第十話裏話 駆視点
### 【第10話裏:大河内駆の独白】初めての一般人デートに歓喜していたら、隣の席にプレデターが8人入ってきた件
「神様、仏様、レンカノ運営様……! 本当にありがとうございます……っ!」
俺はファミレスのボックス席で、メニュー表を掲げながら心の中で男泣きしていた。
数々の修羅場をくぐり抜けた俺の元に、ついに**「映画に全く関係のない、ごく普通の一般人のレンタル彼女」**である、優香ちゃん(女子大生)がマッチングされたのだ。
「お兄ちゃん、何食べる? 私、ハンバーグにしよっかな!」
「いいよいいよ何でも頼んで! ああ、普通のお喋りってなんて楽しいんだ……!」
これぞ俺が求めていた究極の『リハビリデート』だ。俺たちの間には、間違いなく穏やかで甘酸っぱい、青春の風が吹いていた。
運ばれてきた料理を2人で美味しく食べ始め、まさに幸せの絶頂にいた、その時だった。
カツカツカツカツ……。
ファミレスのドアが開き、信じられないほどの殺気を孕んだ集団が店内に足を踏み入れてきた。
俺が何気なくそちらに目を向けた瞬間、フォークを床に落としそうになった。
(ま、ママン!? お姉ちゃん!? ひまり!? ……って、詩織に西園寺さんに蓮につむぎお姉ちゃんに監督の娘ぇぇぇ!?!?)
俺の人生を狂わせてきた美少女・美女たちが、まさかの総勢8名で大集結して入店してきたのだ。
幸い、彼女たちは俺たちの席のすぐ隣にある、大人数用のパーティールームへと一直線に向かったため、俺の存在には気づいていない。
しかし、壁一枚挟んだ向こう側から、凄まじい会話が聞こえてきた。
『――だから言っているでしょう? 駆くんの予約枠は私のものよ』
『ふざけないで。駆は、姉である私のものよ。外の泥棒猫たちが触れていいわけがないわ』
声がデカい。殺気が壁を突き抜けてこっちまで漏れている。
「う、うぐぐぐぐ……っ」
俺は恐怖のあまりガタガタと震え、顔を真っ白にさせて完全に挙動不審に陥っていた。料理の味が全くしない。
対面席の一般人レンカノ・優香ちゃんが、俺の異変に気づいて心配そうに覗き込んでくる。
「か、駆くん? 顔色がすごい悪いけど、何かあったの……?」
「い、いや、なんでもない、なんでもないんだ……!」
「そう? ……あ、でも、そういえばあそこのパーティールームの席、なんかすごく怖いよね。さっきから目が完全にプレデターみたいに据わった美少女たちが大声で揉めてて……」
優香ちゃんが、何気なくその部屋のガラス扉の方を指差した。
そのタイミングが、最悪だった。
ギチギチギチギチッ……!!
優香ちゃんの声(または指差し)に反応した部屋の中の8人の首が、一斉に音を立ててこちらのボックス席へと向けられた。
カーテンの隙間から、全員の目が、完全にハイライトを失った暗黒の輝き(ヤンデレ)へと切り替わる。
目が合ってしまった。完璧に、バレた。
「「「「「「「「……駆(くん・お兄ちゃん・カケル)?」」」」」」」」
ハモった。地獄の底から響くような声が重なり、8人が鬼の形形で一斉にこちらの席へと迫ってくる。
「ご、ごめんなさい無理ぃぃぃぃ!! お代は結構ですからぁぁぁ!!」
あまりの恐怖に限界を迎えた優香ちゃんは、バッグを掴むと、脱兎の如き勢いでファミレスの出口へと逃げ出してしまった。一般人の正しい判断である。
「あ、優香ちゃん!? 待って、俺を一人にしないで――」
俺も本能的な恐怖に従い、席から飛び出して裏口へ逃げ出そうとした。だが、遅すぎた。
ガシッ!!!
「確保。逃げるなんて教育に悪いわよ、駆くん?」
「駆、姉から逃げられると思っているの?」
右腕をママンに、左腕を美夜お姉ちゃんにガッチリとホールドされ、背後からは詩織たちの黒いオーラが迫ってくる。
友達0人のボッチ男子高校生・大河内駆は、ファミレスの通路のど真ん中で、完全に退路を断たれて捕獲されるのだった。




