第9話:レンタル彼女を頼んだら義理の母が来ました……え?チェンジできないの?
「今度こそ……今度こそ絶対に、俺のことを知らない一般人の女の子と穏やかなデートをするんだ……!」
義姉妹の猛攻から命からがら生き延びた俺は、さらに別の、今度は超大手の老舗レンタル彼女サイトに登録した。ここなら利用規約もガチガチだし、サクラや不正な枠の強奪なんて絶対に起きないはず。
そうして万全を期して迎えたデート当日。
お洒落なジャズが流れる喫茶店の個室。緊張でガチガチになりながら待っていると、コンコン、とドアが叩かれた。
「お待たせいたしました、大河内駆くん。……ううん、お家の外で会うのは新鮮ね、駆くん?」
「ぶっっっ!!!!????」
個室に入ってきたのは、上品なベージュのトレンチコートを羽織り、大人の色気をこれでもかと振りまく超絶美女――俺の義理の母親である、大河内冴子だった。
映画『友達100人』では、主人公カケルを厳しくも温かく導く「学校の先生役」を演じていたベテラン女優。そして現在は、俺の父親の再婚相手である。
「は、母さん!? なんでっ、なんでレンタル彼女のキャストにお母さんがいるんだよ!?」
「ふふ、なんでかしら? あ、ちなみにシステム上、**キャストのチェンジは受け付けておりません**ので悪しからず」
「嘘だろおい! まさに妄想デートの授業参観や〜!!」
パニックを起こしてスマホの利用規約のページを必死に見直した俺は、利用規約の一番下、米粒のような小さい文字で書かれた【一文】を発見し、絶望した。
『※レンタル彼女のご利用は、未成年の場合、保護者の承諾が必要です(登録時、保護者の端末へ自動で確認通知が送信されます)』
「自動通知機能のせいで一発でバレてたのかよぉぉぉ!!」
「そうよ。通知を見た瞬間、あなたのスマホのGPSを追って、サイトの運営に私の芸能界のコネで圧力をかけて枠を上書きしたの。外の泥棒猫たちや、うちの娘たち(美夜・ひまり)にばかりいい思いをさせるわけにいかないものね?」
妖艶に微笑む母さん。しかし、ここからが本当の地獄だった。
デートが始まった瞬間、母さんの目が『先生役』のプロの輝きへと切り替わったのだ。
「はい、駆くん。今、メニューを頼む時の店員さんへの声のトーン、マイナス10点。もっと腹式呼吸でハキハキ話しなさい」
「デートに腹式呼吸求めるのやめて!?」
「ほら、歩く時は女の子の半歩前を歩くのがスマートよ。はい、やり直し。修正案を提出しなさい。……デート中の姿勢も悪いわね。背筋を伸ばしなさい、駆くん」
デート感、完全にゼロである。
ひたすら厳しい授業参観、というかマンツーマンの熱血指導。女の子と楽しくお喋りするリハビリのはずが、ただの『完璧な男になるためのスパルタ教育』と化していた。俺は緊張と疲労で完全に灰になりかけていた。
しかし、デートの終わり際。
夕暮れの喫茶店の前で、母さんは不意にトレンチコートの襟を少し緩め、ふわりと甘い香りを漂わせながら、俺の顔を両手でそっと包み込んできた。
「……ふふ、お疲れ様、駆くん。デートとしては0点だけど、私の男の子としては、100点満点よ」
「え……?」
至近距離で見つめられる、大人の女性の濡れたような瞳。家で見せる『お母さん』の顔ではなく、完全に一人の『女』としての圧倒的な色気と魅力が、至近距離からド直球で飛んできた。
「お外の泥棒猫たちに騙されないように、私がこれからじっくり、大人の魅力を教えてあげるわね? さあ、お家に帰りましょう。娘たちが首を洗って待っているわよ?」
母さんのあまりにも妖艶なドッキリ(仕掛け)と、家で待つ義姉妹の影に、俺は「これ、家に帰ったらマジで大河内家防衛同盟(修羅場)が結成されるやつじゃん……」と、背筋が凍りつくのだった。




