第十六話裏話 駆視点
### 【第16話裏:大河内駆の独白】神様お願いだからファミレスの出店数を増やしてください
「……っ! 頼む、このまま、あと1時間だけこの平和を維持してくれ……!」
俺はファミレスのボックス席で、運ばれてきたドリアの湯気を見つめながら、心の底から神に祈りを捧げていた。
最近、学校の三上さん(ひより)やバイト先の葵先輩たちといる時間が妙に居心地が良くて癒やされていた俺は、「よし、今ならいける!」と精神の体力を回復させ、性懲りもなくマイナーサイトで一般人のレンタル彼女、優香ちゃん(※前回のトラウマを乗り越えて奇跡的に2回目のデートを承諾してくれた聖女)を引き当てていた。
「駆くん、ここのドリア美味しいね! 今日は変な人たち来ないといいね」
「あはは……そうだね、前回は本当にごめんね。今日は絶対に大丈夫だから、ゆっくり食べて!」
穏やかな会話、普通のランチ。これぞ求めていた至高の青春――。
チリンチリン。
「――だから、駆くんの今のメンタルデータ上、私たちモブモブ同盟が一番優位に立っているのは明白です。お姉さんたちの重すぎる愛は、駆くんの胃もたれの原因なんですよ」
「はぁ!? モブの分際で生意気よ! 駆の初めての保護権(姉特権)をナメないで!」
ガッシャーーーン!!(※俺の心の中で何かが派手に砕け散る音)
「嘘だろおいぃぃぃぃ!!!」
絶叫しそうになる口を、自分の両手で必死に塞ぐ。
ドリンクバーの方向から聞こえてきたのは、ひまり(義妹)の声と、麗華(お嬢様)の声。そして、最近新しくレンカノとして現れたはずの三上さんや葵先輩たちの声だった。
恐る恐る壁の隙間からパーティールームを覗き見る。
……いた。いたなんてレベルじゃない。
詩織たち古参5人、ママンたち実家3人、そして何故か手を組んでいる三上さんたちモブ5人。
**総勢13名のプレデター(美少女軍団)が、円卓をギチギチに囲んで凄まじい大音量の罵り合いを繰り広げていた。**
ファミレスの店員さんが恐怖で近づけず、遠巻きに涙目を浮かべている。
対面の優香ちゃんに視線を戻すと、彼女はスプーンを持ったまま、完全に魂が口から抜けかけた顔でガタガタと震えていた。
「か、駆くん……あの、あの部屋……前回の2倍以上に増殖して、完全に魔王軍の幹部会議みたいになってるんだけど……全員駆くんの名前叫んでるし、ガラスにヒビが入るレベルの殺気が……」
「ゆ、優香ちゃん、逃げて、今すぐ裏口から全力で逃げて!!」
「ごめんなさいもう限界です無理ぃぃぃぃ!!」
優香ちゃんは2度目の音速脱走を敢行。本当にごめん優香ちゃん、君のことは一生忘れない。
「よし、俺も今度こそ、あいつらが揉めてる隙に気配を消して――」
気配を遮断する『ステルス・ボッチスキル』を発動し、俺は床を這いつくばるようにして出口へと静かに移動を開始した。あと3メートルで自動ドア、いける――。
「――あら? 駆くん。そこで何をしているのかしら?」
頭上から、冷徹極まりない、だけど極上の甘さを孕んだ声が降ってきた。
見上げると、そこにはドリンクバーのトレイを持った白雪詩織が、ハイライトの一切消えた暗黒の瞳で俺を見下ろしていた。
「あ……詩織、ちゃん……。これは、その、床の小銭を拾ってて……」
「「「「「「「「「「「「カ・ケ・ル(くん・お兄ちゃん)♥」」」」」」」」決」
パーティールームの扉が勢いよく開き、13名の美少女・美女たちが、完璧な鬼の形相で一斉に俺の元へと殺到してきた。
ガシッ! ゴシッ! バシッ!
右腕をママンに、左腕を美夜お姉ちゃんに、両足を詩織と麗華にロックされ、退路をひまりのノートPCで物理的に遮断される。
友達0人のボッチ男子高校生・大河内駆は、総勢13名のクソデカ感情の爆心地で、今度こそ完全に、物理的にも精神的にも『捕獲』されるのだった。




