↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/132

閑話長編パート8 修学旅行一日目夜


「……はぁ。清水の舞台から飛び降りて生き延びたと思ったら、今度はホテルの大部屋でこれか。初日から俺のライフはもう完全にマイナス域だな……」


清水寺での決死の飛び降りスタントを経て、何とか夜に京都のホテルへチェックインした俺。しかし、一息つく間もなく、俺たちの泊まる大部屋は、翌日の二日目の行程を再確認するためのピリピリとした会議場と化していた。


一応、俺の班は全員で一緒に行動するという例の超巨大大所帯班なのだが、それ以外のクラスの女子たち(他班)も「駆くんの行動ルートから一ミリも離れるわけにはいきませんわ!」と、部屋の壁際にギチギチに陣取って完璧なコバンザメ状態で俺たちの動向を凝視している。


「みんな、明日の予定なんだけどさ……。実は高坂マネージャーや五味プロデューサーたちマネジメント組が、仕事の打ち合わせで太秦に来ているらしいんだ。だから、俺たちの班も『太秦映画村』と『嵐山』へ行くように予定を変更しない?」

俺は、あの芸能界の最高権力者である大人組を盾にすれば、クラスの女子たちのピンクの欲望の暴走をコンプライアンス(麗美マネージャーの威圧感)で少しは相殺できるはずだと踏み、インテリジェンスな真顔で変更を打診した。


その瞬間、詩織や麗華たちの瞳に強烈な警戒の光が灯った。

「お外の強豪であるあの大人組の猛獣たちが太秦に……!? 駆くん、そんな危険な爆心地へ自ら近づくなんて、正妻の私が許しません!」

「フン、映画村ごと西園寺の財力で買い占めて、明日は一日中ホテルに監禁した方が安全ですわ!」


案の定、大人組を警戒して猛反発する出し抜き同盟や海外ホームステイ組の面々。しかし、俺もここで引き下がるわけにはいかない。

「……そっか。それなら、明日は俺たちの班とみんなの班で『別行動』にするしかないね。俺は映画村に行くから」


俺がスッとみんなの目を見つめ、大人の余裕を漂わせながら寂しげに微笑むと、彼女たちの顔色が瞬時に変わった。

「な、なんですって……!? 別行動なんて、他の泥棒猫に駆くんを抜け駆けされるリスクが跳ね上がるだけじゃないの!」

「ぐ、ぬぬぬぬ……っ! わかりましたわよ! そこまで言うなら、しぶしぶですけれど太秦への行程変更を了承して差し上げますわ!」


首根っこを掴まれるような思いでぐぬぬと絶句した彼女たちは、俺と離れる恐怖の前にしぶしぶ折れ、二日目の行程会議は力ずくでまとまった。

こうしてようやく明日の確認が終わり、いよいよ修学旅行の醍醐味である「入浴と就寝」の流れへと移ったのだが――本当の地獄(サバイバル)はここからだった。


「……っ!? あなたたち、修学旅行のしおりのタイムスケジュールを見なさい! 21時からは、待ちに待った『駆くんの露天風呂入浴回(※ただの大浴場)』の時間よぉぉぉぉ!!! 臨戦態勢(全裸)を引き連れて、今すぐ大浴場へカチコミをかけなさい!」

詩織が完璧にハイライトの消え去った瞳でエプロンドレスを脱ぎ捨てようとし、麗華が「西園寺の権力で男湯と女湯の仕切りを言い値で撤去して差し上げますわ!」と目を血走らせ、エリカやココたち海外組も「1足す1は混浴(200)よ!」と大暴走。


「「「「駆くん(カケル様)の入浴回キターーーーッッ!!!!」」」」


地鳴りのような怒号を上げ、リビング……ではなく大部屋の襖を蹴り破って大浴場へ突撃しようとする女子たちの前に、割れ門の如き仁王立ちで立ちはだかったのは、修学旅行の引率チームである我が校の教師陣だった。


「お前たちいい加減にしろ!! 生徒の節度ある入浴時間を力ずくで乱そうとする奴は、先生たちが停学処分にしてでもここで食い止める!! 早く行け、大河内!!」

「せ、先生……!!」


夜の廊下で、血眼になった女子たちのピンクの欲望(プレデターパワー)を肉体で受け止め、涙目で俺を逃がそうと盾になってくれる担任の先生たち。

「先生たちの犠牲は、絶対に無駄にはしない……っ!!」

俺は脳内にチキンナイフを完全装備し、神崎トレーナー仕込みの『完璧な骨盤の連動による超高速ダッシュ』を爆発させ、阿修羅の如き修羅場と化した廊下を駆け抜けて大浴場へ音速脱走。一瞬でカラスの行水のごとく超特急で入浴を済ませると、髪を乾かす暇もなく、自分の割り当てられた男子部屋へと滑り込んで鍵を二重にロックした。


ハァ、ハァ、ハァ……。

「危なかった……。本当に京都のホテルは一瞬でも油断したら人生が終わるな……」

額の冷たい汗を拭い、俺はようやく静かな夜が訪れたのだと安堵の息を漏らした。

「さあ、明日の太秦映画村に備えて、今夜は早く布団に入って爆睡するぞ」


俺はパジャマの襟元を正し、敷かれた布団に潜り込もうとした、まさにその瞬間のことだった。


バガァァァン!!!!


「――甘いわよ大河内駆!! 入浴回がダメなら、今度は修学旅行の夜の王道『ガチの枕投げ大戦』の時間よぉぉぉ!! 枕の硬さを西園寺の財力で十倍(※ただの鉄板入り枕)にして、あなたを気絶させて私のベッドへ連行(ハネムーン)して差し上げますわ!」


「カケルの初めての枕(添い寝)の座は、この白雪詩織のものです! 新参の海外組もまとめて私の愛のチャクラで白紙化してあげます!」


「ぶっっっ!!!!???」


ドアと襖を同時に蹴破り、完璧に目を血走らせて枕を両手に構えた白雪詩織、西園寺麗華、蓮たちの【出し抜き同盟】、さらにはひよりちゃんや海外ホームステイ組たちクラスの女子全員が、暗黒のヤンデレ笑顔を浮かべて一斉に部屋へなだれ込んできた(カチコミ)のだ。


「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただ普通に明日の準備をして寝ようとしただけなのに、なんで夜の布団の上で第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!! 頼むから静かに寝かしてくれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


俺の切実な絶叫は、所有権(駆の隣の布団)を巡って再び超高速でフライングピロー(枕)を乱れ飛ばし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常長編のはずの修学旅行の夜は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発バタバタエンドで幕を閉じるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。