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第十二話裏話 涼香視点

### 【第12話裏:一ノ瀬涼香の独白】盲点だったわ。カケルくんと結婚すれば……!


私の人生の神様、それは大河内冴子先生。ただ一人。

あの映画『友達100人』の現場で、演技のイロハを教えてくれた大人の女性。凛としていて、美しくて、お茶目で、優しくて……。あの日から私のすべての行動原理は「冴子先生に褒められたい」にすり替わっていたの。


だから、たまたま引き受けた家庭教師のアルバイト先で、冴子先生が再婚して大河内家のお母さんになっているのを知った時は、心臓が停止するかと思った。

しかも、生徒である大河内駆くんが、あの時の主演の『カケルくん』だったなんて。


最初は、ただの冴子先生の情報源としか思っていなかった。

男の子なんてうるさくて野蛮で、私の崇拝する世界には必要ない存在だと思っていたから。


だけど、家庭教師として毎日あいつの隣で勉強を教えているうちに……少しだけ、本当に少しだけ、カケルくんに対する見方が変わっていったの。


あいつ、天才子役って騒がれてたくせに、全然威張らない。それどころか、私が冴子先生の話ばかりして授業を脱線させても、「一ノ瀬さん、本当に母さんのこと大好きなんだね」って、優しく笑って私の好みの緑茶を淹れてくれたりする。私の厳しい熱血指導にも、驚異的な才能(集中力)で必死にしがみついてきて、数週間で完璧に合格点を取ってみせた。


(カケルくんって……不器用だけど、すごく素直で、気遣いができる、格好いい男の子……じゃない?)


気がつけば、私のカメラロールは冴子先生の写真の隙間に、少しずつカケルくんの勉強中の横顔が増えていた。

それなのに、あいつの才能が凄すぎるせいで、たった数週間で成績が戻って家庭教師をクビになっちゃうなんて。


「まだカケルくんと離れたくない……。あ、じゃなくて、冴子先生の情報を聞き出せてないのに……っ!」


私は、あいつが授業中に漏らしていた『レンタル彼女』の噂を頼りに、即座にキャスト登録を済ませた。レンタル彼女としてあいつを指名すれば、またあの不器用で可愛い笑顔を、私の特等席で独占できる。


登録が完了したスマホの画面を眺めながら、私はベッドの上でゴロゴロと転がっていた。

どうやってあいつから冴子先生の情報を引き出そうか。どうやって、あいつを私の虜にしようか。

そんなことをぐるぐると考えていた、その時。


私の脳細胞に、電流のような、凄まじい閃き(コペルニクス的転回)が走った。


「……あれ? 待って。私、レンタル彼女から始まって、カケルくんとこのまま付き合って、結婚したら……」


ゴクリ、と唾を飲み込む。


「冴子先生が……私の、本当の、義理の母親(ママン)』になるんじゃないの……!?!?!?」


世界が、反転した。

カケルくんを私の旦那さんにすれば、憧れの冴子先生と同じ大河内家に入籍できて、毎日「お義母様(ママン)」って呼べて、一生同じ屋根の下で暮らせる。しかも、カケルくん自身も最近ちょっと可愛いと思い始めていたところ。


「完璧……完璧なプロットだわ、一ノ瀬涼香……っ!」


私は鼻息を荒くしながら、スマホの『カケル指名最優先モード』のスイッチをオンにした。

ターゲットは、元主演の大河内駆。

動機はママンへの崇拝、だけど中身は駆くんへの猛烈なガチ恋アタック(※勘違い)。


「待っていなさい、私の可愛い駆くん(と、未来のお義母様)! 私の完璧な教育(愛)で、今度こそあなたを逃げられないようにしてあげるんだから!」


先輩ヒロインによる、斜め上のクソデカ感情(暴走)を孕んだレンタル彼女デートが、今、幕を開けようとしていた――。

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