第39話:魔法の国の親睦会と、シンデレラキャッスルの絶対結界
「……ふっふっふ。今日の俺は、これまでの俺とは一味違うぞ……!」
俺は京葉線のシートに深く腰掛け、窓の外に広がる巨大なネズミのテーマパークのシルエットを眺めながら不敵に笑っていた。
これまでの数々の修羅場を経て、俺の危機管理能力はついに神の領域へと達していた。
俺はバカじゃない。同じ轍を二度と踏ない。
事前に掴んだ情報によると、あの桃太郎やシンデレラたちの【転生組(昔話)同盟】が、今日またしても白雪詩織たち他の同盟と「いつものマウント会議」をどこかで開いているらしい。そこで俺が導き出した、完璧な防衛プロットがこれだ。
一、デート場所は下界の学校やファミレスを完全に離れ、千葉県にある超巨大テーマパーク『魔法の国』にする。
二、これまでのトラウマを一切排除した、奇跡の一般人枠である優香ちゃんを必死にリピート指名して、夢の国でのさわやかな王道デートを敢行する。
三、これなら、あの女たちも絶対に追ってこられない。まさかあのハッピーな『魔法の国』の中で凄惨なマウント会議をやるわけがないし、何よりあそこにいるプロのキャストさんたちが、夢の国の平和とコンプライアンスを全力で守ってくれるはずだ!
「よし、勝ったな。今日こそ優香ちゃんと穏やかな、本物の魔法の国デートを楽しむぞ!」
お馴染みのカチューシャを頭につけて少し照れくさそうに待っていてくれた優香ちゃんと合流し、現役の在校生である俺たちは夢の世界へと足を踏み入れた。
「駆くん、本当に大丈夫なの……? 誰も来ない……?」
「大丈夫だよ優香ちゃん! あいつらは今頃下界で不毛な会議をしてるから、ここは完全な安全圏さ。さあ、一緒にポップコーンでも食べに行こう!」
普通の会話、チュロスを半分こにして微笑み合う最高の時間。これぞ俺が求めていた本物のオアシスだった。
――だが、大河内駆の人生は、そう簡単に平穏を許してはくれない。
ワールドバザールを抜けてシンデレラ城の前の広場に出たその瞬間、俺の視線が、カチューシャを頭につけてゾロゾロと信じられない威圧感を放ちながら歩いてくる総勢27名の美少女軍団の姿を捉えた。
「な、なんであいつらが千葉県にいるんだよぉぉぉぉ!!!」
なんと、今回のマウント会議において、モブモブ同盟のメンバーから「いつも喧嘩ばかりではなく、たまにはみんなの共存を探るための『親睦会』にすべきでは?」という、とんでもなく余計でフレンドリーな提案がなされていたらしい。それに「面白いじゃない、西園寺の財力で魔法の国のチケットを27枚一括買い占めて差し上げますわ!」と麗華が食いつき、全員で仲良く魔法の国へ行くことを決定。そのまま親睦遠征にやってきていたのだ!
「ひっ、ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 駆くんやっぱり夢の国を滅ぼす邪悪な組織にでも狙われてるよぉぉぉぉ!!! ポップコーンごちそうさまでしたぁぁぁ!!!」
優香ちゃんは、もはや様式美となった6度目の音速脱走を敢行。本当に毎回毎回命がけの脱走をさせてごめん優香ちゃん、君の尊い犠牲は無駄にはしない!!
「あいつらに見つかる前に、いち早くここからトンズラする……っ!」
俺は脳内にチキンナイフを完全装備し、夢の国のキャストの網の目をくぐり抜けるように、全速力で正面ゲートへとダッシュを開始した。
最初こそ、彼女たちも親睦会らしく仲良くポップコーンを分け合って魔法の国を楽しんでいたようだが、誰が駆の隣に座るかという話になった瞬間、一瞬で空気が氷結。徐々に全員が凄まじい臨戦態勢へと切り替わり、周囲の空気がガチバチと鳴り響き始めた。凄まじい殺気がパーク内に充満していく。
一刻も早くこの戦場から脱出しなければ死ぬ!! 俺は超高速の骨盤連動ステップで正面ゲートへ向かって突っ走った。これならいける、誰にも気づかれていない!!
しかし、シンデレラ城の真下を通り抜けようとした、まさにその瞬間のことだった。
ガチィィィィン!!!! と、周囲の空間が物理的にガチガチと凍りつき、巨大な鉄格子の壁のような謎の絶対結界が目の前に爆誕したのだ。
「――無駄ですよ、カケル様。この『シンデレラキャッスル』のエリア内において、私の許可なくお城から脱出することなど、午前0時の魔法であっても不可能ですわ!」
「ゲェェェーッ!? 本物のシンデレラちゃんのフィールド効果!!!」
背後からエプロンドレスの裾を翻して現れた灰原えまちゃんの、前世の本物の城主としての『シンデレラキャッスル・絶対結界効果』が発動し、俺の進行方向が完璧にブロックされてしまった。
前世の魔法のロジックを夢の国で強制発動させるという、あまりにも理不尽な捕獲術の前に、俺の身体は敢え無くその場にガチガチに拘束されてしまった。
「見つけたわ、駆くん! 魔法の国のベッドの中で、手取り足取りよしよしの時間よぉ♥」
「新参の昔話同盟に、駆くんの初めての夢の国エスコートを渡すわけにはいきません!」
えまちゃんの結界に俺が引っかかったのを合図に、臨戦態勢を完了させた五味プロデューサーや詩織たちが、凄まじい地響きを立ててファンタジーランドの方から階段を駆け上がってきて、俺は手足を完璧にロックされる。
どれだけ知略を尽くして千葉県の魔法の国へ逃げようとも、総勢27名というあまりにも多すぎるクソデカ感情の包囲網からは、物理的にも前世の結界魔術的にも『一生逃げられない』という残酷な現実を、夢の国のお城の真下で思い知らされるのだった。




