第二話裏話 麗華視点
### 【西園寺麗華の視点】あなたを完全にひれ伏せさせる、その日まで
西園寺財閥の令嬢として生まれた私は、幼い頃から「あなたが世界の中心」「望むものはすべて手に入って当然」だと教え込まれて育ってきた。
だから、映画『友達100人にできるかな?』のオーディションに参加した時も、当然のように私が主役に選ばれるものだと信じて疑っていなかった。親の権力、積まれた大金、そして私の完璧なお嬢様としての容姿。すべてが揃っていた。
――あいつの、あの演技を見るまでは。
オーディションのステージに立った大河内駆は、ボロ布のような衣装を纏っていたはずなのに、その瞳は、私が今まで見たどんな宝石よりも眩しく輝いていた。彼が声を張り上げ、感情を爆発させた瞬間、会場の空気が一瞬で支配されたのを肌で感じた。
言葉を失った。プライドを木端微塵に砕かれた。自分の完敗を認めざるを得ないほど、彼の才能は圧倒的で、そして美しかった。
初めての、敗北。悔しくて、悔しくて、生まれて初めて自室のベッドで夜通し泣いた。
同時に、私の胸にはドス黒いほどの執着と、激しい恋心が芽生えていた。
(私は西園寺麗華よ。あんな男に負けたまま、一生を終えるもんですか……!)
悔しさを原動力に、私は生まれて初めて「本気の努力」を知った。あいつの背中を追いかけたい。あいつの隣に並び、今度は私の演技であいつを圧倒し、ひれ伏せさせてやりたい。その一心で、私は芸を磨き続けた。
それなのに、あいつは突然、私にリベンジの機会すら与えずに芸能界を引退してしまった。勝手に私の前から消え去ったあいつを、私はずっと憎み、そして焦がれていた。
そんな折、あいつが一般人のフリをして、コソコソとレンタル彼女を漁っているという情報が耳に入った。
庶民の男を手のひらで転がす『完璧な彼女』の役作りという大義名分を引っ提げて、私は即座にキャストとして登録し、あいつを指名枠で釣り上げた。
高級ホテルのラウンジカフェで再会したあいつは、相変わらずパッとしない風貌で、死んだ魚のような目をしていた。
「フン、芸能界から逃げ出した負け犬のあなたを引くなんてね!」と吐き捨ててやったけれど、本当は、心臓が今にも口から飛び出しそうなほど高鳴っていた。
だけど、いざデートが始まってみれば、あいつは無自覚にスマートに私をエスコートしてくるのだ。メニューをそっと私の方へ差し向けたり、歩幅を自然に私に合わせてくれたり。
引退してボッチになったくせに、元天才子役としての身のこなしや気遣いが身体に染み付いている。
(くっ……! まだ、私との実力差を感じるじゃない……!)
あいつのちょっとした優しさに、私の心臓はドクドクと脈打ち、顔が熱くなってまともに目も見られなくなる。完璧な彼女を演じて落とすはずが、完全に私の方が翻弄されている。
でも、私は絶対に諦めない。見てなさいカケル。次は絶対にあなたを私に依存させて、今度こそ私の勝利を認めさせてみせるんだから!




