閑話が本題 駆の買い食い
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
学校の包囲網をなんとかやり過ごしていたある日の放課後。俺は、他校に通う地味子である三上ひよりちゃんから、深刻な顔で裏に呼び出されていた。
話を聞くと、映画『友達100人』で元共演者だった我が校の風紀委員――名取正美ちゃんが、根が真面目すぎるがゆえに最近学校の級友から避けられ気味になり、人知れず深く悩んでいるらしい。先日、街でばったり再会したひよりちゃんに「私、嫌われちゃったみたい……」と涙ながらに愚痴をこぼしていたのだという。
「……駆くん。正美ちゃん、本当はすごく真っ直ぐで優しい子なの。どうにか力になってあげられないかな……?」
心配そうに胸を痛めるひよりちゃんの手を取り、俺は少し考えてから、一つの作戦を進言した。
「それじゃさ、今度の放課後、ひよりちゃんも一緒に3人で『買い食い』に行かない? 少しだけ悪いことを経験させて、何をどう注意したら煙たがられないかを、身をもって体験させてあげるんだよ」
そして迎えた放課後。駅前の商店街の路地裏。
「大河内駆……! あなた、ひよりに呼び出されたと思ったら、よりによって私をこんな不純異性交遊の場(買い食い)に誘うなんて、一体どういうつもりなのよ!?」
腕章を巻いたいつもの制服姿のまま、顔を真っ赤にして怒鳴ってくる名取さん。
「名取さん、まあ落ち着いて。ほら、せっかくの放課後なんだから、今日は風紀のルールを忘れて、買い食いを楽しもうよ」
俺はひよりちゃんと顔を見合わせ、苦笑しながらも手慣れたエスコートで彼女をリードした。ほかほかのコロッケや甘いクレープを買い、3人で並んで歩きながらパクリと口に運ぶ。
「……あ。何これ、すごく美味しいわ。……それに、お店の人にお行儀が悪いって怒られると思ったのに、笑顔で『たくさんお食べ』って言われちゃった……」
「そうだよ、名取さん。ルールを守るのも大事だけど、周囲の空気を柔らかく受け入れるのも大切なんだ。頭ごなしに『校則違反です!』って取り締まるんじゃなくて、『危ないから気をつけてね』って優しく声をかければ、きっと誰も嫌煙したりしないよ」
俺がスッと名取さんの目を見つめ、これまでの修羅場で洗練された大人の余裕で優しく諭す。
ほんの少しの『悪い買い食い』を経験し、人との正しい距離感を身をもって体験した名取さんは、憑き物が落ちたようなさわやかな笑顔を取り戻し、無事にいつもの真っ直ぐで優しい彼女へと戻ることができた。
――そして、後日の学校の教室。
放課後の無人の教室で、俺はひよりちゃんから、名取さんが無事に学校のみんなと元の明るい関係に戻れたという、めでたしめでたしな和解報告を受けていた。
「駆くん、本当にありがとう。正美ちゃん、今日からまたみんなに信頼される風紀委員として、笑顔で頑張るって言ってたよ」
「そっか、よかった。力になれて本当に嬉しいよ、ひよりちゃん」
2人で穏やかに微笑み合い、これ以上ないほど綺麗な日常の空気で閑話が幕を閉じるはずだった。
――しかし。その聖なる教室のドアが、バガァァァン!! と凄まじい爆音を立てて蹴り破られた。
「ちょっと待ちなさいよ大河内駆!! 私たちに黙って放課後の教室で2人きりで密会して、一体どんな破廉恥な『和解報告』を繰り広げているのよ!?」
「カケルの放課後の教室のお相手は、この白雪詩織のはずです! あなたたち、裏でこっそり商店街で買い食いデートまでしていたそうですね!?」
「駆! 俺という大事な相棒を差し置いて、内緒で女子2人と食べ歩きなんてずるいぞ!」
「ぶっっっ!!!!???」
俺たちの放課後の買い食いデートおよび和解報告の情報をどこからか聞きつけた白雪詩織、西園寺麗華、蓮の【出し抜き同盟】の面々が、完璧に目を血走らせて一斉に教室へなだれ込んできたのだ。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただの相談に乗ってコロッケを食べた報告を聞いていただけなのに、なんで教室の中で第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉまいっちんぐ!!!!」
俺の切実な絶叫は、所有権を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずの放課後は、結局いつも通りのカオスな大爆発乱闘エンドで幕を閉じるのだった。




