第17話:俺の何気ない一言で、スランプの天才脚本家を完全覚醒させてしまった件
「……はぁ。もうあのファミレスには二度と近づかない。命からがら逃げ切れて本当に良かったぞ……」
総勢13名のプレデター(美少女軍団)による世界最終戦争から奇跡の自力脱出を果たした俺は、平穏を求めてバイト先である隠れ家カフェのカウンターに立っていた。
ここはあの8人(実家+古参)の監視の目も、新参の葵先輩たちの目も届かない、俺にとって唯一のセーフティエリアのはずだった。
――だが、その平穏は、窓際の席から響く凄まじいキーボードの打鍵音によって破られた。
ッターン!!!
ボサボサの黒髪を雑にクリップで留め、丸メガネをかけ、目の下にドス黒いクマを作った大人の女性。彼女は限界ギリギリの狂気を全身から漂わせながら、ノートPCに向かって髪をかきむしっていた。
「……あの、お客様、大丈夫ですか? お冷やのお代わりはいかが――」
「ああ、冴子の言った通り……コーヒーが喉を通らないわ……。もう駄目、私の作家生命はここで終わりよ……っ」
女性がガタッと丸メガネを歪ませて俺を見上げた瞬間、俺の記憶の引き出しが音を立てて開いた。
映画『友達100人』で、カケル(俺)のセリフのすべてを生み出し、その後も『友達100人VSプレデター』や『友達100人ニューヨークへ行く!』、そして最近ネットで大ヒットした『親友100人に絶好されて辺境に追放されたがお前と仲良くするつもりはないと言った100人が溺愛してきます!』を手掛けた**天才脚本家の城ヶ崎マキ**先生だった。
母・冴子さんの昔からの親友でもある先生は、カフェの机に突っ伏してボロボロと涙を流した。
「カケルくん……聞いて。最近、どうしても『100人の人間関係』が上手くまとまらないの。何を書いても嘘臭く見えちゃって、完全なスランプなのよ……」
映画の恩人のそんな姿を見て、俺はかつてボッチだった自分、そして今まさに13人に囲まれている実体験(胃もたれ)から出た、切実な本音をぽつりと口にしていた。
「城ヶ崎先生……。俺、映画が終わってから友達が0人のボッチになっちゃって、必死に『友達の作り方』を計算して悩んでた時期があったんです。でもね、気づいたんです。友達って、数のために作る打算(計算)じゃないんだなって」
「……え?」
先生が、涙に濡れた丸メガネの奥の目で、じっと俺を見つめる。
「友達って、お互いに都合の良い記号や数として扱うことじゃない。その人本来の、ダサいところも、間違ってるところも、ありのままのあるべき姿をただ認めることなんだって……。だから、先生の書く100人も、きっと無理に綺麗にまとめようとしなくていいんじゃないでしょうか」
それは、俺を都合よく囲い込もうとする13人への、俺なりの精一杯の抵抗の言葉でもあった。
しかし、その言葉を聞いた瞬間、城ヶ崎先生の目がカッと見開かれた。
「……それよ。それだわ、カケルくん……!!」
先生はガタガタと立ち上がると、凄まじいタイピング音を響かせ始めた。
「打算じゃない……あるべき姿を認める……! ああ、脳内で登場人物たちが勝手に動き出したわ! スランプなんて完全に吹き飛んだ! 天才のインスピレーションが、止まらないッ!!」
「よかった、お役に立てて――」と言いかけた俺の言葉は、先生の次のセリフで凍りついた。
「よし! この新しく湧き出た『最高傑作のリアルなラブコメシナリオ』を具現化するために、今すぐ【レンタル彼女】にキャスト登録するわ! そしてカケルくん、あなたをメイン被写体(指名相手)にして、現場での脚本作りの参考(リアル取材)にさせてもらうわね! ありがとう、最高の男!!」
「なんでそうなるんだよぉぉぉぉ!! 脚本の参考に俺を巻き込むなぁぁぁ!!」
俺の何気ない名言によって、スランプから完全覚醒した天才脚本家が、大人の執念とクリエイターの狂気を引っ提げて、レンタル彼女の指名争奪戦(修羅場)へと参戦を決定するのだった。




