閑話が本題 駆の銀ブラ
東京の学校に転校してきたばかりの元婚約者・葵から、俺に相談が持ちかけられた。
「あのね駆。せっかく東京に来たのだから、憧れの『銀ブラ』をしながら、本場のブラジリアンコーヒーというものを飲んでみたいのよ」
——おいおい、銀ブラの語源を勘違いしてやしないか? と思いつつ、葵は続けてこう頼んできた。
「私、茶道はたしなんだけれど、コーヒーのことは全くの素人なの。そこで、カフェバイト経験のあるあなたと……あと、同じくモブモブ同盟の『葵先輩』に協力してもらって、私にコーヒーの淹れ方を教えてちょうだい!」
……というわけで。
休日のカフェ。俺は、バイト時代の先輩である『モブモブ同盟』の葵(同名のもう一人の葵)を呼び出し、駆・元婚約者の葵・モブモブ同盟の葵の【3人】で小さな「コーヒー教室」を開催することになったのだ。
「へぇ、京都の本家のお嬢様が、このモブモブ同盟の私にコーヒーの手ほどきを乞うわけね! お安い御用よ、カケルくんの頼みだし、徹底的に叩き込んであげる!」
エプロン姿でやる気満々のモブモブ同盟の葵先輩と、少し緊張した面持ちの葵が向かい合う。
「まずはブラジリアン・サントスを中挽きにして、お湯の温度は85度前後……」
「ほう……茶道でお湯の温度にこだわるのと、通じるものがありますね」
「おっ、さすがはお茶をたしなんだお嬢様だ。のみこみが早い!」
モブモブ同盟の葵先輩の熱心な指導と、元バイトの俺のサポートもあり、やがて芳醇なコーヒーの香りが店内にふわりと広がった。
淹れたてのブラジリアンコーヒーを一口含み、葵がふっと柔らかく微笑む。
「……美味しい。香ばしい苦味のあとに、すっきりとした甘みが残りますわね」
コーヒーと茶道——ジャンルは違えど、お湯を沸かし、客をもてなす「一期一会」の精神には共通するものがある。モブモブ同盟の葵先輩も「いやぁ、すっかり打ち解けたわね! これぞ同盟同士、和気藹々とした最高のハッピーエンドじゃない!」と満足そうに頷き合っていた。
……もちろん、そんな平和で穏やかなエンディングで終わるほど、俺の周りは甘くなかった。
ガチャンッ!! と、店のエントランスのドアが勢いよく開く。
「ちょっとカケル!? 私に内緒で葵さんと3人でコーヒー教室なんて、どういうことよっ!」
そこに現れたのは、元悪役令嬢のコレットだった。さらに、その後ろから普段はお上品に緑茶をたしなむはずの麗華まで目を血走らせて入ってくる。
「お茶もいいけど、私が淹れたコーヒーのほうが絶対に美味しいわよ、カケル!」
「なっ、なんだって!? コーヒーと言ったら……」
さらに、どこで聞きつけてきたのか、ドアの隙間からひよりとココがひょっこり顔を出す。
「コーヒーと言ったら……『カレー』でしょう!!」
「そうよ! ブラジルコーヒーの隠し味には、スパイスたっぷりの特製ビーフカレーが最高に合うんだから!」
「いや、コーヒーにカレーは味がケンカするだろっ!?」
「「「「うるさい! カケル(くん)の淹れた(または私たちが淹れた)コーヒーとカレーを今すぐ食べさせなさいよ!!」」」」
あっという間に店中を巻き込んだ大声援と大乱闘が勃発し、モブモブ同盟の葵先輩は「ひえっ、私たちが想定した平和な空気と全然違うんだけど!?」とカウンターの裏へ退避。
湯気とスパイスの香りが入り交じる中、カオスな休日ティータイムは最高潮(最悪)の盛り上がりを見せるのだった。




