↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

123/132

閑話長編パート14 修学旅行編 駆の過去現在


――過去。華やかで、そして残酷だったあの頃の記憶。


当時、国民的映画の主演として日本中からチヤホヤされていた俺は、心の底で腐りきっていた。

周りの大人はみんな笑顔を貼り付け、俺の機嫌を損ねないように必死で媚びを売ってくる。名家の人間であり、次期当主の婚約者である葵までが俺に好意を寄せていた。他にも、俺を取り巻く人間はいくらでもいた。


だが、俺はそれを表に出すほどバカじゃなかった。

「ボクなんて、そんな……みんなのおかげだよ」

そんな薄っぺらい謙虚のフリを演じ、周囲の人間を心のなかで冷ややかに欺き、嘲笑っていた。すべてが自分の掌の上で転がっていると、本気で信じ切っていたのだ。


だから、あの誘拐の噂を耳にした時も、恐怖なんて微塵もなかった。

(どうせ大したことないだろ。ちょっと大人が騒いでるだけだ。僕の頭脳と周りの手練れなら、事前に察知して簡単に解決できるさ)


……甘かった。

相手は、綺麗事の通じない冷酷な大人たちだった。

数の暴力の前に、俺の浅知恵などあっという間に踏みにじられ、あんなに自信満々だった俺は、ただの無力な子供として簡単に拘束された。


そして——最悪の結果が生まれた。

俺の傲慢さと、浅はかな油断のせいで、我が子を庇った母さんが目の前で命を落としたのだ。


すべてが崩れ去った。

自分が信じていた「特別」はただの虚構で、自分の傲慢さが招いた悲劇だけが現実として残った。

誰も信じられなくなった俺は、芸能界から逃げ出し、犯人の血族である藤原の本家からも完全に距離を置いた。あんな地獄には、もう二度と戻らないと誓った。


――そして、現在。京都。


「くそっ……!」


頭の中でフラッシュバックする過去の悪夢を振り払いながら、俺はアスファルトの道を全速力で走っていた。


あの時、俺はすべてを捨てて逃げた。

周囲の人間を信用せず、ただ孤独に身を隠すことでしか自分の心を守れなかった。


だけど——。

あんな過去のトラウマを抱え、人間不信になっていた俺からどれだけ突き放されても、決して離れようとしなかった詩織や麗華。

そして、あの忌わしい事件のあとから何年も、俺の帰りをひたすら健気に待ち続けてくれていた元婚約者の葵。


彼女たちは、かつての俺の欺瞞も、今の無様なボッチの姿もすべて引っくるめて、俺に向き合ってくれていたのに。


「今度は……見逃してたまるかよ……っ!」


あの時の犯人——藤原圭介が、過去の恨みと狂気から彼女たちを狙っている。

母さんを失ったあの日の絶望を、今度は俺の大切な人たちに味あわせるなんて絶対にさせない。


過去の臆病な自分を、ここで断ち切る。

天才子役のメッキが剥がれ落ちた、本当の意味での「守るべきもの」のため、俺はただむしゃらに、泥臭く、愛しい彼女たちの待つ場所へと走り続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。