第十一話裏話 ひより目線
### 【第11話裏:三上ひよりの独白】一般人のあなたなら、私でも隣に立てますか?
大河内駆くん――あの日、映画の現場で眩しく輝いていた『カケルくん』は、私の、生涯で最初の初恋の人だった。
オーディション最下位合格。演技の才能なんて欠片もなくて、毎日現場で泣いていたモブの私。
白雪詩織ちゃんや西園寺麗華さんのような、輝く太陽みたいな天才美少女たちに囲まれて、いつも真ん中で笑っていたカケルくん。
私にとって彼は、画面の向こうの王子様。初恋なんて、絶対に実るはずがないと、あの日からずっと胸の奥にしまい込んで、芸能界も辞めて普通の地味な女の子として生きてきた。
――だけど、そんな私の「絶対に届かないはずの初恋」に、奇妙な転機が訪れたの。
ある日の放課後、知り合いの蓮ちゃんが、廊下で頭を抱えて携帯を見つめながら、不機嫌そうに呟いているのを聞いちゃったの。
「あいつ、また別のサイトでレンタル彼女なんて頼みやがって……バカ駆……」
駆……? レンタル彼女……?
まさかと思って、私はこっそりその噂を業界の裏ルートで調べてみた。
そしたら、あの『カケルくん』が芸能界を引退して普通の男の子になり、友達が0人のボッチになって、寂しくてレンタル彼女を漁っているという、信じられない事実に突き当たった。
(え……? カケルくん、今は普通の人なの……? 人気者でも、誰のものでもない、ただの男の子……?)
胸の奥で、小さく諦めていた初恋の炎が、ゴウッと音を立てて燃え上がった。
白雪さんたちみたいな大天才が周りにいたら、私なんて一瞬で踏み潰される。だけど、もし彼が今、ただの傷ついた一般人の男の子なら――モブの私だって、彼の隣に立つチャンスが、少しだけあるんじゃないの……?
私は震える手でスマホを操作し、駆くんがよく使っているというレンタル彼女のサイトの、今度は超マイナーな、あの子たちがまだマークしていないであろう新規サービスに、キャストとして必死に登録を申し込んだ。
『いつか、駆くんが私を見つけて、指名してくれますように』って、藁にもすがる思いで、毎日予約画面を更新して。
だけど、まさか、サイトの指名枠を待つまでもなく――。
たまたま気分転換に行った学校の図書館で、駆くんにばったり遭遇して、あまつさえ「引退仲間」として意気投合できるなんて、本当に運命だと思った。
放課後の図書館で優しく笑ってくれた駆くんは、やっぱり世界で一番大好きな人。
でもね、ただの学校の『引退仲間』のままじゃ、私はあの強烈な8人の美少女たち(詩織ちゃんたちや、家の中にいるお姉さんたち)に一瞬で駆くんを奪われちゃう。
だから私は、昨日せっかく仲良くなれた関係を、さらに強固なものにするために、自分の登録した『レンタル彼女』のプロフィールを、わざと駆くんの検索に引っかかるように裏から設定した。
案の定、あの子たちに怯えて「普通の女の子」を必死に探していた駆くんは、私の写真(変装なしの地味めな姿)を見つけて、すがるように指名してくれた。
そうして迎えた、初めてのレンタル彼女としてのデート当日。
待ち合わせ場所に現れた駆くんは、私の顔を見るなり、鳩が豆鉄砲を食ったような顔でフリーズした。
「え……!? み、三上さん……っ!? なんで君がレンタル彼女に!?」
驚きで顎が外れそうな駆くんに向けて、私はとびきりお淑やかで、あざとい笑顔を作って、小首をかしげて見せる。
「あれ、偶然だね、駆くん! 実は私も、普通の男の子とお話しするリハビリのために、最近登録したばかりなんだ。今日も会えるなんて、私たち、運命の赤い糸で結ばれてるのかもね♪」
もちろん、偶然なんかじゃない。全部、私が仕組んだ必然。
学校の図書館で偶然再会した『三上さん』が、まさか自分の唯一の癒やしであるはずの『レンタル彼女』のキャストとして目の前に現れるなんて、駆くんは夢にも思っていないでしょうね。
一般人になったあなたなら、今度こそ私だけのものになってくれますよね?
元モブ子役の、誰よりも純粋で、誰よりも引き下がらないレンタル彼女としての執着の物語が、今、静かに始まるのだった――。




