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閑話長編パート7 修学旅行一日目午後


「……はぁ。お稲荷様から強制連行されて、今度は清水寺か。初日から俺のライフはもう完全にゼロを突破してるな……」


伏見稲荷での「軽いから即結婚神輿事変」を経て、俺は両手両足をがっちりとホールドされたまま、一般人の生徒たちと合流するために『清水寺』へとやってきていた。


古都の美しい景色が広がる中、有名な『清水の舞台』に立った瞬間、俺の隣を歩く白雪詩織や西園寺麗華たち【出し抜き同盟】の面々は、またしても不穏なハネムーンの妄想を膨らませ始めていた。

「駆くん、この清水の舞台から手を繋いで一緒に飛び降りれば、きっと来世まで結ばれるコンプラ違反の純愛心中(ハッピーエンド)の完成ですわ♥」

「待ち変えなさい白雪詩織! 飛び降りるなら西園寺の最高級パラシュートを言い値で買い占めてからよ!」


突拍子もないヤンデレ心中論を前に、俺は冷や汗を流しながら、元天才主演としてのスマートな知識(※ただの台本の暗記で得た無駄な雑学)をインテリジェンスな真顔で披露した。


「……あのさ、みんな落ち着いて。江戸時代の記録によると、清水の舞台から実際に飛び降りた人の生存率は約85%と非常に高くて、死ぬ確率はかなり低いんだよ。だから心中にはならないし、ただ骨折して後の片付けが絶望的に大変になるだけだからね」

「まぁ、さすが駆くん! 飛び降りても高確率で生き残るなんて、私たちの愛のパッションは不滅(満点)ということですわね!」

「いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……」


俺の必死のうんちく(※ただの牽制)をポジティブに脳内変換され、呆気にとられながら今度は『音羽の滝』へと移動した。

ここには3本の霊水が流れており、学業・恋愛・延命長寿のご利益があると言われているのだが、

「駆くんとの恋愛成就を願って、この霊水を二十四時間体制でがぶ飲み(管理)しますわ!」

「フン、西園寺の圧倒的な独占欲(チャクラ)を満たすために、真ん中の水を樽ごと買い占めて飲み干して差し上げますわ!」


詩織や麗華たちが、恋愛成就の御利益がある『真ん中の水』を狂気的な勢いでがぶ飲みし始めた。周囲の一般人の生徒たちが「な、んだあの美少女大食い大会は……っ!?」とガタガタ震えてドン引きしている。

「おいおい、学生の修学旅行なら、普通は一番左の『学業成就の水』を少しだけ嗜むものだろ……」

俺はクラスメイトたちの本末転倒な暴走っぷりに、ただただ深いため息をついて呆れるしかなかった。


何とか一般人の生徒たちと合流を果たし、清水寺の観光を終えた俺たちは、本日宿泊する予定のホテルへと移動するためのチャーターバスへと向かった。

――が、本当の地獄(サバイバル)は、そのバスの乗車口の前で再び幕を開けた。


「駆くん! バスの座席は当然、私と隣同士の密室ハネムーン席ですよね!?」

「待ち変えなさい白雪詩織! 駆の隣の座席は私の特等席よ! 駆、いい加減に誰の隣に座るか、あんたの口からハッキリと決めなさい!」

「そうだぞ駆! お前という相棒が誰の隣に座るか、この場で今すぐ白黒つけろ!」


麗華、詩織、蓮たち【出し抜き同盟】。さらにその背後からは、

「駆くん……! 『読書には隣の席』、そして私の脳のデータが――」

とひよりちゃんがノートを突き出し、

「1足す1は私の隣(200)よ、十倍だぞ十倍!!」

と星野エリカや黄川田ココたち【海外ホームステイ組】の面々までもが、完璧に目を血走らせて俺の周りをガッチリと包囲し、一斉に詰め寄ってきたのだ。


「誰の隣に座るか駆が決めて!!」と、クラスの女子たちのクソデカ感情(ピンクの欲望)の怒号が飛び交う。

「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 誰を選んでも今日中に殺されるに決まってるだろぉぉぉぉ!!!!」


俺は脳内にチキンナイフを完全装備し、神崎トレーナー仕込みの超高速ステップで彼女たちの包囲網をかいくぐり、バスのロータリーから再び清水の舞台の方面へと必死に逃げ回った。しかし、背後からは地響きのような猛ダッシュで全員が追いかけてくる。ついに俺は、夕暮れの清水の舞台の手すりの最前線へと、絶体絶命の形で追い詰められてしまった。


左右は完全に血眼になった彼女たちの人垣。前を向いても、「さあ、私の隣(メインディッシュ)の座席表にサインを……♥」とハイライトの消えた瞳の詩織たちが手を伸ばしてくる。

このまま捕まれば、ホテルの部屋割りまで完全に実家監禁……いや、ハネムーン監禁が確定してしまう。


その時、俺の脳裏に、先ほど自分で披露したばかりのあの雑学がパッとフラッシュバックした。


『清水の舞台からの生存率は、約85%と非常に高い――』


「……クソっ! 捕まって監禁される確率が100%なら、85%の生存率に賭けた方がマシだろ!!」


俺は一か八かの大博打に出る覚悟を決め、手すりに足をかけると、

「みんなごめん! 俺は誰の隣にも座りません!!」

と叫び、夕暮れの空に向かって、勢いよく清水の舞台から真っ逆さまに飛び降りたのだった。


「「「「カケルの特等席があぁぁぁぁーーーーっっ!!!???」」」」


上空から響き渡る彼女たちの悲鳴を置き去りにしながら、俺はそのまま舞台の下の生い茂る木々のクッション(緑地)へとドカンと不時着。骨折こそ免れなかったものの、生存率85%の数値の通りに、なんとか五体満足で命からがら彼女たちの包囲網から一時的にエスケープすることに成功したのだ。


舞台の下の藪の中から、泥だらけの半泣き顔で「いたたた……本当にただのバスの座席を決めるだけなのに、なんで命がけのスタントアクションをしなきゃいけないんだよぉぉぉぉ!!!!」と苦笑まじりに痛みに悶えている、俺の哀れな姿。


そんな俺たちの、清水の舞台を巻き込んだ前代未聞の大爆発ドタバタ劇(スタントシーン)を、遠くの参道の木陰から、じっと凝視している一人の美しい女性の姿があった。

彼女は、泥だらけで藪から這い出てくる俺の顔をじっと見つめ、その形の良い唇を小さく震わせながら、どこか意味ありげな、クソデカ感情の籠もった声でボソリと呟いた。


「……あら。あそこにいるの、本当に……駆くん、なの……?」


その女性の、どこかただの元共演者とは一線を画すような、運命の糸を感じさせる思わせぶりな呟きの余韻を、舞台の上から「今すぐ下山して駆くんを救出(捕獲)しますわ!」と斜面を滑り降りてくる詩織たちの怒号で木っ端微塵に粉砕されながら、俺たちの修学旅行1日目の夕方は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発暴走チェイスで幕を閉じるのだった。


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