閑話金の駆銀の駆マネジメント同盟編
「あのさ、鏡子監督……ちょっと変な質問をしていいですか?」
都内の撮影スタジオの控え室。大河内駆は、テーブルに並べられた差し入れのお菓子をつまみながら、打ち合わせ中だったマネジメント同盟の面々に問いかけた。
「ん? なあに駆くん、どんな質問かしら?」
進藤鏡子監督が台本から目を離し、柔らかく微笑む。
隣ではプロデューサーの高坂麗美、マネージャーの五味麻衣、脚本家の城ヶ崎先生、そして敏腕カリスマトレーナーの神崎麗が、それぞれの手を止めて駆に視線を向けた。
「いや、あのおとぎ話の『金の斧・銀の斧』ってあるじゃないですか。もし皆さんが池に普通の俺を落としちゃったとして、女神様が『あなたが落としたのは、この願いを何でも叶えてくれるピカピカの【金の駆】ですか? それとも何でも完璧にこなすカッコいい【銀の駆】ですか? それともただの【普通の駆】ですか?』って聞いてきたら、どう答えますか?」
モブモブ同盟の時の「全員が暴走して未来予想図を語り出す」という予想外の結末に肝を冷やした駆だったが、大人で社会の常識を知り尽くしている『マネジメント同盟』の皆さんなら、きっとプロフェッショナルで理性的な回答をしてくれるはず……そう淡い期待を抱いていたのだ。
しかし、プロデューサーの高坂麗美がビシッとメガネのツルを指で押し上げ、威風堂々と言い放った。
「決まっているでしょう、駆くん。私はコンプライアンスを徹底して守る立場の人間です。虚偽の報告は企業倫理に反しますから、当然『普通の駆くんです』と真実を言います。そして……無事に引き揚げた本物の駆くんを、誰にも渡さず私一人で完璧に独り占め管理します!」
「堂々とコンプライアンスを武器に独り占め宣言したーーー!?」
駆が思わず突っ込むと、マネージャーの五味麻衣が「甘いですよ高坂さん!」と身を乗り出してきた。
「私はもちろん『全部私の落とした駆くんです!』って言って、3人の駆くんを全員ゲットします! そして、何でも叶えてくれる金の駆くんに死ぬほど甘やかされながら、銀の駆くんと普通の駆くんを私が全力で甘やかす……まさに夢の『3方向駆くん包囲網パラダイス』を築き上げます!!」
「パラダイスって言った!? 甘やかすと甘やかされるの循環システム作ろうとしてる!?」
駆が引きつった顔で後ずさると、今度は脚本家の城ヶ崎先生が、ニヤリと怪しい笑みを浮かべながらアゴに手を当てて呟いた。
「ふむ……実に興味深い思考実験だな。私なら当然3人の駆くんを全員ゲットした上で……その3人の駆くんを『もう一度池に落としたらどうなるか』を試してみるよ。倍々のループで何人の駆くんが生成されるのか、その限界値を脚本の資料として検証してみたいね」
「恐ろしすぎる発言が出たーーー!? 命を何だと思ってるんですか城ヶ崎先生!!」
悲鳴を上げる駆を余所に、カリスマトレーナーの神崎麗が腕を組み、熱い眼差しで空を見上げた。
「フッ……甘いなみんな。3人の駆……それはすなわち、奇跡の原石が3つ揃ったということだ! 私はその3人の駆を専属トレーナーとして極限まで鍛え上げ、歌・ダンス・ルックス全てが頂点の最強アイドルユニット**『駆ブラザーズ』**として芸能界へ世に送り出す!! 世界中のファンを魅了するトリプルスターの誕生だ!!」
「俺でユニット組まないで!? 駆ブラザーズって何ですか神崎さん!!」
最後に、じーっと考え込んでいた進藤鏡子監督が、パッと顔を輝かせて両手を合わせた。
「あら……それなら映画の企画としても最高じゃないかしら? 3人と言わず、ループを繰り返せば……うふふ、**『駆が100人できるかな?』**という超ド級の大型映画が撮れちゃうわね♪」
「監督までノリノリで映画化しようとしてるーーーっ!?」
駆は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
プロフェッショナルだからこそ、スケールと業が深すぎる! 誰も「普通に助けて終わりにしよう」なんて言わないどころか、増殖・パラダイス・アイドル化・映画化と、欲望のベクトルが大人特有のガチすぎる方向へと暴走しているのだ!
「さあ駆くん、まずはコンプライアンスの観点から私のデスクでみっちり今後の契約について話し合いましょう……♡」
「私のパラダイスの建設計画に付き合ってもらいますよ、駆くん……♡」
「ふふ、まずは何人まで増殖に耐えられるか実験だ……」
「駆ブラザーズのデビューライブのチケットは即完売だな……!」
「『映画:駆100人』クランクインよ〜〜っ!」
5人の目が怪しく光り、ジワジワと打ち合わせ部屋の出口を塞ぐように迫ってくる。
(や、やっぱりこの人たちも全員めちゃくちゃヤバいーーーっ!!)
限界を察した駆は、叫び声を上げながら窓際のスペースへと一気にダッシュした!
「た、助けてくれぇぇぇぇぇっ!! 大人の欲望が一番恐ろしいんだぁぁぁぁっ!!」
ダッ!!
「あ! 待ちなさい駆くん! 独り占め契約書がまだ途中よ!」
「逃がしませんよ! 私のパラダイスになってください!」
「待て駆! 駆ブラザーズのセンターは君だ!」
大人たちの圧倒的な圧迫感と追い立てを受け、駆はスタジオの廊下を全力疾走で逃亡!
またしても平和とは程遠い、大人たちによる本気の鬼ごっこが撮影スタジオ全体を巻き込んで幕を開けるのだった。
**【閑話:完】**




