閑話長編パート14 修学旅行編 駆の過去現在
――過去。華やかで、そして残酷だったあの頃の記憶。
当時、国民的映画の主演として日本中からチヤホヤされていた俺は、心の底で腐りきっていた。
周りの大人はみんな笑顔を貼り付け、俺の機嫌を損ねないように必死で媚びを売ってくる。名家の人間であり、次期当主の婚約者である葵までが俺に好意を寄せていた。他にも、俺を取り巻く人間はいくらでもいた。
だが、俺はそれを表に出すほどバカじゃなかった。
「ボクなんて、そんな……みんなのおかげだよ」
そんな薄っぺらい謙虚のフリを演じ、周囲の人間を心のなかで冷ややかに欺き、嘲笑っていた。すべてが自分の掌の上で転がっていると、本気で信じ切っていたのだ。
だから、あの誘拐の噂を耳にした時も、恐怖なんて微塵もなかった。
(どうせ大したことないだろ。ちょっと大人が騒いでるだけだ。僕の頭脳と周りの手練れなら、事前に察知して簡単に解決できるさ)
……甘かった。
相手は、綺麗事の通じない冷酷な大人たちだった。
数の暴力の前に、俺の浅知恵などあっという間に踏みにじられ、あんなに自信満々だった俺は、ただの無力な子供として簡単に拘束された。
そして——最悪の結果が生まれた。
俺の傲慢さと、浅はかな油断のせいで、我が子を庇った母さんが目の前で命を落としたのだ。
すべてが崩れ去った。
自分が信じていた「特別」はただの虚構で、自分の傲慢さが招いた悲劇だけが現実として残った。
誰も信じられなくなった俺は、芸能界から逃げ出し、犯人の血族である藤原の本家からも完全に距離を置いた。あんな地獄には、もう二度と戻らないと誓った。
――そして、現在。京都。
「くそっ……!」
頭の中でフラッシュバックする過去の悪夢を振り払いながら、俺はアスファルトの道を全速力で走っていた。
あの時、俺はすべてを捨てて逃げた。
周囲の人間を信用せず、ただ孤独に身を隠すことでしか自分の心を守れなかった。
だけど——。
あんな過去のトラウマを抱え、人間不信になっていた俺からどれだけ突き放されても、決して離れようとしなかった詩織や麗華。
そして、あの忌わしい事件のあとから何年も、俺の帰りをひたすら健気に待ち続けてくれていた元婚約者の葵。
彼女たちは、かつての俺の欺瞞も、今の無様なボッチの姿もすべて引っくるめて、俺に向き合ってくれていたのに。
「今度は……見逃してたまるかよ……っ!」
あの時の犯人——藤原圭介が、過去の恨みと狂気から彼女たちを狙っている。
母さんを失ったあの日の絶望を、今度は俺の大切な人たちに味あわせるなんて絶対にさせない。
過去の臆病な自分を、ここで断ち切る。
天才子役のメッキが剥がれ落ちた、本当の意味での「守るべきもの」のため、俺はただむしゃらに、泥臭く、愛しい彼女たちの待つ場所へと走り続けた。




