閑話長編パート17修学旅行編 駆と衝撃の事実!!
修学旅行最終日。
京都駅での全体解散を前に、駆は一連の事件の経緯と無事の解決を報告するため、京都にある藤原家の本家屋敷へと足を運んでいた。
重厚な和室の畳部屋。
正面には、今回の騒動の件で大変な申し訳なさそうな表情を浮かべた祖母と、現当主である伯父の姿があった。
「駆……圭介の件、本当に苦労をかけたな。本家の不始末でお前に危険な目を遭わせてしまい、なんと詫びたらいいか……」
「本当に……すまなかったねぇ、駆……」
頭を下げようとする二人。しかし、そのすぐ脇の縁側で、ちょこんと座っていた小柄な人物がくすくすとおかしそうに笑った。
見覚えのある、狐のお面を被った少女だった。
伏見稲荷大社でも、そして亡き母親の墓参りに行った時も現れた、あの不思議な少女だ。
狐面の少女は、可愛らしく胸を張って勝ち誇るように言い放った。
「ふふ〜ん♪ ほらね、言ったでしょ? カケルなら絶対に自分の力でトラウマを乗り越えて、みんなを助けに行くって! 賭けは私の勝ちね♪」
「……こら! 親族でそんな不謹慎な賭けをするんじゃない!!」
「まったく……お前という子は相変わらず……」
伯父と祖母が一斉に呆れ顔で頭を抱える。
あまりにカオスな状況に、駆は完全に困惑していた。
「あ、あの……一体なんの話なんですか……? それに、その狐のお面の女の子は……」
駆が尋ねると、祖母と伯父は顔を見合わせ、重い口を開いた。
実は——この少女は、数年前に亡くなった駆の【母親】その人なのだという。
亡くなった直後、藤原家の分家の子供として奇跡的に記憶を持ったまま転生していたのだ。
最初は祖母も伯父も「そんな馬鹿な話があるか」と全く信じなかった。しかし、生前の本人しか知り得ない極秘の家族の思い出や癖、本家の秘事などをすらすらと語るため、認めざるを得なくなったのだ。
だが、当時の駆は母を失った深いトラウマと人間不信のどん底にいた。そんな状態の駆に「お母さんは転生して小学生になりました」などと伝えても混乱させるだけだと判断し、今日までずっと秘密にされてきたのだった。
少女は嬉しそうに狐のお面を頭の上にスライドさせた。
そこに現れたのは、かつての母親の面影を色濃く残した、とびきり愛らしい幼い少女の顔だった。
「初めまして……ううん、お久しぶりね、カケル! 私の名前は『藤原 小夜』! よく一人で頑張って過去のトラウマを克服したわね、えらいえらい♪ ちなみにママ、今は小学5年生!」
しれっと恐ろしい事実を告げながら、無邪気にピースサインを決める小夜。
「……は? え? 小学生……!? ていうか、ママ……!? 待て待て待て、意味が分からないぞ!?」
あまりの情報量の多さに、駆の脳内は大パニックに陥る。
過去のトラウマに苦しみ、罪悪感で泣き明かしたあの数年間は一体何だったのか。
「お、俺の過去の涙と葛藤を返せーーーーっっ!!」
駆の魂の叫びが、本家の大広間に虚しく響き渡った。
するとその大声を聞きつけ、心配して外で待機していた義母が「カケルくん!?」と勢いよく部屋に突入してきた。
突然の突入劇となったが、事情を一通り説明された義母もまた、顎が外れんばかりに絶句することとなった。
混乱がひと段落したところで、伯父が真剣な表情で駆に問いかける。
「……さて、駆。これで事件も解決し、お前の母親(小夜)の身の安全も本家で保証されている。お前も藤原の本家に戻り、ここで暮らすという選択肢もあるが……今後の生活はどうするつもりだ?」
本家に戻れば、不自由のない暮らしと名家の庇護が約束される。
だが、駆は迷うことなく、すっと背筋を伸ばして首を横に振った。
「いいえ。俺は……これまで通り、東京で義母さんや義理の姉妹たちと一緒に暮らします」
かつての俺なら、一人で逃げるように過去を捨てていたかもしれない。
だけど今の俺には、どんな時でも俺を追いかけ、重すぎるほどの愛で支えてくれる大切な家族と仲間たちがいる。
「……そっか。カケルくん、ありがとう……!」
義母が涙ぐみながら駆の手を強く握りしめる。
小夜(母)もまた、満足そうにフフッと微笑んだ。
「うんうん、それでこそ私の自慢の息子ね! 寂しくなったら、いつでもママに甘えに来ていいのよ?」
「小学生に甘えられるかよ!!」
最後にあっけらかんとツッコミを入れた駆は、義母とともに本家をあとにした。
向かうは、みんなが待つ京都駅。
相変わらず騒がしくて、愛が重くて、少し厄介な彼女たちの元へ——駆は晴れやかな足取りで駆け出していった。




