閑話長編パート2 修学旅行座席争い編
修学旅行の行き先が京都に決定した翌日。ボッチ席で魂を半分抜かれかけていた俺の前に、担任の先生が無慈悲なプリントの束を叩きつけた。
「よし、それじゃあ今日中に『修学旅行の行動班』を4人一組で決めるように。決まらない奴は先生が適当に余り物同士でくっつけるからな」
その瞬間、教室内の気圧がガチリと変わった。
キィィィィ――ッッ!! と耳障りな地響きを立てて、俺のデスクの周りに一瞬で血眼になった女子たちの人垣(包囲網)が形成される。
「カケル! 班決め用紙にはもう私の名前を書いておきましたわ! あとの二人は西園寺の息がかかったガードマンを配置しますので、実質二人きりのハネムーン班ですわ!」
「麗華さん、そんな職権乱用は私が許しません。駆くんの隣に座るべき正妻は、24時間体制で生活を共にするこの白雪詩織です!」
「待てよお前ら! 駆の相棒はこの俺だろ! 班決めのファーストアプローチを泥棒猫たちに渡してなるものか!」
麗華、詩織、蓮たち【出し抜き同盟】の面々が、完璧にハイライトの消え去ったプレデターの瞳で俺の班決め用紙を奪い合おうと掴みかかってくる。さらにその背後からは、
「駆くん……! 古都の歴史建造物を二人で静かに巡るための『インテリジェンス読書班』のデータを、私の脳が完璧に弾き出しました!」
と、図書館ちゃんこと三上ひよりちゃんが本への信仰心をメラメラと燃やしてノートを突き出してくる。
「ちょっと退きなさいよ、日本のウサギさんたち! 1足す1は同じ班(200)よ! 私のパッション留学仕込みの海外エスコート班にカケルをエントリーするわ!」
「カケル、私と一緒に京都の寺院で『王子様カレーダンス』を踊り狂ってチャクラを開放するスパイス班を結成するのですわ!」
星野エリカや黄川田ココたち【海外ホームステイ組】までもが、机を叩いて世界規模のスケールで暴走を始めてしまった。みのりちゃんや、まひろちゃんも入り乱れ、教室内は一瞬で「誰が駆と同じ班になるか」という、ありとあらゆる歪んだクソデカ感情(ピンクの欲望)を引っ提げた大戦争へと発展した。
「わ、わかった! もうみんな落ち着いてくれ! 4人一組なんて絶対に選べないから、いっそのこと【クラスの女子全員で一つの巨大な行動班】にして、全員で同じルートをぞろぞろ歩くってことにしよう! それなら不公平はないだろ!?」
俺が涙目で必死の妥協案を叫ぶと、激しいキャットファイトを繰り広げていた彼女たちは、ピタッと動きを止めて顔を見合わせた。
「……全員で駆くんを包囲しながら行動する。それなら、他の泥棒猫に抜け駆けされるリスクを100%遮断できますわね」
「フン、西園寺の財力で京都の移動ルートを丸ごと貸し切れば、何人だろうと問題ありませんわ」
何とか全員で一緒に行動するという、前代未聞の【超巨大大所帯班】が結成され、過酷な班決めサバイバルは力ずくでまとまった。
――が、本当の地獄はここからだった。班が決まった直後、先生がさらに「じゃあ次は、移動のバスと新幹線の座席割りを決めて提出しろ」と告げたのだ。
その瞬間、教室内で再び凄まじい「座席争奪戦」が多発した。
「班が一緒なら、バスの座席は当然、私と隣同士の密室エスコート席ですよね?」と詩織が目を血走らせれば、「待ち変えなさい白雪詩織! 駆の隣の座席は西園寺の最高級リムジンのシートと同等の価値を持つ特等席よ! 私が買い占めますわ!」と麗華が机を叩く。
「駆! 俺を差し置いて内緒で女子の隣に座るなんてずるいぞ! ほら、俺の隣に座れよな!」と蓮が顔を真っ赤にして叫び、通路を挟んだ向こう側ではエリカが「十倍だぞ十倍!」とパッションで2人掛けの座席を強奪しようとする。
さらに、家庭科室でのカレーの匂いを思い出したココとひよりちゃんが「スパイスのチャクラで駆くんの隣をロックオン!」と俺の両腕を掴んで引っ張り合い、スマホの裏のチャットでは、つむぎちゃんたち学校外のメンバーまでが「駆くんの隣を巡る大戦、コンプラ違反よ!」と通知を爆発させて大騒ぎしているのが見える。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! まだ修学旅行のしおりを作ってる段階なのに、なんでバスの座席表の中で第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫が黒板にまで虚しく響き渡る中、今度は「新幹線の3人掛けの座席割り」の記入へと移り、教室内にはさらに凄惨な『新幹線の特等席包囲網』が敷かれることになった。
「新幹線の3人掛けの座席……。真ん中に駆くんを密閉し、左に私、右に麗華さんを配置すれば、完璧な監禁ハネムーンの完成ですわ♥」
「フン、詩織にしては珍しくインテリジェンスな提案ですわね。カケル, 観念して私たちの間の席へ収まりなさい!」
「ノーよ、二人とも! カケルのアングルを遮る障害物は、映画部の特権で私が白紙化して排除するんだから!」
未来が映画部としての特等席を主張し、みのりちゃんが「群馬パスポートの精神で駆くんの隣を……!」と叫び、エリカやココ、ひよりちゃんたちクラスメイト全員が完璧に理性を崩壊させて、黒板前の座席表の争奪戦で大暴走。
俺は自分の名前の書かれた付箋をそっと剥がし、脳内にチキンナイフを完全装備して、神崎トレーナーに仕込まれた『完璧な骨盤の連動による超高速ダッシュ』を爆発させ、誰の隣でもない「車両の端っこのデッキの隙間(※ただの座席なし自由行動枠)」へと涙目で音速脱走を試みるのだった。
そんな俺の、完全に魂の抜けた半泣き顔のアングルを、後ろの席からノートを開いてギラギラした目でデッサンしていた未来ちゃんが、不敵にニヤリと笑ってペンを回した。
「――まさか京都に着く前の、この事前の座席割りの段階からあんな大爆発が起きるなんて、この時のカケルは、夢にも思っていなかったのです……」
未来ちゃんのいつものおどけたナレーションが教室内に響くと、周りの女子たちは「あはは、未来ってば座席表を決めるだけでも映画監督のつもりよ!」「本当、修学旅行って行く前から最高に楽しいわね!」とドッと楽しげに笑い声を上げた。
俺も彼女たちの賑やかな様子に釣られて思わずドッと少し笑ってしまい、「おいおい、行く前からこれじゃ先が思いやられるなぁ」と、これから始まる旅行への期待と騒がしさにただ苦笑いを浮かべるばかりだった。
そんな俺ののんきな感覚を置き去りにしたまま、教卓の上の座席表がみるみると彼女たちの欲望の赤ペンで埋め尽くされていく中、詩織や麗華たちは「京都の駅に着いた瞬間のエスコート権は……」「夜の部屋割りの裏工作を……」と、駆以外テンションバクアゲで、まだ見ぬ修学旅行の座席争いの話をもの凄い熱量で決め進めていくのだった。




