第十三話裏話 葵視点
### 【第13話裏:橘葵の独白】数千万円で夢を救われた元モブ。返済方法は……私の全部でいいですか?
大河内駆くん――あの伝説の映画『友達100人』で主演だった、天才カケルくん。
当時、オーディションの端役(いじめっ子役のモブ)だった私にとって、彼は雲の上の存在だった。
だから、親の病気のせいで学費と借金に追われ、ボロボロになりながら働いていた私のカフェのバイト先に、あいつが新人として入ってきた時は、正直神様のいたずらだと思った。
しかも、芸能界で傷ついて引退したあいつは、友達が0人のボッチになっていて、仕事も何もできない不器用な男の子になっていたの。
(ふふん、あの天才カケルくんに、この私が仕事を教えてあげてる……!)
最初は、そんなちっぽけな優越感だった。コーヒーの淹れ方を教えて「橘先輩、すごいです!」って素直に尊敬の目を向けてくる駆くんが、たまらなく可愛くて、毎日のバイトが私の唯一の生きがいになっていった。
だけど、現実の神様は残酷だった。
父親の病状が悪化し、莫大な治療費と借金が私の肩にドスンと伸しかかってきた。学校も、この大好きなカフェも、そして何より幼い頃から追い続けてきた『女優』の夢も、すべて諦めて、夜の街で身を粉にして働くしかない。そう覚悟を決めて、駆くんに涙を隠しながら別れを告げたの。
そうしたら、あいつ、なんて言ったと思う?
『橘先輩の夢を、そんな理由で終わらせちゃダメだ。俺、子役時代の貯金が数億円あるんだ。レンカノに使うのはダメだって母さんに怒られたけど、仲間の夢を救うためなら、母さんも絶対に許してくれる。……だから、使って』
……嘘でしょう?
あいつは本当に、私の数千万円の借金と治療費を、その日のうちに一括で全部ぽんと払って、私の世界を絶望のどん底から救い出してくれたの。
「一生かけて、少しずつ返すから……!」って泣きじゃくる私に、駆くんはいつも通りの優しい笑顔で「うん、先輩の活躍、楽しみにしてるよ」って。
格好よすぎるよ、バカ駆。
あの日、私の心は、ちっぽけな優越感なんてとっくに消え去って、あいつへの底なしの愛と、クソデカい執着で完全に塗りつぶされちゃった。
お金は、這いつくばってでも最短で返したい。でも、それ以上に、あいつの側にいるための口実が欲しい。
私は女優業のコネを使い、業界で「短時間で驚くほど割が良い」と噂の、審査が超厳しい『最上級レンタル彼女』のサイトに即座に登録した。
ここでトップキャストになれば、駆くんに早くお金を返せるし、あいつへの恩返しにもなる。
そうして、初めての指名が入った週末。
「早く稼いで、駆くんに――」と思ってデート場所のラウンジに行ったら、そこに座っていたのは、私を数億円で救ってくれた、世界で一番大好きな『大河内駆くん』だった。
あいつ、私の地味な宣材写真に気づかずに、お外の泥棒猫たちから逃れるために、必死で私を指名してくれたんだ。
「え……!? 橘先輩……っ!? なんで君がレンタル彼女に!?」
驚きで顎が外れそうになってる駆くんを見て、私の心臓はドクドクと愛おしさで破裂しそうになった。
「ふ、ふん、偶然ね、駆くん。でも好都合だわ。……いい? 今日から私は、あなたの『レンタル彼女』よ。デート代は……私の借金から、一回につき1万円ずつ相殺してあげる。だから、これからは毎週、私だけを指名しなさい。お外の女の人にお金を払うなんて、この私が絶対に許さないんだから!」
数億円の借金。一生かかっても返しきれないほどの、命の恩。
返済方法は、私の一生と、私の身体と、私のすべての愛(執着)でいいですか?
元モブ女優先輩による、あまりにも重すぎる「恩返し(ガチ恋)」のレンタル彼女デートが、今、幕を開けるのだった――。




