閑話が本題 駆の席替え
「……よし! 今日はクラスの席替えの日だ。これで少しは、周囲からの刺さるような視線がバラけるかもしれない……!」
にぎやかすぎるリムジン登校を終え、学校のホームルーム。担任の「それじゃ、席替えを行うぞ」という言葉に、俺は心の中で小さくガッツポーズを決めていた。
いつも俺の周りで火花を散らしている彼女たちの包囲網を、くじ引きという神聖なダイスによって、合法的にバラバラに解体する大チャンスだ。
ガラガラ、とクラス中が一喜一憂しながら机を大移動させる。
貼られた新しい座席表。自分のクジに書かれた番号の席に着いた瞬間、俺は天を仰いで絶望した。
「神様……いくらなんでも、俺のボッチ属性への嫌がらせが過ぎやしませんかね……!?」
俺が引き当てたのは、クラスで一番後ろの真ん中という、本来なら一番目立たないはずの席。
――だが、俺の周りの配置が、完全に終わっていた。
まず、俺の左隣の席。
「ふふ……神様って本当にいるんだね、駆くん。授業中もずっと駆くんの横顔を見つめていられるなんて、これはもう運命の赤い糸の引き合わせだよ♪」
ハイライトの一切消えた暗黒の笑顔で俺をロックオンしているのは、幼馴染の白雪詩織。
続いて、俺の前の席。
「よ、よお駆。俺が前の席だからって、授業中に後ろからシャープペンで突っついたりするなよな! 集中できないだろ!」
ショートカットの襟足を赤く染め、カバンをぎゅっと抱きしめながら背中でぶっきらぼうに語ってくる、男友達(仮)の蓮。俺には男の親友の照れ隠しにしか見えないが、相変わらず無駄に距離が近い。
さらに、俺の右隣の席。
「素晴らしいわ……! この距離、この角度、授業中に居眠りするカケルの顔を最高の構図でスケッチできる特等席じゃない! 神シナリオだわ!」
ノートを開いてギラギラした目で俺の横顔をデッサンし始めている、監督娘の新藤未来。
左にヤンデレ、前に男装の親友、右にクリエイターの狂気。
これまでの席よりも圧倒的に逃げ場のない、完璧な包囲網が完成してしまっていた。
そんな中、教室の遥か前方――教卓のすぐ目の前という、一番最悪な最前列の端っこで、わなわなと震えている美少女がいた。
西園寺財閥の令嬢、西園寺麗華である。
「っ、あり得ないわ……! なんで私がい、あんなパッとしないボッチの男からこんなに遠く離されなければならないのよ!」
麗華はガタッと椅子を蹴立てて立ち上がると、圧倒的なお嬢様オーラを放ちながら俺の席の周りへと大股で歩いてきた。そして、俺の左隣にいる詩織をビシッと指さす。
「白雪詩織! あなたのその席、西園寺の権力で私と交換しなさい!」
「お断りします、麗華さん」
詩織はぴしゃりと、冷徹な声で麗華の要求を撥ね退けた。
「これはクラス全員が公平にくじ引きで勝ち取った、正当な権利です。いくら西園寺の財力をもってしても、神聖なる学園のルールを捻じ曲げることは許されません」
「な、臨機応変の欠片もないのね……っとお!?」
正論のド直球を叩きつけられ、麗華は虚を突かれた思いがした。いつもなら財力や権力でゴリ押しできるはずの世界が、学校のくじ引きという圧倒的な平等の前に通用しない。
諦めきれない麗華は、俺の前の蓮、および右隣の未来にも声をかけた。
「クラスメイトのよしみよ、蓮! あなたの席を私に――」
「いや、これは俺の相棒ポジションだから絶対に譲れねえ!それに駆の席の周りは3人用なんだ!」
「新藤未来! あなたの席なら西園寺が次の映画のスポンサーを――」
「ノーよ、西園寺さん。このアングルは100億の予算を積まれても渡せないわ!」
誰も交換してくれない。
全員から完璧に拒絶された麗華は、肩をガックリと落とし、トボトボと教室の最前列にある自分の席へと戻っていった。
黒板の真ん前、先生の唾が飛んできそうな居心地の悪すぎる席。
麗華は自分の席に座り、遥か後ろで詩織、蓮、未来の3人にぴったりと囲まれて、小さく縮こまっている俺の姿を見つめていた。
仕方なく私は自分の席に戻ったその座席で居心地の悪さを感じながら、この教室の中での三景をどう考えたらいいのか自問した。




