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閑話長編パート6 修学旅行一日目午前中


「……はぁ。修学旅行の初日から、どうして新幹線の中で日本を往復するような大イベントに巻き込まれなきゃいけないんだ……」


あの「東京・京都間の大Uターン劇」を経て、名古屋駅あたりで俺がすでに京都駅にいることを察知して爆速で引き返してきたクラスの女子たちと、俺はなんとか合流を果たすことができた。

しかし、その新幹線のゴタゴタのせいで、俺たちの一団はスケジュールが完全に崩壊。普通の修学旅行生である一般人の生徒たちとは一時的に別行動をすることになってしまった。


「……仕方ないわね。他の一般の生徒たちは、西園寺の息がかかった金閣寺のルートへ向かわせましたわ。私たちはとりあえず、京都駅付近の『伏見稲荷大社』を観光して、後ほど『清水寺』でみんなと合流するルートを取りましょう」

サングラスをクイと上げながら、麗華が手慣れた様子で全体のスケジュールを仕切る。


こうして、俺とクラスの女子たちによる、事実上の『貸し切り状態の隔離観光』がスタートした。

どこまでも美しく続く朱色の千本鳥居をくぐり、奥社奉拝所へと辿り着いた俺たちの前に、有名な『おもかる石(重軽石)』が現れた。灯篭の上の石を持ち上げたときに、予想より軽ければ願いが叶い、重ければ叶わないという、あの伝説のパワースポットだ。


「フフ、面白い試みですわね! カケルとの生涯のコンプラ(婚姻届)を願って、西園寺の令嬢の実力を見せてあげますわ!」

麗華が意気揚々と石に手をかけ、フンッ! と凄まじいマネーパワー……ではなく、令嬢らしからぬ驚異的な背筋で石を景気よく持ち上げた。


「おれまーっ! 誰が最弱よ! 私の群馬の粘り腰をナメないことね! 駆くんとの古都ハネムーンを願って、その石ごと赤城おろしの風圧で粉砕してあげるわ!」

みのりちゃんが凄いパッションを燃やして石を片手で軽々とジャグリングの如く放り投げ、「駆くんとの合法的な添い寝を願って、この石を24時間体制で管理(お持ち帰り)します♥」と詩織がハイライトの消え去った瞳で石を小脇に抱え、「駆! 俺のアクションスキル(※中身はピュア乙女)なら、この程度の漬物石、指一本で余裕だぜ!」と蓮が顔を真っ赤にして石を片手で天高く掲げる。


全員が映画の撮影や神崎トレーナーのスパルタ指導で鍛え上げられた「五十三万の怪力」をこれでもかと大自慢して披露し始め、周囲の観光客が「な、なんだあの美少女力持ち軍団は……っ!?」とガタガタ震えてドン引きしている。


「みんな、お願いだから公共のパワースポットで筋肉番付みたいな暴走をするのはやめてくれ!」

俺がタジタジになりながら必死のレディファースト(ただの懇願)を叫んだ、まさにその瞬間のことだった。


「――あら? だったら、石を比べるよりも、駆くん本人を持ち上げた方が早いですわよね?」

「カケル、とっても軽いですわ! 神様、予想より遥かに軽いから、今すぐここで『即結婚ルート(※大いなる下心)』が確定しましたわ!!」


「ぶっっっ!!!!???」


麗華と詩織の2人に、両脇からお米の袋でも担ぐかのような手軽さで、俺の身体を軽々と宙へ持ち上げられてしまった。

「駆の体重データ(お姫様抱っこ枠)を回収しました♪」「駆監督を私の特等席へ連行するわ!」と、そのまま俺を神輿のように担ぎ上げて「即結婚!」「ハネムーン!」と暴れ回る彼女たちのパッションの前に、俺の生存本能(チキンナイフ)が限界突破した。


「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 俺は石じゃないし、軽いから即結婚なんてどんな力技のイナババ設定だよぉぉぉぉ!!!!」


俺は一瞬の隙を突き、神崎トレーナー直伝の超高速の骨盤連動ステップで彼女たちの腕のロックをすり抜け、千本鳥居のさらに奥の院(稲荷山)の静寂の闇へと、涙目で全力の音速脱走を敢行した。


ハァ、ハァ、ハァ……。

「危なかった……。あいつら、京都に来てから怨念のパワーが十倍くらい跳ね上がってないか……?」

深い緑に囲まれた奥の院の静寂の中、俺は息を切らしながら、ようやくヒロインたちを撒いたことに安堵していた。


鳥居の陰で静かに心を落ち着かせようとした、その時だった。


「……ふふ。相変わらず、女の子たちに追いかけ回されて、なっから賑やかな日常を送っているのね、駆くん」


「え……?」


不意に背後から、鈴の音のように軽やかで、どこか懐かしい声が響いた。

バッと振り返ると、木漏れ日の中に、白い着物に朱色の袴をまとい、顔に『狐の面』をすっぽりと被った、不思議な雰囲気の少女が一人、ちょこんと鳥居の根元に座ってこちらを見つめていた。


「君、は……? 迷子、なのかな?」

俺が手慣れたエスコート(親切心)で声をかけようと一歩踏み出すと、狐の面の少女はクスリと小さく笑い、面の奥にある吸い込まれそうな瞳で、俺の目をまっすぐに見つめてきた。


「ねぇ、駆くん。――あなたは、まだあのこと(過去の思い出)について、心が吹っ切れていないの?」


「っ……!」


その言葉を聞いた瞬間、俺の脳裏に、心臓の奥をチクリと刺すような、妙に不思議な思いと、強烈な懐かしさが一瞬だけ去来した。

この声、この独特な話し方のテンポ。俺は絶対に、この少女を昔どこかで知っていたはずだ――。


「君は、一体誰――」

俺がその面の男の子……いや、少女の正体を確かめようと手を伸ばした、まさにその瞬間のことだった。


「見つけたわ、大河内駆!! 屋上の次は、この伏見稲荷の千本鳥居を舞台に、一体どこの野生の泥棒狐と密会(※大いなる誤解)を繰り広げているのよ!?」

「駆くん、おいたが過ぎる迷子イベントはそこまでです! 24時間体制のハネムーンの続きを始めましょうね♪」


「ぶっっっ!!!!???」


怒髪天を突いた詩織や麗華たち【出し抜き同盟】の面々が、完璧に目を血走らせて鳥居の隙間から一斉になだれ込んできたのだ。

慌てて俺が前を振り返ると、先ほどまでそこにいたはずの狐の面の少女の姿は、まるで煙のように綺麗に消え失せていた。


「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただ道を尋ねようとしただけなのに、なんでお稲荷様の聖域の中で第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」


俺の切実な絶叫は、所有権(駆の捕獲枠)を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、そのまま両手両足をガッチリとロックされた俺は、引きずられるようにして京都駅の清水寺行きバス乗り場まで強制連行されていくのだった。


謎の少女の残した思わせぶりな言葉の余韻を、彼女たちのピンクの欲望のパッションで木っ端微塵に粉砕されながら、俺たちの修学旅行1日目は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発暴走チェイスで幕を閉じるのだった。


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