第十四話裏話 美咲視点
### 【第14話裏:星野美咲の独白】最初はただの偵察だったのに、あんなの惚れちゃうじゃない……!
私は、自分の才能の限界を知っている。
映画『友達100人』に出演した時は、同じ事務所の葵と一緒に「頑張ろうね」って笑い合っていたけれど、周りの白雪詩織ちゃんたちの本物の天才っぷりを見て、すぐに心が折れちゃった。家はある程度裕福だから生活には困らないけれど、高校、大学を卒業したら、この冴えない女優業にも幕を閉じて、普通に就職しようって、半ば諦めて消化試合の日々を送っていた。
それなのに、親友の葵が、最近急に変わったの。
少し前までお金がなくて死にそうな顔をしてたクセに、ここ数週間、まるで何かのヒロインに抜擢されたみたいに全身からやる気とオーラをみなぎらせて、毎日キラキラと輝いている。
(絶対に何かある。葵にそこまでの影響を与えられる人間なんて、業界広しといえど……)
私は原因を突き止めるため、葵が働くカフェにトレンチコートとサングラスで『客(偵察)』として潜入した。
そこで、私は見てしまった。カウンターの奥で、気怠げに、だけど完璧に美しい所作でコーヒーを淹れている、あの映画の伝説の主演――大河内駆くん(カケルくん)の姿を。
「やっぱり……! あのカケルくんが、裏で葵に秘密の演技指導をしてるんだわ!」
そう確信した私は、葵がいない隙を狙って駆くんに単独で接触した。
だけど、あいつは「はぁ? 営業妨害だから帰って」って、私のことをただの変質者扱いして、冷たくあしらってきたの。
(見当違い……? じゃあ、葵が週末に『割の良い仕事を見つけた』って嬉しそうに出かけていくのは何なのよ。……あ、レンタル彼女!?)
あいつの言葉の端々から情報を繋ぎ合わせた私は、すべてを誤解した。
駆くんが裏で怪しいレンカノサイトの紹介屋をやっていて、葵はそこで大金を稼いでるんだわ! と。
私は真実を暴くため、そして親友を怪しい沼から救い出すため(という大義名分を掲げて)、即座にそのレンタル彼女サイトにキャストとして登録し、執念のデジタルリサーチで駆くんの指名枠を奪い取った。
「今日こそ、そのパッとしないボッチの化けの皮を剥いでやるんだから!」
そう意気込んで、ホテルのティーラウンジに向かった。
待ち合わせ場所にいた駆くんは、私の顔を見るなり「ゲェェェーッ!」ってひどい顔をした。やっぱりカフェの時と同じ、冴えないコミュ障のボッチ男子――。
――そう、思っていたのに。
「……はぁ。美咲ちゃんさ、とりあえず座って。周囲の目が集まるから大声を出さない」
あいつがため息をつきながら、椅子をスッと引いて私を座らせた瞬間、ラウンジの空気が一変した。
声のトーン、視線の配り方、流れるような無駄のないエスコート。
カフェの時の頼りない雰囲気なんて微塵もない。そこにいたのは、本物のヤンデレや百戦錬磨のお嬢様たちを相手に、修羅場を生き抜いてきた男だけが持つ、圧倒的に洗練された『大人の男の余裕』だった。
「すみません、アールグレイを二つ。……君、女優の才能がないって悩んでるみたいだけど、それ、立派な表現者の才能だよ。ほら、冷める前に飲みな」
冷ややかな、突き放すような雑な扱い。
なのに、注がれた紅茶の温度は完璧で、私の歪んだ劣等感を、あいつは無自覚に、もの凄くスマートな言葉で優しく救い上げてくれた。
ドクン、と胸の奥が跳ね上がった。
(な、何これ……格好よすぎるじゃない……っ!!)
あんなの、惚れちゃうに決まっている。
ボッチの一般人だと思って雑に扱うつもりが、完全に私の方が、あいつの底知れない『大人の男の魅力』に一瞬でひれ伏せさせられてしまった。
葵が輝きを取り戻した本当の理由。それは怪しい裏バイトなんかじゃない。
こんなに格好よくて、優しくて、底が知れない男の子がすぐ近くにいたからなんだ。
「……駆くん。私、就職するの、やめる」
「え? なんで?」
「あなたに割の合わない雑な扱いをされるの、なんか……すごくドキドキするから。これからは私の実家の資産を使って、毎週あなたを逆指名してあげるわ! だから……私だけの、特別な『お出かけの相手』になりなさいよ……!」
顔を真っ真っ赤にしながら、震える声でそう宣言する。
諦めかけていた私の退屈な人生に、大河内駆という名の、最高に危険で魅力的な劇薬が、完璧に注ぎ込まれてしまったのだった――。




