママンの紹介で俺の働くカフェへ足を運んで以来、俺の何気ない一言で完全覚醒して新作を書き上げたらしい。だが、今度はその台本を演じる役者たちのレベルが追いついておらず、激しく頭を抱えていた。
「台本はできたのよ! でも演者たちが完全に力不足なの! みんな『高島先輩の後なんて役不足ですぅ〜』とか言って、プレッシャーでガタガタ震えて逃げ出していくのよ! フジテレビの先輩のネタじゃないんだから、役不足の意味を履き違えないでほしいわ!」
「いや、それは完全に力不足の方の意味で言葉を間違えてるね。でも、役者の実力が台本の格に追いつかないのは致命的だな……」
俺が真顔でツッコミを入れると、マキ先生は藁にもすがる思いで俺の手をギュッと握りしめてきた。
「お願いカケル、もう一度だけ私に力を貸して! あなたのその圧倒的な役者としての知恵が必要なの!」
「……はぁ。分かったよ。本当に一回だけ、ちょっとだけだよ?」
俺は元天才主演としてのお節介(※ただの台本の読み合わせのコツ)を教えるため、一回限りの特別講義を了承した。とはいえ、俺一人で教えても実際の舞台の感覚は伝わらない。そこで俺は、カフェの葵先輩や図書館のひよりちゃんたち【モブモブ同盟】のメンバーに協力してもらい、放課後の空き教室で「駆脚本の演劇」を実際にやってみせることにした。
「いい、城ヶ崎先生。作品っていうのは、話の内容だけで完結するものじゃないんだ。演劇のレベル、会場のレベル、そして客層……そういう外側の環境も含めて、しっかりとトータルでシミュレーションしてみてはどうかな?」
「……え?」
「まず、作品を取り巻くすべての『関係者』を深く知ることに、全力を注いでみてほしいんだ。そうすれば、どの役者にどんなアプローチをすれば台本が活きるのか、自然と見えてくるはずだよ」
俺がスッと先生の目を見つめ、これまでの修羅場で洗練された大人の余裕で優しく進言する。
ほんの少しの『特別指導』を経て、作品をトータルでプロデュースする本質的な知恵に気づかされたマキ先生は、目から鱗が落ちたように完全覚醒。スランプを完全に吹き飛ばし、
「素晴らしいわ、カケル! あなたの言う通り、まずは関係者を深く知ることから始めるわ! これで完璧なハッピーエンドね!」
と、これ以上ないほど綺麗な日常パートの空気でめでたしめでたし、と幕を閉じるはずだった。
――しかし。その聖なる教室のドアが、バガァァァン!! と凄まじい爆音を立てて蹴り破られた。
「ちょっと待ちなさいよ大河内駆!! 作品関係者を知るのが先決だと言うのなら、まずは私たち【出し抜き同盟】のことをもっと深く、隅々までよく知るべきよ! さあ、西園寺のリムジンに今すぐ乗り込みなさい!」
「カケルの初めてのプライベート指導のお相手は、この白雪詩織のはずです! あなたたち全員、職権乱用で駆くんを囲うのはコンプライアンス違反よ!」
「駆! 俺という大事な相棒を差し置いて、内緒で居残り補習なんてずるいぞ!」
「ぶっっっ!!!!???」
俺の放課後の密会情報をどこからか聞きつけた白雪詩織、西園寺麗華、蓮の面々が、完璧に目を血走らせて一斉に教室へなだれ込んできたのだ。
「私たちは駆くんのことを誰よりも深く知っているし、駆くんも私たちのすべてを理解するべきです!」と、ありとあらゆる歪んだクソデカ感情を引っ提げ、教室の中は一瞬で「誰が駆に一番知られるべきか」という大混乱の大乱闘へと発展した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただの脚本のアドバイスをしただけなのに、なんで学校の中で第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、所有権を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずの放課後は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発乱闘エンドで幕を閉じるのだった。




