閑話長編パート13 修学旅行編 怪しい影
――京都の市街地から遠く離れた、打ち捨てられた廃工場。
カビと錆の匂いが立ち込める薄暗い室内で、男は不気味な笑みを浮かべながらナイフの刃先を眺めていた。
男の名は、藤原圭介。
かつて、名家である藤原家の長男として生まれた男だ。
だが、どれだけ血の滲むような努力を重ねても、俺が評価されることはなかった。
上に優秀すぎる姉がいたせいで、俺は「長子」ではなく、ただの頭数に過ぎない扱いを受け、次期当主の座はおろか、藤原の本家においてまともな居場所すら与えられなかった。
そんな俺の劣等感と憎悪を、極限まで加速させた存在——それが、大河内駆だった。
映画『友達100人にできるかな? ザ・ムービー』のヒットと共に、世間は狂乱の『駆フィーバー』に包まれた。
どこに行ってもあのガキの顔。誰も彼もがあの天才子役をちやほやし、藤原の本家すらも「天才児」ともてはやしていた。
(あんなガキの一言で、藤原の本家の人間が右往左往しやがる……!)
嫉妬で狂いそうだった俺は、ある恐ろしい計画を思いついた。
世間の目が駆に集中しているなら、あいつを手に入れて操り人形にしてしまえばいい。
そうすれば、藤原の本家も俺を認めざるを得なくなり、当主の座だって俺の手に転がり込んでくるはずだ、と。
俺はテレビ業界の闇深いやつらや裏社会の人間と手を組み、駆の誘拐作戦を実行に移した。
——だが、計画は思わぬ形で破綻した。
土壇場で駆を庇ったあいつの母親が身代わりになり、命を落としたのだ。
事件は大沙汰になり、裏の協力者どもは蜘蛛の子を散らすように逃げ去り、すべての罪を被された俺だけが警察に取っ捕まった。
冷たいコンクリートの壁に囲まれた刑務所で過ごした、気の遠くなるような長年月。
俺の人生の黄金期は、すべてあの事件と、大河内駆という存在によって踏みにじられたのだ。
そして——ようやく刑期を終え、シャバに出てきた俺を待っていたのは、絶望的な現実だった。
藤原家の戸籍からは完全に抹消され、世間からは忘れ去られた惨めな泥をすうような日常。
だが、俺の心の中で燃え上がる殺意と不平不満だけは、何年経とうが消え失せることはなかった。
調べ上げれば、あのガキは芸能界を引退し、一般人のフリをして能々と高校生活を送っているという。
しかも、修学旅行でこの京都に来ているだと……?
「ふふ……ふははははッ! 最高の舞台じゃないか……!」
お前のせいで俺の人生は狂った。
だからこそ、今度は俺が、お前の一番大切なものを奪ってやる。
お前の周りに群がる女たち——かつての共演者も、藤原の本家の関係者も、すべて俺の手で絶望の底に叩き落としてやる。
「待ってろよ、大河内駆……。お前が積み上げてきた平凡な幸せを、目の前で跡形もなくぶち壊してやるからな……!」
薄暗い部屋に、男の狂気じみた笑い声がいつまでも響き渡っていた。




