閑話長編パート1 駆の修学旅行行き先編
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
あの魔法の国での「シンデレラキャッスル絶対結界事変」を経て、俺の精神生命力は完全に消滅寸前だった。しかし、平穏を求める俺の願いを置き去りにしたまま、学校では高校生活の最大イベントである『修学旅行』の行き先を決めるアンケートの時間が始まってしまっていた。
教室内は、すでに旅行の計画を建前とした恐ろしいマウント合戦の戦場と化している。
「カケル、アンケートには『西園寺のプライベートビーチ』と書きなさい! 財力を尽くして島を丸ごと貸し切って、あなたと最高のハネムーンを――」
「駆くん、ハネムーンの行き先なら、私の所属事務所の海外リゾートが安全ですわ。二人きりで静かに愛のチャクラを深めましょう?」
「駆! 俺という大事な相棒を差し置いて、内緒で女子とリゾート地なんてずるいぞ! ほら、俺と二人で男の熱い温泉合宿にしようぜ!」
白雪詩織、西園寺麗華、蓮たち【出し抜き同盟】の面々が、完璧に目を血走らせて好き勝手なハネムーン計画を言い合っている。さらに、
「駆くん……! 『読書には歴史』、そして古都の静寂は……私の脳のデータが、駆くんと二人きりで静かに古典を読み耽る最高の古都ハネムーンを割り出しました!」
と、モブモブ同盟の図書館ちゃんこと三上ひよりちゃんまでが本への信仰心を燃やして参戦し、
「ヘイ、カケル! 修学旅行なら私のパッション留学先へ行くべきよ! 1足す1はハネムーンよ、十倍だぞ十倍!!」
「カケル、インドのボリウッドで私と一緒に『王子様カレーダンス』を踊り狂って、チャクラを開放するハネムーンにするのですわ!」
と、星野エリカや黄川田ココたち【海外ホームステイ組】の面々までもが、世界規模のスケールで暴走を始めていた。
そんな中、俺はただ一人、机に突っ伏してガタガタと震えながら、祈るようにアンケート用紙に文字を書き込んでいた。
「(……京都以外なら……本当に、京都以外ならどこでもいい……! 理由は言えないけど、あそこだけは絶対に嫌なんだ……っ!)」
俺にとっては、京都だけは絶対に踏み入れてはならない絶対の禁忌の地。
しかし、クラス全員のアンケートが無慈悲に集計され、黒板に貼られた結果の画面を前にして、俺は天を仰いで絶望した。
『修学旅行の行き先:京都に決定』
「神様……いくらなんでも、俺のボッチ属性への嫌がらせが過ぎやしませんかね……っ!?」
俺の「京都以外ならどこでもいい」という必死の願いは、クラスの女子たちの「古都で駆くんと和風ハネムーン♥」という狂気的なクソデカ感情のパッションの前に、圧倒的な票数で叩き潰されてしまったのだ。
「よし! 行き先が京都に決まったからには、とことん楽しもうぜ、駆! 俺がお前の相棒として、新幹線でも宿でも24時間体制で隣をガッチリホールドして守ってやるからな!」
蓮がショートカットの襟足を赤く染めながら、気合を入れて俺の肩をバシバシと叩いてくる。
「……あ、ああ。そうだね。決まったからには、まぁ……何とか、無事に帰って来られるといいんだけど……」
京都という地への漠然とした恐怖のあまり、俺の返事はなっから煮え切らない。
そんな俺の、完全に魂の抜けた半泣き顔のアングルを、後ろの席からノートを開いてギラギラした目でデッサンしていた映画監督娘の新藤未来が、不敵にニヤリと笑ってカメラを構えた。
「素晴らしいわ……! 何かに引きずり戻される元天才主演の、この世の終わりみたいな絶望の表情……最高の神シナリオね」
未来はペンを回し、わざとらしくカメラのナレーションを真似ておどけた調子で呟いた。
「――まさかあんなことが起きるなんて、この時のカケルは、夢にも思っていなかったのです……」
未来のいつものクリエイター気取りのセリフに、周りの女子たちは「あはは、また未来が変なモノローグ言ってるわよ」「映画の撮りすぎだってば!」とドッと楽しげに笑い声を上げた。
俺も釣られて少し笑ったものの、ふと、かすかな胸騒ぎがした。
気のせいだとは思うが、何か嫌な予感のようなものが、ほんの少しだけ頭の片隅をよぎったのだ。
そんな俺の思わせぶりな感覚を置き去りにしたまま、詩織や麗華たちは「京都の宿の部屋割りは西園寺の権力で……」「夜のコンプラ違反の修羅場の準備を……」と、駆以外テンションバクアゲで、修学旅行の話をもの凄い熱量で決め進めていくのだった。




