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閑話長編長編パート5 駆京都へ


「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」


あの恐怖の「布団の中に潜む幼馴染事変」によって、一晩中一睡もできないまま迎えた修学旅行の当日朝。俺の精神生命力は、東京駅の東海道新幹線ホームに到着した時点で、すでに完全に消滅寸前だった。


改札前での集合時、クラスの女子たちは案の定、俺の隣の座席(特等席)の所有権を巡って、早くもバチバチと火花を散らす臨戦態勢に入っていた。

「駆くん、のぞみ号の座席表は私がコンプラ違反ギリギリの裏工作で――」

「フン、言い値で新幹線の車両ごと買い占めますわ!」


俺は彼女たちの凄まじい殺気(ピンクの欲望)から一時的にでもエスケープするため、トイレに駆け込み、発車直前のギリギリのタイミングでホームへと戻った。

(よし、今ならあいつらも全員車内に入っているはずだ。このまま車両の端っこのデッキの隙間に音速脱走すれば、京都までは絶対に安全――)


そう思った瞬間、俺の目の前で、大きな旅行カバンを抱えたおじいさんがバランスを崩し、中身の荷物をホームに派手にぶちまけて転倒してしまった。


「うわっ!? 大丈夫ですか、おじいさん!」

元天才主演としてのスマートなレディファースト(ただのお節介な親切心)が体に染み付いている俺は、迷わずおじいさんの元へと駆け寄り、荷物を拾い集めて彼を抱き起こした。

しかし、そのおじいさんの介抱に全力を尽くしてしまったのが完全に運の尽きだった。


プシューーーーッ……。


「……あ」

無情にも、俺の荷物と、俺の所有権を巡って大戦争を起こしている女子たちを乗せたのぞみ号は、静かにホームを離れて爆速で加速していった。

大河内駆、まさかの修修学旅行当日に、東京駅で一人きりの置き去り(乗り遅れ)が確定した瞬間だった。


「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 完璧に裏をかいたつもりが、まさか自分が物理的に新幹線に取り残されるなんて聞いてないよぉぉぉぉ!!!!」


俺の切実な絶叫が東京駅のホームに虚しく響き渡る。

慌てて教員(担任の先生)の携帯に連絡を入れると、受話器の向こうから先生の悲痛な絶叫が聞こえてきた。

『お、大河内ぃ!? お前乗り遅れたのか!? ちょ、大変なんだ、お前がいないと知ったクラスの女子たちが、新幹線の車内で完全にパニックを起こして――』

ザザッ、と激しいノイズのあと、電話は強制的に切れてしまった。


「……はぁ。仕方ない、次の新幹線の切符を買うか」

俺はガックリと肩を落とし、先ほど助けたおじいさんと一緒に、後発の自由席の新幹線へと乗り込んだ。


車内に入り、おじいさんを席に座らせてホッとしたのも束の間、

「あれ? ――大河内駆くん!? なんであなたがこんな普通の自由席にいるのよ!?」

「カ、カケルくん!? 嘘でしょ、なんで東京駅にいるの!?」


「ぶっっっ!!!!???」


驚愕のあまり、自販機で買った緑茶を盛大に吹き出した。

同じ3人掛けのシートの並びに座っていたのは、たまたま仕事の打ち合わせで太秦映撮所(京都)に向かう途中だった、高坂マネージャー、五味プロデューサー、城ヶ崎マキ先生たちの【マネジメント同盟(大人組)】の面々だったのだ!


「ちょっと駆くん! あなたが修学旅行の新幹線に乗り遅れるなんて、立派なコンプライアンス違反よ!?(グヘヘヘ、でも、偶然同じ新幹線の個室空間で二人きりで密閉されるなんて、神様からのハネムーンプレゼントね♥)」と高坂マネージャーが目を血走らせ、五味プロデューサーが「駆ママの隣の席は私のものよぉ!」とよしよし体制に入り、城ヶ崎先生が「このシチュエーション、新作の脚本に活かせるわ!」とペンを回す。


おじいさんも交えて、車内は一瞬で「誰が駆の隣に座るか」という、大人組による手取り足取りの濃厚な座席争い(※大いなる下心)へと発展。俺は京都に着く前の中車内で、別の意味での第2次世界大戦に揉まれながら、なっから生きた心地のしないまま数時間を過ごすのだった。


そして数時間後。新幹線は無事に京都駅へと到着した。

「ふぅ……。何はともあれ、無事に京都に着いてよかったよ、おじいさん」

「本当にありがとう、優しい好青年よ」

おじいさんを見送り、俺が出口の改札前で待機していた担任の先生とようやく合流できた、まさにその瞬間のことだった。


先生のスマホが、爆発せんばかりの着信音を鳴り響かせた。

画面の向こうからは、現地(京都)の駅のホームで待っているはずの、他の教員からのパニック状態の怒号が響き渡る。


『大変だ!! 大河内が乗っていない新幹線の車内で、白雪詩織や西園寺麗華たちクラスの女子全員が完全に理性を崩壊させて、まさに【新幹線の三景状態(ハイライトの消えた目で席に座り、窓の外をじっと見つめて絶望を自問自答する生き地獄)】になってるんだよぉぉぉぉ!!!』


『あいつら、京都駅に新幹線が到着した瞬間、「駆くんがいない京都なんて、ただのコンプラ違反の不毛な盆地ですわ!!」「今すぐ東京へ引き返して、駆くんを強制連行(お迎え)してハッピーエンドにします!」って大激怒して、全員でそのまま東京方面への上り新幹線に飛び乗って、今、東京へ向かっていっちゃったんだよぉぉぉぉ!!!!』


「ぶっっっ!!!!???」


俺が新幹線を遅れて京都に向かっている間に、俺のいない新幹線で「三景状態」を極めた彼女たちは、京都駅に到着するやいなや、俺を迎えに行くためだけに全員でそのままUターンして東京方面へ引き返してしまっていたのだ!


「お、大河内ぃぃぃぃ!!! 女子全員が東京へ戻っちゃって、京都の修学旅行が初日から完全に崩壊したぞぉぉぉぉ!!! どうすんだこれぇぇぇぇ!!!!」

「俺に言われても困りますよ先生!! 誰も京都で待ってないじゃないですか!?」


到着報告……ではなく、あまりにも圧倒的なクソデカ感情のすれ違い(空回り)の前に、俺と担任の先生は京都駅の改札前でガタガタと震えながら、ただ二人ぼっちで彼女たちが戻ってくる(あるいはすれ違う)のを、悲惨な顔で待つことしかできないのだった


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