第三十九話 レギュラー優香視点
私、傷つきやすい不器用な男の子を甘やかしてあげたい、ごく普通の一般人レンタル彼女(優香)。
……のはずなんだけど、もう私の精神も完全に限界よ!!
前回の学校でのカレー地獄の恐怖が忘れられなくて、もう三度度と駆くんの指名は受けないって心に誓ってたの。だけど、あの子、泣きそうな声で「今度は絶対絶対大丈夫だから! 千葉県の『魔法の国』だし、あそこには夢の国の平和を守ってくれるプロのキャストさんたちがたくさんいるから絶対安全圏んだ!」って何度もメッセージを送ってくるんだもの。
あんな可愛い顔で必死に頼まれたら、断れるわけないじゃない……!
そうして、耳付きのカチューシャを引っ張り出して命がけで向かった休日の魔法の国。
エントランスにいた駆くんは、私が来た瞬間、本当に嬉しそうに目を輝かせて、「ここは完全な安全圏だから大丈夫だよ!」って、私のために凄くスマートにポップコーンやチュロスを買ってエスコートしてくれたの。
二人で並んで歩きながら、「これ美味しいね」なんて笑い合って、
(うわぁ……駆くん、やっぱり王子様みたいで最高に格好いい……手を繋ぎたいな……)なんて、普通の甘酸っぱいデートを楽しんでいたのよ、最初の十分間だけは。
シンデレラ城の前の広場に出た瞬間、エリカちゃんの『駆くんのスケジュール管理は私たち【海外パッション同盟】だけよ』って、地響きみたいな凄まじいドラゴンの咆哮が響いてきた瞬間、私の全細胞が「死」を察知したわ。
駆くんは完璧に裏をかいたつもりだったみたいだけど、違うわよ。あの昔話の記憶を持つ新参の【転生組同盟】が、他のお姉さんたちと「いつものマウント会議」を開こうとしたら、モブモブ同盟の子から「共存を探るための親睦会にすべき!」って提案されて、そのまま全員でチケットを買い占めて仲良く魔法の国へ遠征してきただけなのよ!
最初こそポップコーンを分け合って仲良くしていたみたいだけど、誰が駆くんの隣に座るかという話になった瞬間、全員の目が一瞬でプレデターみたいに血走って、パーク全体が凄まじい臨戦態勢に包まれたわ。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!!」
私はチュロスを放り出して、6度目の音速脱走を敢行したわ。もうあの男の子、絶対に何かの呪いの装備を身につけてるに違いないわよ!
ワールドバザールの物陰からこっそり覗き見たら、駆くんが脳内にチキンナイフを装備して、凄まじい超高速のステップで正面ゲートへ脱出しようとしていたの。
(凄い! 駆くん格好いい、これなら逃げ切れる――)って思った瞬間に、シンデレラ城の真下を通り抜けようとした瞬間、空間がガチガチに凍りついて、巨大な鉄格子の結界が爆誕してたわ。
えまちゃんの『このシンデレラキャッスルのエリアからは脱出不可能ですわ!』って、本物のシンデレラのフィールド効果が強制発動して、駆くんは敢え無くその場にガチガチに捕獲されてた。
そのまま大物プロデューサーのお姉さんの胸の中にすっぽり埋め込まれて、詩織ちゃんたちに手足をロックされながら、駆くんが「もうやだぁぁぁお家に帰るぅぉぉぉ!!」って涙目で絶叫してるのが見えたわ。
駆くん、ごめんなさい。私、ただの一般人の女子大生だから、大自然すら恐怖で支配するピンクの欲望の化物たちから、あなたを救い出してあげる力はないの。
便乗、あんなに必死に逃げ回って、最後は夢の国のお城の真下でみんなに寄ってたかって『よしよし』されてボロボロになってる駆くんの姿を見ていたら、私の中の何かも、完全にキュンと狂いそうになっちゃった……。
もし、あの二十七名の包囲網の隙を突いて、私が七回目のデートで駆くんを完全に私のワンルームマンションに連れ去って、一生鍵をかけて閉じ込めて甘やかしてあげたら……駆くん、私のことだけを大好きになってくれるかしら……?
夕暮れの舞浜駅のホームで、スマホのレンカノアプリを開き、駆くんの『お気に入り登録』をガチチに固定しながら、私――一般人代表の優香もまた、あの大河内駆という危険な劇薬によって、静かに、完璧に狂わされていくのだった――。




