閑話が本題 駆のとある朝パート2
地獄のシャワー回を無事に生き延びた俺は、服を着替えて一息つき、ようやく我が家のダイニングテーブルへと着いた。
そこには、なぜか当然の権利のように席について俺の家の白米をモグモグと食べている男友達(仮)の蓮の姿があった。隣では詩織がエプロン姿のまま、嬉しそうにお味噌汁を俺の前に差し出してくる。
「ほら、駆。お前さ、いつも学校で『俺は友達0人のリアルボッチだから……』とか哀愁漂わせて語ってるけどさ」
蓮がしれっと鮭の塩焼きを口に運びながら、箸の先で俺を指さして鋭い指摘を飛ばしてきた。
「……お前、どう考えてもボッチじゃないよね?」
「いや、ボッチだよ! 学校の昼休みはいつも一人で空き教室でパン齧ってるし、話せる男友達は蓮しかいないだろ!」
俺が必死にボッチのアイデンティティを主張していると、蓮は少し耳を赤くしてプイッとそっぽを向いた。
「……だから、その認識がバカだって言ってんだよ」
「え? じゃあさ、確認だけど、蓮は俺の本当の『友達』ってことでいいんだよな?」
俺が嬉しくなって、ボッチ脱出の記念すべき第一歩として満面の笑顔で問いかけた、その瞬間だった。
「……ヤダ」
「へ?」
蓮は顔を真っ赤に染め、お茶碗を両手で強く握りしめながら、蚊の鳴くような声で、だけどハッキリと俺の言葉を拒絶した。
「……友達なんて、ヤダ。私は、お前とそんな関係になりたいんじゃ……っ」
「友達以上じゃないとヤダって意味よ、駆くん。鈍感ねぇ。……あ、ちなみに私も駆くんの『友達』になるのはヤダからね? 私は『本物の彼女』になるんだから」
詩織が横からすかさず激重なフォローを入れてくる。
「え、ええ……?」
ショックで固まる俺は、リビングでプロテインをシェイクしている美夜お姉ちゃんや、ノートPCを叩いているひまり、キッチンで微笑む冴子ママンにすがるような目を向けた。
「お、お姉ちゃんたち……もし俺たちが、家族じゃなかったとしたら……俺の友達になってくれる、よね?」
「「「ヤダ(わ)」」」
家族連合の3人から、完璧なハモりとキレのある速度で即座に拒絶された。
「もし家族じゃなかったら、出会った瞬間に力ずくであなたを私の所有物にしてるわ」とお姉ちゃんが筋肉質な笑みを浮かべ、ママンが「大人の関係の書類を一瞬で提出してるわね」と妖艶に微笑む。
「友達になりたいだけなのに、全員から全否定された……。俺のコミュ障、やっぱり末期なんだ……っ!」
フレンド申請却下!!フレンド申請オフ会参加者ゼロです‥
勝手に勘違いしてド凹みした俺は、朝食の味も分からないまま、重い足取りで学校へと登校を開始した。お外の空気は冷たい。失意のボッチ高校生である俺が、トボトボと通学路を歩いていた、その時だった。
キィィィィ――ッッ!!
けたたましいブレーキ音と共に、俺の目の前にお決まりの不自然にボディが長い黒塗りの高級リムジンが、通学路を完全に塞ぐ形で横付けされた。
西園寺財閥の令嬢、西園寺麗華のお出迎えだ。後部座席の窓がスッと開き、麗華が優雅にこちらを見下ろしてくる。
「フン、相変わらず冴えない顔ねカケル。西園寺の車に乗ることを光栄に思いなさい」
「西園寺さん!? なんで通学路にリムジンで現れるんだよ!?」
「ちょっと待ちなさいよカケル! 麗華の車になんて乗っちゃダメ!」
突然、通学路の曲がり角から、本当に『遅刻しそうな食パン』を口にくわえたまま、にぎやかに叫びながら猛ダッシュしてくる美少女が現れた。映画監督の娘、新藤未来だった。
「ぷはっ! げほっ……! ちょっと麗華、通学路をそんな長いボディで塞ぐんじゃないわよ! 食パンが喉に詰まって死ぬかと思ったじゃない!」
未来はむせ返りながらリムジンのドアを開け、俺の隣に強引に入り込んできた。
「ほらカケル、何ボサッとしてるの。遅刻しちゃうわ、私と一緒に学校に行くわよ!」
「ちょっと未来、私のリムジンに勝手に乗り込んでおいて何を言っているのよ!?」と麗華が怒鳴り声を上げ、車内は一瞬で2人のマウントバトルへと発展する。
未来に車内へ強引に乗り込まれ、背後からは家から尾行してきていた詩織や美夜お姉ちゃん、蓮たちまで乗り込んできた。みんなの凄まじい視線が刺さるのを感じながら、俺の月曜日の朝の登校は、学校へ着く前からとんでもなくにぎやかなドタバタに巻き込まれていくのだった。




