閑話長編パート10修学旅行編 駆を巡る本家バトル
「……はぁ。まさかこんな大名屋敷の最奥まで連れてこられるなんて、俺のライフはもう完全にゼロを突破してるな……」
太秦映画村から黒塗りの最高級車で強制連行された俺は、名門『藤原一族』の本家邸宅の重厚な奥の間へと通されていた。
そこに佇んでいたのは、厳格なオーラを放つ現当主の伯父である藤原秀臣さんと、かつて芸能界に多大な影響力を持ち、あの引退事件の責任を取って身を引いた元当主の祖母、藤原静江さんだった。
大河内家の血を引く俺が、過去の爆心地というべき二人の前に立ち、手慣れた大人のインテリジェンスな真顔で身構えた、まさにその瞬間のことだった。
「――駆、本当にすまなかった。あの事件の際、本家でありながらお前を芸能界の荒波から守りきれず、大河内家へ押し付けるような形にしてしまったことを、ずっと悔やんでいたのだ」
「駆くん、本当に申し訳ありませんでした……。私があの時、もっと早く動いていれば、あなたにこれほど辛い思いをさせずに済んだものを」
部屋に入った途端、現当主の秀臣さんと元当主の静江さんの二人が、俺に向かって深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にした。
想定外すぎる本家からの直球の謝罪に、俺の脳内のチキンナイフが一瞬で作動を停止した。
「あ、いや……頭を上げてください、伯父さん、祖母さん。あの事件は、元を正せば人気に溺れて周囲が見えなくなっていた俺の責任が一番多かったんです。お二人が謝ることじゃありません。俺は今、義理の家族と本当に平穏で幸せな毎日を送っていますから」
俺が少しだけ苦笑いを浮かべながら、胸の奥に封印していた本音を静かに吐き出すと、奥の間の空気はどこか寂しげで、暗い静寂に包滅してしまった。
そんな重苦しい雰囲気をパッと切り裂いたのは、バタバタと廊下を走ってくる軽やかな足音だった。
「駆お兄ちゃん……!? 本当に駆お兄ちゃんなの!?」
襖が勢いよく開き、飛び込んできたのは、俺の従兄弟の元婚約者である藤原葵の妹、藤原紅葉だった。かつて子役時代に俺の後ろをちょこちょこと付いてまわっていた彼女は、俺の姿を見るなり目を輝かせ、そのまま俺のパジャマの袖にぎゅっと抱きついてきた。
「やっぱりお兄ちゃんだ! 会いたかった……ずっとずっと、また会えるのを待ってたんだよ!」
「あはは、久しぶりだね、紅葉。ずいぶん大きくなったなぁ」
彼女の純粋で人懐っこい笑顔と、手慣れたエスコートを仕掛けるまでもない本物の懐かしさに、張り詰めていた場の空気が一気に穏やかなものへと変わっていく。秀臣さんたちも、その光景を見てどこか救われたような表情を浮かべていた。
――だが。その古都の美しい家族の再生劇(※ただの身内の和解)は、次の瞬間、物理的な破壊音によって木っ端微塵に粉砕された。
ドガァァァァァン!!!!
「――そこまでよ、大河内駆の過去の因縁(藤原一族)の皆様ぁぁぁぁ!!!! 駆くんの劇的な連行ログを二十四時間体制で爆速ハッキングし、京都の立ち入り禁止エリアの結界ごと粉砕して、今すぐ正妻のメインディッシュ(添い寝枠)を回収に参りましたわぁぁぁ!!!(カチコミ)」
「おれまーっ! 駆との古都ハネムーンを邪魔する本家の門扉なんて、私の群馬の粘り腰と赤城おろしの風圧で粉砕して差し上げますわ!」
「ぶっっっ!!!!???」
映画の撮影や神崎トレーナーのスパルタ指導で鍛え上げられた「五十三万の怪力」によって、藤原邸の歴史ある重厚な襖と壁が一瞬で粉砕され、完璧に目を血走らせた白雪詩織、西園寺麗華、さらに義実家同盟のひまりちゃんたち化物プレデター連合軍が、地響きを立てて奥の間へと一斉になだれ込んできたのだ。
「な、何事ですか、この無礼な暴徒たちは……っ!?」
秀臣様たちが人生で初めて体感するプレデターパワーの風圧にガタガタと震える中、俺の横にいた元婚約者の藤原葵が, すっと俺の前に立ちはだかり、葵たちを冷徹に睨み据えた。
「あら……太秦だけでは飽き足らず、我が藤原の本家にまで土足で踏み込んでくるなんて。駆くんは私たちの身内の大切な方。東京の泥棒猫たちが勝手に連れ去ることは許しませんわ」
その言葉を聞いた瞬間、白雪詩織の瞳から、完全にハイライトという名の光が消え去った。
「身内……? クスクス、笑わせないでくださる? 過去の爆心地で駆くんを一度見捨てたくせに、今更どの口が合法的な正妻の座(実家公認)を名乗っていますの? 駆くんの初めてのメインディッシュは、この私が二十四時間体制で管理(添い寝)すると決まっているのですわ♥」
「なんですって……? 過去の絆をナメないことですわ。駆くんの隣の特等席は、最初から私のものでしてよ」
お互いに完璧に目を血走らせた白雪詩織と元婚約者の藤原葵の二人が、至近距離でバチバチと激しい火花(クソデカ感情の爆発)を散らし始め、奥の間の気圧がガチバチと歪んでいく。
「駆くんの入浴回(混浴)の権利は海外組が十倍よ!」
「駆! 俺のアクションスキルでこのお屋敷ごとエスコートしてやるぜ!」
修学旅行参加組全員が、突如現れ京都の本家が、俺の所有権(捕獲枠)を巡る第3次世界大戦が、大名屋敷のど真ん中で大爆発した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本家(藤原)との過去の決着が綺麗についたと思ったら、なんで修学旅行の二日目に世界を滅ぼしかねない女の戦いが始まるんだよぉぉぉぉ!!! 頼むから俺を置いてみんな一回外に出てくれよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶チェックは、神崎トレーナー直伝の超高速骨盤連動ステップを踏む暇もなく、両側から詩織ちゃんと元婚約者の葵の二人にガッチリと腕のロックをキメられ、左右に引きずり回されるという絶体絶命のサバイバルの中で虚しくかき消され、修学旅行の長編閑話は、古都の歴史的建造物を盛大に更地に変えていく、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発暴走チェイスで幕を閉じるのだった。




