第2話:あなたに勝つため、私は『彼女』を完璧に演じる
「もう無理。女の子怖い」
数日後。俺は前回のデート(という名の、詩織による重すぎる愛の説得)による精神的疲労から、早くもベッドへ沈没していた。
幼馴染の愛が強すぎて、普通の『女の子とお喋りするリハビリ』にならなかったのだ。
「次こそは……次こそは普通の、俺のことを知らない女の子と、穏やかなデートをするんだ……!」
俺は涙目でスマホを操作し、別のレンタル彼女のサイトを開いた。
レビュー欄を熟読し、一番『清楚で、お淑やかで、お話を聞くのが上手』と評判のキャストを指名。これなら安心なはずだ。
デート当日。高級ホテルのラウンジカフェ。
少し背伸びした場所を指定され、緊張しながら待っていると、カツカツとヒールの音が響いた。
「お待たせいたしましたわ。あなたが今日の契約相手ね?」
現れたのは、縦ロールの一歩手前のような美しいウェーブ髪をなびかせた、いかにも「お嬢様」といった雰囲気の美少女。
仕立ての良いワンピースを着こなし、気品に溢れている。よし、今度こそ普通の女の子――。
「……って、ちょっと待ちなさいよ。そのパッとしない顔、死んだ魚のような目、頼りないキャットウォーク……。間違いないわ、カケル……!」
「ぶっ!?」
女の子は俺の顔を見るなり、目をカッと見開いて指を突きつけてきた。
その勝ち気な声、そして俺をライバル視するような鋭い視線。
「お前……西園寺麗華!?」
「ふん、私の高貴な名前を覚えていただけ光栄に思いなさい!」
彼女は『友達100人ザ・ムービー』の筆頭スポンサー、西園寺財閥の令嬢だった。
当時は子役としても活動しており、親の権力で自分が主役になるはずだったのが、オーディションで俺の圧倒的な演技力の前に敗れ、準主役に甘んじたという過去を持つ。
「なんでスポンサーのお嬢様がレンタル彼女なんてやってるんだよ!?」
「失礼ね! 次に出演する映画の役作りよ! 庶民の男を手のひらで転がす『完璧な彼女』の経験を積むために、たまたま登録したら……まさか、芸能界から逃げ出した負け犬のあなたを引くなんてね!」
フン、と顎を上げる麗華。しかし、その頬はほんのりと赤くなっている。
実は彼女、当時は俺の演技力に圧倒され、悔しさと同時に、誰よりも俺のファンになってしまっていたツンデレお嬢様だった。
「いいこと? 今日は私が『完璧な彼女』として、あなたを完全に依存させてあげるわ。……さあ、エスコートなさい!」
完璧な彼女を演じようとするものの、俺のふとした気遣いに「な、生意気よ……!」と勝手に赤面して自爆していく麗華。
俺のリハビリデートは、なぜか元ライバルお嬢様との「プライドをかけた演技バトル」へと変貌を遂げていた。




