第7話:頭脳派義妹のあざとい猛アタック
「ちょっとお姉ちゃん、ゲーム機を壊しそうな勢いで暴れるのはそこまで。ここからは私のターンだからね」
パンチングマシーンの筐体を軽く歪ませて満足げな美夜お姉ちゃんを、ひまりがノートPC(※デート中なのに持ち歩いている)の画面から目を離さずに制した。
「さ、お兄ちゃん。次はあっちのカフェに行こ? 歩き疲れちゃった」
ひまりはそう言うと、当然の権利のように俺の左腕に自分の両手を絡めてきた。
「ひ、ひまり!? 腕、腕当たって――」
「え? 何が? ……もしかして、ドキドキしちゃった? お兄ちゃんってば可愛いね」
フリルのブラウス越しに伝わる、女の子の柔らかくて華奢な感触。
家の中ではいつも一定の距離を置いて、俺を睨んでいたはずのひまりが、今は至近距離で、上目遣いに俺を見つめている。整ったアイドルの顔が近すぎて、俺の心臓はさっきから破裂しそうなほど、うるましく跳ね上がっていた。
カフェに入り、パフェを一つ注文すると、ひまりは「はい、スプーン」と俺に手渡してきた。
「半分こね。はい、お兄ちゃんから『あーん』して?」
「いや、自分で食えよ!」
「ダメ。これはレンタル彼女とのデートなんだから、お兄ちゃんは私の言うことを聞く義務があります。ほら、あーん」
恥ずかしさで爆発しそうになりながら、パフェのイチゴをすくってひまりの小さな口へと運ぶ。ひまりはそれをハムッと食べると、本当に嬉しそうに目を細めた。
「ん、美味しい! じゃあ次は私がお兄ちゃんに食べさせてあげる。はい、口開けて?」
「うぐ、あ、あん……」
「ふふ、お兄ちゃん、お耳まで真っ赤。データを取るまでもなく、チョロくて可愛いなぁ……大好きだよ」
サラッと、とんでもない告白(のような営業セリフ?)が飛び出して、俺はパフェを喉に詰まらせそうになった。
その時、ひまりのスマホがブブブ、と激しく震え出す。画面を見たひまりの可愛い眉が、ピキッと不機嫌そうに跳ね上がった。
「あー、もう、うるさいなぁ……」
「どうしたんだ?」
「なんでもないよ、お兄ちゃん。ちょっと、外の『泥棒猫たち』が、私たちが仕掛けたトラップに引っかかって、裏のチャットでギャーギャー騒いでるだけ。すぐに対処するから、お兄ちゃんは大人しく私に甘やかされててね?」
ひまりは冷酷な笑みを一瞬だけ浮かべると、もの凄い速度でスマホの画面をタップし始めた。
その横では、美夜お姉ちゃんがパフェのチェリーを真剣な顔で睨みつけながら「駆、チェリーの種を綺麗に噛み砕く方法を見つけたわ」と筋肉質なことを言っている。
家の中でも、外の世界でも、この義姉妹の「俺を逃がさない」という執着の強さは完全にバグっていた。
「……お兄ちゃん。今日のデート、楽しかった? 私の予約枠、あと2回分残ってるから……次も、その次も、私だけを見ててね?」
別れ際、夕暮れのモールの中で、ひまりは俺の耳元でそう小さく囁いた。
あざとい妹の仮面の奥にある、本物の『女の子』の熱い視線に、俺のボッチだったはずの高校生活は、もう後戻りできないところまで狂わされているのだった。




