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閑話金の駆銀の駆モブモブ編



「なぁ、みんな。ちょっと変な質問をしていいか?」


平日の放課後、いつものようにモブモブ同盟の面々が集まる中で、大河内駆がふとジュースの缶を置きながら口を開いた。


「ん? なに急に、駆くん」

「どうしたの、駆? 何でも聞いてちょうだい」


三上ひよりと橘葵が首をかしげて駆を見つめる。星野美咲、一ノ瀬涼香、名取正美の三人も興味深そうに視線を向けた。


「いやさ、あの有名なおとぎ話の『金の斧・銀の斧』ってあるだろ? あれでふと思ったんだよ。もしみんなが池に普通の俺を落としちゃったとしてさ、女神様が『あなたが落としたのは、この何でも願いを叶えてくれるピカピカの【金の駆】ですか? それとも何でも完璧にこなすカッコいい【銀の駆】ですか? それともただの【普通の駆】ですか?』って聞いてきたら、みんなならどう答えるのかなって」


実はこれ、先日『出し抜き同盟』の面々に何気なく同じ質問を投げかけた時の疑問だった。

あの時の出し抜き同盟の回答は恐ろしいものだった。

『ふふっ……何を言っているの駆くん? 金の駆くんも、銀の駆くんも、普通の駆くんも、全員まとめて私の部屋に閉じ込めて囲い込むに決まっているでしょう……♡』と、目を血走らせた全員が**「すべての駆を手に入れる」**という最悪の強欲回答を叩き出してきたのだ。


だからこそ、駆は一般常識と良心を持つ(と信じている)モブモブ同盟の仲間たちに、口直しのような気持ちで尋ねてみたのだった。


すると、モブモブ同盟の5人は一瞬ぽかんとした後、呆れたようにクスッと笑い声を上げた。


「なにそれ、駆くん! そんなの決まってるじゃない!」

ひよりが真っ直ぐな瞳で微笑む。


「そうよ。金の駆だの銀の駆だのなんて、そんな怪しい偽物はいらないわ。『本物の駆くん(普通の駆)』を落としましたって、嘘をつかずに真実を告げて、すぐに駆くんを池から助け出すに決まってるでしょ!」

葵が呆れ半分、優しさ半分で即答した。


美咲も「当然だよ! どんなに凄そうな金の駆がいても、私たちが好きなのはそのままの駆くんなんだから!」と頷き、涼香と正美も深く同意するように笑っている。


「……っ!!」


その答えを聞いた瞬間、駆の胸に温かい感動が込み上げてきた。


(う、ううう……っ! やっぱりモブモブ同盟のみんなは最高だ……っ! 出し抜き同盟のあの欲深くて恐ろしいヤンデレ勢とは違う! 正直で、優しくて、俺という人間そのものを大切にしてくれている……っ!)


「みんな……! ありがとう! 俺、感動したよ……!」


駆は目頭を熱くさせ、感激の面持ちでみんなを見つめた。

……だが。


駆の感動とは裏腹に、モブモブ同盟の5人の空気感が、急激に怪しいものへと変貌し始めていた。


「……でもさぁ、駆くん」

ひよりが、ぽわんと頬を染めながら遠い目をした。


「もしその池から駆くんを無事に助け出せたら……それって、もう運命の糸で結ばれたようなものよね? 私、駆くんと助け合ったその先の未来のこと、もう考えちゃった……」


「え?」

駆が首を傾げる。


ひよりは自分の胸元に両手を当て、トランス状態(トリップ)に入ったようなうっとりとした表情で語り出し始めた。


「私ね、将来は静かな街で古書店を駆くんと一緒に営むの。朝は本のお手入れをして、午後は二人で温かい紅茶を飲んで……。子供は男の子と女の子の二人で、本が大好きな優しい子に育てるの……♡」


「ちょっと待ってひより! 古書店もいいけど、カフェも捨てがたいわよ!」

葵が目を輝かせ、嬉しそうに割り込んできた。


「私は将来、自分のカフェを独立して開くのが夢なの! 駆くんにはお店のエプロンを着て接客を手伝ってもらって……♡ ふふ、子供は賑やかな方がいいから3人かな? 休日にはみんなで新作のパフェの試食会をするの……すごく幸せだと思わない……?♡」


「二人とも甘いわ! 現実的な生活基盤があってこその幸せよ!」

美咲が意気揚々と胸を張る。


「私はバリバリ働いて家計を支えるから、駆くんには専業主婦……じゃなくて専業主夫として家を守ってもらうの! 駆くんの手料理で帰りを待ってもらうなんて最高じゃない! 子供は元気に3人! 賑やかで温かい家庭にするんだから!」


「グヘ、グヘヘヘヘ……っ♡」

怪しい笑い声を上げ始めたのは涼香だった。


「私はね……駆くんと結婚すれば、あの憧れの大河内冴子さんと『本物の家族』になれるのよ……! 駆くんのお嫁さんになりつつ、冴子さんにお義母様って呼ばせていただくなんて……まさに一石二鳥、夢のハイブリッド家庭……グヘヘヘヘッ♡」


「みんな妄想が暴走しすぎよ。現実はもっと手堅く行かないと」

最後に正美が、メガネのツルをクイと押し上げながら冷静な顔(しかし目は完全に据わっている)で告げた。


「私は堅実に共働きで、お互いのキャリアを尊重しながら暮らすわ。子供は一人にして、その分しっかり愛情と教育費を注ぐの。落ち着いたマンションで、週末は三人で公園にお散歩……これが一番の幸福よ♡」


そう、彼女たちは「真実を告げて駆を助ける」という回答をした時点で、**すでに駆を自分のものとして手に入れた気になり、脳内で怒涛の将来設計(結婚&家庭計画)を展開し始めていた**のだ!


「あ、あの……みんな……? なんだか話のスケールが急に飛躍してないか……?」


引きつった笑顔で後ずさる駆。


ひより、葵、美咲、涼香、正美の5人は、うっとりとしたトリップ状態のまま、じわじわと距離を詰めてくる。


「さあ駆くん、どれにする……? 古書店? カフェ? 専業主夫? それともマンション暮らし……?♡」

「逃げなくていいのよ、駆くん……私たちはちゃんと『正しい選択』をしたんだから……♡」


(や、ヤバい……ッ!! こっちも結局、方向性が違うだけで全員ヤバい状態に突入してるぞーーーっ!?)


青ざめた駆は、冷や汗を吹き出させながら叫んだ。


「ご、ごめん! 俺、やっぱりまだ高校生活を楽しみたいからーーーっ!!」


ダッ!!


限界を察した駆は、一目散にその場から全力逃走を開始した!


「あ! 待ちなさい駆くん!」

「逃がさないわよ! 私たちの将来設計を聞いておいて!」

「確保ー! 駆くんを捕まえて私の理想の旦那様にするのよーっ!」


トリップ状態から一転、目の色を変えたモブモブ同盟の5人が一斉に猛追撃を開始!


「助けてくれぇぇぇぇぇっ!! 普通の選択をしたはずなのに、なんでこうなるんだぁぁぁぁっ!!」


放課後の校舎と街並みに駆の悲鳴が虚しく響き渡り、今日も今日とて、平穏とは程遠い鬼ごっこが繰り広げられるのだった。


**【閑話:完】**



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