第十五話裏話 正美視点
### 【第15話裏:名取正美の独白】私はあいつを逮捕(更生)するはずだったのに、あんなの惚れちゃうじゃない……!
私は、曲がったことが大嫌い。映画『友達100人』に出演した時も、いじめられっ子を助ける正義感の強い女の子の役だったし、現実でも風紀委員を務めるくらい、ルールや倫理に厳しい人間だと自負している。
だから、街中でたまたま元主演の大河内駆くんを見かけた時、私は我が目を疑ったわ。
あいつ、ある日は国民的女優の白雪さんと親密そうに歩き、またある日は西園寺財閥のお嬢様を侍らせ、果ては男装のクラスメイトまで女の子の格好をさせて連れ回している。
(元天才子役の肩書きを使って、女の子の心を弄ぶなんて……絶対に許せない、女性の敵だわ!)
さらに決定的な現場を目撃してしまった。あいつ、飲食店で、すっごく綺麗な大人の女性(冴子さん)にお会計を全額払わせて、自分はのんきにごちそうさまなんて言っているの。
確信したわ。あいつ、自分の若さと才能の残滓を使って、大人の女性から純真な女の子まで、みんなを都合の良いお財布(貢ぎ手)にしているんだわ!
私は元共演者として、人としてあいつを更生させるために、街中で単独で突撃した。
「大河内駆! あなた、自分のやってる汚いことが恥ずかしくないの!?」って。
そうしたら、周りにいた白雪さんたちが、恐ろしい目をしてあいつを庇い、私を敵として排除しようとしてきたの。あの子たちの目は、完全に正気じゃなかった。
(な、何よこれ……! あいつ、あの子たちの心をすっかり魅了して、盲信的に操っている(洗脳している)んだわ! 恐ろしい男……!)
私は確固たる証拠を掴んであの子たちの目を覚まさせなきゃという、強い使命感(正義感)に燃えた。あいつの生態を暴くための『潜入捜査』として、駆くんが使っているレンタル彼女のサイトにキャスト登録し、執念のリサーチで指名枠を奪い取った。
「今日こそ、その汚い悪の組織のボスの化けの皮を剥いでやるんだから!」
そう意気込んで、ホテルのティーラウンジに向かった。
待ち合わせ場所にいた駆くんは、私の顔を見るなり「はぁ……」ってひどく疲れ切ったため息をついた。やっぱり、悪事がバレて怯えているのね、と思っていたのに。
――そう、思っていたのに。
「……名取さんさ、とりあえず座って。周囲の目が集まるから大声を出さない」
あいつが気怠げに、だけど椅子をスッと引いて私を座らせた瞬間、ラウンジの空気が一変した。
声のトーン、視線の配り方、流れるような無駄のないエスコート。
悪党のコソコソした雰囲気なんて微塵もない。そこにいたのは、本物のヤンデレや百戦錬磨のお嬢様たちを相手に、修羅場を生き抜いてきた男だけが持つ、圧倒的に洗練された『大人の男の余裕』だった。
「君、いじめられっ子を助ける正義の味方役だったよね。今もこうして、周りの子のために単独でここまで潜入する行動力がある。それ、本当にすごいよ。ほら、冷める前に飲みな」
突き放すような、ぶっきらぼうな塩対応。
なのに、注がれた紅茶の温度は完璧で、私の歪んだ正義感を、あいつは無自覚に、もの凄くスマートな言葉で優しく救い上げてくれた。
ドクン、と胸の奥が激しく跳ね上がった。
(な、何これ……格好よすぎるじゃない……っ!! 洗脳されてるんじゃなくて、みんなあいつのこの魅力に、自ら溺れに行ってるんだわ……!)
あんなの、惚れちゃうに決まっている。
悪党を成敗するついでに雑に扱うつもりが、完全に私の方が、あいつの底知れない『大人の男の魅力』に一瞬でひれ伏せさせられてしまった。これがミイラ取りってやつなの……!?
「……駆くん。私、潜入捜査、やめる」
「え? なんで?」
「あなたのその……不器用で、でも冷たいのに優しい、底が知れないところを、もっと近くで監視(独占)したくなったから。これからは私の正義の力を使って、毎週あなたを指名してあげるわ! だから……お外の悪い女たちに騙されないように、私だけの特別な『被疑者(恋人)』になりなさいよ……!」
顔を真っ真っ赤にしながら、震える声でそう宣言する。
悪を成敗するはずだった私の退屈な人生に、大河内駆という名の、最高に危険で魅力的な劇薬が、完璧に注ぎ込まれてしまったのだった――。




