閑話が本題 駆のとある朝パート1
「……はぁ。最近、週末にレンタル彼女を頼むたびに、なぜか元共演者の美少女たちに遭遇して、俺の精神が休まらないのはどうしてなんだ……」
数々の修羅場を経験した俺は、心も体もすり減り、平日の朝くらいはただの友達0人の哀れなボッチ高校生として、静かに息を潜めて自室のベッドで眠っていた。まだ薄暗い、朝の5時。ボッチの朝は早い。
なぜならボッチは部活に入らない。友達いないから遊びに行かない…SNSフレンドゼロ!!早く寝るから起きるのも早い。
(大河内駆のとある朝)
心の中にそんな不穏なタイトルが浮かぶと同時に、バァン!! と凄まじい音を立てて自室のドアが開け放たれた。
「あら、駆。ちょうどいいところに起きてきたわね。今朝も5時から私と一緒にランニングに行くわよ。当然、姉であるこの私が強制的に一緒に連れて行ってあげるから、あなたに拒否権はないわ」
そこに立っていたのは、すでに完璧なランニングウェア姿に着替えた、俺の義理の姉――大河内美夜だった。俺自身はランニングに行く気なんて最初から1ミリもなかったのだが、お姉ちゃんの方から強制的なお誘いを仕掛けてきたのだ。
「お、お姉ちゃん!? なんで朝の5時から俺の部屋に突撃してくるんだよ!? というか何で着替えてるの!?」
「姉として、弟を保護して一緒に汗を流すのは義務よ。さあ、行くわよ。……ん?」
美夜お姉ちゃんは、突如として俺の顔を至近距離からじっと凝視した。
彼女は普段こそ勢いで動く脳筋アクション女優だが、数々の過酷な現場を生き抜いてきた肉体のプロでもある。相手の呼吸、筋肉の張り、わずかな疲労のサインを瞬時に見抜く天才的な観察眼を持っていた。
もし俺が少しでも体調が悪そうな日であれば、あの一瞬の鋭い観察眼で瞬時にランニングを取りやめるだけの優しさを持っているのだが……あいにく、今日の俺は肉体だけは無駄に元気いっぱいだった。
「よし、筋肉の張りは良好ね。行くわよ、駆!」
「いや、俺は行く気ないから! 普通にまだ寝かせてよ!」
俺の悲痛な叫びは無視され、美夜お姉ちゃん主導による『超高速ジョギング』がスタートした。
お姉ちゃんにとっては「軽い散歩」のつもりらしいが、現役女優の脚力は伊達じゃない。俺が必死に息を切らしながら走る横で、美夜お姉ちゃんは全く息を乱さず、めちゃくちゃに話しかけてくる。
「駆、骨盤の連動が甘いわよ! あと昨日の夕飯のハンバーグ、私の分の玉ねぎが少し大きかったわ! でも駆の愛情を感じたから許してあげる! ねぇ聞いてるの駆!?」
「はぁ、はぁ……! 自分で歩くって言ってないし、走るか喋るか、どっちかにして、お姉ちゃん……っ!」
そんな俺たちの過酷なランニングの途中で、前方からタッタッタ,
と軽快な足音が近づいてきた。
「よお、駆。奇遇だな。こんな朝早くから、姉貴さんと2人でデートかよ?」
現れたのは、ショートカットがよく似合うボーイッシュな男友達(仮)の蓮だった。蓮はなぜか俺のランニングルートを完璧に先回りしており、しれっと合流するなり、めちゃくちゃに話しかけてくる。
「駆、お前ってやつは本当にバカだな! ほら、遅れてるぞ、もっと腰を落として走れよ!」
「蓮までなんで俺のスケジュール知ってるんだよ!? というか2人とも早朝から元気すぎだろ!」
脳筋の姉と、男装の親友(中身は乙女)。
2人の美女に挟まれ、早朝のさわやかな空気の中で、俺は文字通り耳元でマシンガントークを浴びせられながら、命からがら実家へと帰り着くのだった。
「ただいま……。死ぬかと思った……」
汗だくで玄関のドアを開けた。ここからは我が家だ。ママンやひまりが待つ、俺の本当のセーフティエリア――。
「おかえりなさい、駆くん。朝ごはんにする? シャワーにする? ……それとも、私?」
「ぶっっっ!!!!???」
玄関ホールで俺を出迎えたのは、エプロン姿で頬を赤らめ、両手を広げている、隣の家のリアルヤンデレ幼馴染――白雪詩織だった。
「し、詩織ぃぃぃ!? なんでお前が俺の家の中で、そんな化石みたいな古典的ラブコメのセリフを言ってんだよ!?」
「ふふ、お隣さんだもの。駆くんが朝帰ってきたら、これを言うって十年前から心に決めてたんだよ?」
「ちょっと泥棒猫、ウチの玄関で駆を誘惑しないでくださる?」とリビングから冴子ママンが包丁を持った笑顔で現れ、「駆、シャワーに行くなら私が一緒に入って筋肉のケアをしてあげるわ」と美夜お姉ちゃんがレザージャケットを脱ぎ捨てる。後ろからはひまりが「お兄ちゃんの入浴データを取得しました♪」とノートPCを掲げ、蓮が「く、駆! 服を脱ぐんじゃねえ!」と顔を真っ赤にして叫んでいる。
「シャワー回きたー!!!!」
リビングに大河内家の女性陣、詩織、そして蓮の声が完璧にハモって歓喜の咆哮が響き渡った。
しかし、お互いに「誰が一番最初に駆くんのシャワーに突撃するか」で凄まじい睨み合いが始まってしまい、結果として誰も動けないまま、俺は奇跡的に1人で安全にシャワータイムを終了させることができたのだった。




