第14話:俺は何も指導してないし、雑に扱ったのになんでときめいてるの!?
葵先輩の借金を肩代わりし、まさかのレンタル彼女として再会した激動のデートから数日。
俺が働く隠れ家カフェには、最近、明らかに怪しい『不審者』が頻繁に出没していた。
トレンチコートの襟を立て、大きなサングラスに帽子を深く被った女子大生。彼女はカウンターの端の席陣取り、怪しいノートに何かを書き殴りながら、俺と葵先輩の動きをじっと凝視しているのだ。
「……あいつ、絶対に変質者かストーカーだろ。葵先輩、気をつけ――」
「あ! 駆くん、ちょっとごめん! 次のオーディションの台本読み込んでくる!」
今の葵先輩は、借金が消えて夢に100%集中できるようになったため、信じられないほどの覇気とやる気に満ち溢れていた。輝くような笑顔でバックヤードへ走っていく先輩を見送りつつ、俺はため息をつく。
(いいなぁ、先輩。あんなに夢に向かってキラキラできて……。それに比べて俺は、今週末もどの泥棒猫に捕まるかビクビクして……ん?)
気づけば、あの不審者(サングラス女子)が、目の前に音もなく立ちはだかっていた。
彼女はサングラスをバッと外すと、俺の胸ぐらを掴む勢いで顔を近づけてきた。
「見つけたわ、元天才子役のカケルくん……! 白状しなさい。葵が最近、急に神がかったやる気を見せて輝き出したのは、裏であなたが『演技指導』をしてるからでしょ!?」
「はぁ!? 誰ですかあなた! 違いますけど!?」
よく見ると、彼女は映画『友達100人』で、葵先輩と同じプロダクションの「モブのクラスメイト役」を演じていた、元共演者の星野美咲ちゃんだった。実家がある程度裕福なため、葵先輩のようにバイトに追われてはいないが、才能の限界を感じて「高校、大学を卒業したら女優を辞めて就職しよう」と諦めモードに入っていたらしい。
「嘘よ! じゃあなんで葵はあんなに嬉しそうにバイトして、週末も『割の良い仕事がある』って出かけていくのよ! ……あ、そうか! 演技指導じゃなくて、あなた、裏で『レンタル彼女』のサクラか何かをやって、葵をそっちに紹介したのね!?」
「全部見当違いだよ! もう営業妨害だから帰って!」
俺があまりにも雑に塩対応したため、美咲ちゃんは「チッ、こうなったら自分で確かめるわ!」と捨て台詞を吐いて去っていった。
そして週末。
俺は実家連合の厳しい監視の目をかいくぐり、今度こそ普通の女の子を求めてマイナーサイトでキャストを予約した。
高級ホテルのティーラウンジ。緊張しながら待っていると、カツカツとヒールの音が近づいてくる。
「お待たせいたしました、指名のお客様。……って、やっぱりあなたじゃない!!」
「ゲェェェーッ!? カフェの不審者!?」
現れたレンタル彼女は、まさかの星野美咲ちゃんだった。俺の予測ルートを執念で割り出し、キャスト登録してマッチングを勝ち取ったらしい。
「いい、カケルくん。観念して葵の秘密を吐きなさい!」と息巻く美咲ちゃん。
しかし、ここまでの数週間、本物のヤンデレや狂気的なお姉様方に揉まれ続けてきた俺の『レンタル彼女スキル』は、すでに達人の領域(職人技)に達していた。
「……はぁ。美咲ちゃんさ、とりあえず座って。周囲の目が集まるから大声を出さない。はい、メニュー。紅茶でいい? すみません、アールグレイを二つ」
「えっ? あ、うん……」
「君、女優の才能がないって悩んでるみたいだけど、今もこうして葵先輩の異変を察知して、単独でここまで潜入する行動力と『観察眼』がある。それ、立派な表現者の才能だよ。……ほら、冷める前に飲みな」
俺としては、これ以上騒がれて他のヒロインに見つかったら人生が終わるので、**「とにかく穏便に、事務的に、手慣れた大人の対応」**で彼女をあしらっただけだった。
しかし、俺が雑にお茶を注ぎ、冷ややかな、だけど洗練された大人の気遣いを見せた瞬間。
美咲ちゃんは「ひゃいっ……!」と小さな悲鳴を上げて顔を真っ真っ赤に染め、借りてきた猫のように大人しくなってしまったのだ。
「(……な、何よこれ。カフェの時はあんなにパッとしないボッチ男子高校生だったのに……デートになった瞬間、何この圧倒的なレディファーストと、余裕のある大人の男のオーラは……っ!?)」
俺がこれまでのトラウマのせいで『レンカノ対応』に慣れすぎていただけなのだが、諦めモードだった元モブ共演者の心に、まさかの角度からガチ恋の火を付けてしまうのだった。




