第11話:レンカノ禁止令、そして図書館の元モブ共演者
「……もう、レンタル彼女なんて二度と頼まない。俺の心臓がいくつあっても足りやしない」
あの地獄のファミレス捕獲劇から数日。
俺は8人の美少女・美女たちからスマホを没収されかけたり、今後のスケジュールについて延々と尋問されたりして、精神のライフが完全にマイナスに突入していた。
結果として、俺の出した答えは【しばらくレンタル彼女を休む】。あんな恐ろしいトラップまみれのアプリ、当分はアンインストールだ。
少しでもあの8人の監視の目(主に、学校でじっと俺を見つめてくる男友達の蓮や、家にいる義姉妹たち)から逃れるため、俺は放課後、滅多に人が来ない静かな学校の図書館へと避難した。
本棚の隙間、文学書の香りに包まれながら、俺は深いため息をつく。
「はぁ……普通の、なんの訳もない、穏やかな青春が送りたいなぁ……」
「……あ。あの一番奥の棚、手が届かない……っ」
すぐ隣の棚から、小さな、困ったような声が聞こえた。
見ると、少し大きめの制服を着た、お淑やかで地味めな雰囲気の女子生徒が、背伸びをして必死に上の本棚の専門書を取ろうとしていた。
「あ、貸して。取るよ」
「えっ? あ、ありがとうございます……!」
俺がひょいと本を取って手渡すと、彼女は顔をパッと輝かせて頭を下げた。
その瞬間、俺たちの目が、間近でバチッと合う。
「「あ」」
お互いに、言葉が止まった。
記憶の奥底、あの映画『友達100人』の、天才たちに囲まれた撮影現場の片隅。いつもセリフを噛んで監督に怒られ、みんなの足を引っ張って泣いていた、**オーディション最下位合格のモブ中のモブ子役**――。
「君……もしかして、三上ひより……ちゃん?」
「カ、カケルくん……!? え、ええっ!? なんで同じ学校に!?」
彼女もまた、俺と同じように芸能界をとうに引退し、普通の高校生としてこの学校に通っていたのだ。お互い、今まで全く気づいていなかった。
「そっか……三上さんも引退してたんだ」
「うん……。私、才能が全然なくて、みんなの足を引っ張ってばかりで辛くて辞めちゃう。カケルくんみたいな天才とは、住む世界が違うって思ってたから、同じ学校にいるなんて夢にも思わなくて……」
「天才なんてとんでもないよ。俺だって、人間関係に疲れ果ててボロボロになって逃げ出した、ただの引退仲間さ」
周りのヒロインたちみたいに、俺の才能に執着したり、ヤンデレたりしてこない。
同じ「挫折と引退」を経験した者同士として、俺たちは放課後の図書館で、時間を忘れてぽつりぽつりと当時の思い出や今のボッチ生活の悩みを語り合った。
これだ。俺が求めていたのは、こういう対等で、穏やかで、静かな「普通の友達」との時間なんだ……!
「カケルくん……あ、ううん、駆くん。私、駆くんとこうしてお話できて、すごく嬉しいな」
「俺もだよ、三上さん」
心がじんわりと温かくなるのを感じながら、俺は久しぶりに、心からの笑顔を浮かべていた。




