閑話長編パート4 駆の修学旅行前夜
「……はぁ。学校でおやつ扱いされたと思ったら、今度はメインディッシュか。明日からの修学旅行、本当に俺のライフが持つか心配になってきたな……」
事前の班決めやおやつ大喜利による教室での大爆発大乱闘を終え、ようやく迎えた修学旅行の前夜。
俺は自宅の大河内家のリビングで、明日からの過酷な旅路に備えて大きな旅行カバンに荷物を詰め込んでいた。しかし、そんな俺の背後からは、凄まじい地響きのような大河内家の黒いオーラ(ピンクの欲望)が音もなく立ち上っていた。
「嫌よ! 私は絶対に認めないわ! なんで駆の修学旅行に、実気の姉であるこの私が引率(お迎え)としてついていけないのよ! 駆が京都の泥棒猫たちに二十四時間体制でよしよしされるなんて、コンプラ違反以前に私の肉体が許さないわ!」
美夜お姉ちゃんがレザージャケットを床に叩きつけ、涙目で猛烈に駄々をこねている。
「ひまりちゃんのデジタル分析によると、京都は完全に敵(お外のエリート組)のホームグラウンドです。お兄ちゃんが修学旅行の間、私はお兄ちゃんのスマホのGPSを完全ハッキングして、ホテルの天井裏からドローンで監視……いえ、一緒についていきます♪」
ひまりまでがノートPCのエンターキーを爆発しそうな勢いで連打しながら、物騒なストーカー計画を口にしている。
「二人とも、いい加減にしなさい。学校の全校イベントに、身内が勝手についていけるわけがないでしょう?」
見かねた冴子ママンが、元・学校の先生役のトップ女優による圧倒的なノーブルオーラ(威圧感)を放ちながら、二人の頭を厳しくコツンと叩いてたしなめてくれた。
「ふぅ、ありがとうママン。本当に助かったよ……」
俺がホッと胸をなでおろした瞬間、ママンは優しく俺の肩に手を置き、聖母のような慈愛の笑顔(※だけど瞳のハイライトは消えている)で俺の目を見つめてきた。
「駆くん。京都に着いたら、一時間ごとにママンへ安否確認の連絡を入れなさいね? もし一回でも連絡が途絶えたら、ママンがヘリをチャーターして、そのホテルの部屋のドアを斧で叩き割ってでも(※大いなる下心)あなたを救出(実家監禁)しに突撃するからね?」
「ママン、お願いだからその物騒な救出フラグを立てるのはやめてね!? 帰ってきたらちゃんとお土産買うから!」
これ以上リビングにいたら実家連合のさらなるフラグ(妄想)に脳を焼かれる。命の危機を感じた俺は、「明日は朝が早いから、俺はもう自分の部屋で早く寝るよ!」と大急ぎで荷物をまとめて寝室へと向かおうとした。
――しかし。
トトトトトッ!!! ガシィィィィン!!!!
「待ちなさい駆! 明日からは離れ離れになるんだから、今夜は実気の姉の特権として、あなたのベッドの中に強制エントリーして朝まで手取り足取り――」
「お兄ちゃん、私のデジタル体温計の計算によると、今夜はお兄ちゃんの腕枕(添い寝データ)を回収するのが最優先です♪」
美夜お姉ちゃんとひまりが、完璧に目を血走らせて俺の寝室のドアの隙間に力ずくで体をねじ込み、一緒に寝ようと襲いかかってきたのだ。
「部屋への無断進入は完全な実家内コンプラ違反!! 2人とも自分の部屋で寝てくれ!!」
俺は神崎トレーナーに仕込まれた『完璧な骨盤の連動による鉄壁のドアブロック』を爆発させ、泣き叫ぶ二人を力ずくで廊下へと押し出し、ガチャン!! と内側から鍵を二重にロックした。
ハァ、ハァ、ハァ……。
「危なかった……。本当に家の中でも一瞬すら気が抜けないよ……」
額の冷たい汗を拭い、俺は安堵の息を漏らした。これでようやく、静かな夜を過ごせる。
「さあ、明日からの新幹線の座席争いに備えて、今夜は早く布団に入って爆睡するぞ」
俺はパジャマの襟元を正し、ベッドの上の大きな掛け布団を、さあ寝るぞと勢いよくバサリと開け放った。
――そこには。
「ふふ、お疲れ様、駆くん♥ 部屋から身内を追い出すなんて、駆くんってば、私と二人きりで不純異性交遊(ハネムーン前夜祭)を繰り広げたかったのね♪」
「……え?」
布団の中から、お揃いの修学旅行用パジャマを着て、完全にハイライトの消え去った暗黒のヤンデレ笑顔を浮かべた幼馴染の白雪詩織が、俺の枕をぎゅっと抱きしめながら、両腕を広げて満面の笑みで待ち構えていた。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! ドアには鍵をかけていたはずなのに、なんで俺の布団の中に最初からお前が潜んでるんだよぉぉぉぉ犯罪だろぉぉぉぉまいっちんぐ!!!!」
実家の強固な壁を突破したはずが、ベッドの内部に潜んでいた幼馴染の「言い逃れ不可能な本物の不法侵入(コンプラ違反)」の前に、俺は虚を突かれて完全に絶叫。
俺の切実な悲鳴が夜の邸内に響き渡る中、鍵を開けろと廊下のドアを激しく叩き壊し始めた美夜お姉ちゃんたちの怒号と、布団の中から「さあ、私のメインディッシュの時間だよ駆くん♥」と手足をロックしようと這い出てくる詩織のピンクの欲望のパッションに挟まれ、修学旅行の前夜は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発バタバタエンドで幕を閉じるのだった。




