第13話:俺の貯金(数千万円)の正しい使い方、そして再会したレンタル彼女
「駆くん。子役時代にあなたが築いた巨額の資産(数千万円)だけど……それをレンタル彼女代につぎ込むのは、男としてどうなのかしら?」
リビングで、母の冴子さんから正論のド直球を突きつけられた。
確かにそうだ。寂しいからといって、過去の貯金を切り崩してレンカノに貢ぐのは不健全極まりない。
「分かった。俺、自分でアルバイトして、その稼いだお金で普通の女の子とデートするよ!」
そう決意した俺は、まず手始めに周囲のヒロインたちに「おすすめのバイトないかな?」と相談してみたのだが――それが間違いだった。
詩織は「バイトなんてしなくていいよ。私が一生養ってあげるから、私の専用ペット(奴隷)になって?」と目を濁らせ、麗華は「西園寺のグループ企業の役員ポストを用意してあげるわ!」と豪語し、家では美夜お姉ちゃんが「私のヒモになりなさい」と迫ってくる。
「だめだこの女たち……話にならない!」
俺は恐怖で彼女たちから全力で逃走した。
息を切らしながら逃げ込んだのは、細い路地の奥にある、静かで隠れ家的なお洒落なカフェだった。一息つき、ふと入り口を見ると【アルバイト募集】の張り紙が。
ここならあの8人の監視の目も届かないはず。俺は即座に応募し、働くことを決意した。
そしてバイト初日。
「今日から新人の指導を担当する、橘葵です。……って、えええええっ!? カ、カケルくん!?」
「あ、あの時の……モブのいじめっ子役だった、橘さん!?」
なんと、指導役の先輩は、学費を自分で稼ぎながら売れない女優業を続ける元共演者の葵さん(仮名)だった。
彼女は、かつて日本中を感動させた元天才主演子役の俺に、コーヒーの淹れ方や接客を一から教えることに、何故かもの凄くドヤ顔で優越感を感じているようだった。
「いい、カケルくん? 芸能界ではあなたが上だったかもしれないけど、カフェでは私が先輩なんだからね!」
「はい、橘先輩!」
そんな、今までにない『普通の、対等な先輩後輩』としてのバイト生活は、俺のすり減った心を大いに癒やしてくれた。
しかし、数週間が経ったある日。葵先輩の顔が、目に見えて沈んでいた。
心配になって理由を尋ねると、彼女は今にも泣き出しそうな顔でぽつりぽつりと打ち明けてくれた。
実は親が重い病気で借金があり、さらに治療費がかさむため、学校も、このバイトも、大好きな女優業もすべて諦めて、夜の仕事などで本格的に働かなくてはならないかもしれない、と。
夢を諦めかけている、かつての仲間の姿。
俺の脳裏に、母・冴子さんの言葉が蘇る。
(そうだ……レンカノ代に過去の資金を出すのは違う。だけど、仲間の夢や家族の命を助けるために、あの数千万円を使うのは、絶対に正しい!!)
俺は必死に母・冴子さんを説得し、「これは投資であり、仲間の夢を守るためだ」と納得させ、葵先輩の親の治療費と借金をすべて一括で肩代わり(返済)してあげた。
葵先輩は泣いて感謝し、「駆くん、私、一生かけて少しずつあなたにこのお金を返すから。絶対に女優としても成功してみせるから!」と強い目で約束してくれた。
それからしばらくして、葵先輩は「手っ取り早く、かつ割のいいバイトを見つけたの。これで駆くんに早くお金を返せるわ!」と嬉しそうに言っていた。
そして週末。
「よし、バイト代も入ったし、あの8人にバレないように、超最新のマイナーサイトで『普通の女の子』を指名するぞ!」
俺はワクワクしながら、お洒落なホテルのラウンジで待っていた。
コンコン。
「お待たせいたしました、指名のお客様。……って、えええええええっ!? 駆くん!?!?」
「橘先輩ぃぃぃぃ!?!? なんでレンタル彼女にいるんだよ!!」
驚きでひっくり返る俺の前で、葵先輩は顔を真っ赤にしてフリーズした。
せっかく自分の力で稼いだバイト代で頼んだレンタル彼女が、まさかの借金を肩代わりしたバイト先の先輩という、前代未聞のマッチングに、俺の脳処理は本日も完全に限界を迎えるのだった。




