閑話が本題 駆の三本勝負
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
週末のレンカノ修羅場の数々を経て、俺の精神生命力は完全に消滅寸前だった。
しかし、その日の放課後の家庭科室で、俺はまたしても頭を抱える事態に直面していた。
事の始まりは、前世が本物のシンデレラである灰原えまちゃんが、我が家にメイド(お嫁さん)としていびられに突撃しようと画策しているのを耳にしたことだった。そこで俺の中に、ふと一つの素朴な疑問が浮かんだ。
(……待てよ? 童話のシンデレラって毎日いびられて家事をやってた設定だけど、実際のところ、本当に家事ができるんだろうか……?)
いびられ環境を求めて空回りしているえまちゃんに、俺は軽い気持ちで「灰原ちゃん、実際にお義母さんたちにいびられたとして、君って本当に家事ができるの?」と質問してみた。
これが、すべての常識が音を立てて崩れ去る始まりだった。
「家事だって!? できらぁっ!!」
「ぶっっっ!!!!???」
えまちゃんは家庭科室の調理台をバン! と激しく叩き、包丁を掲げて某料理漫画の如き凄まじい威勢のいい返事をブチかましてきた。
そこまで言うならと、俺は彼女の実力を測るため、放課後の家庭科室と部室を使って、各分野のスペシャリストたちを招いた『家事3本勝負』を急遽開催することにした。
第一戦・料理対決。対戦相手は、プロの現場(隠れ家カフェ)で働く橘葵先輩。
結果――えまちゃんは大敗。前世で家事を侍女に丸投げされていたお姫様育ちのえまちゃんは、包丁の握り方すら怪しく、葵先輩の洗練されたプロの手際の前に完敗した。
第二戦・掃除対決。対戦相手は、学校の隅々まで目を光らせる風紀委員の名取正美ちゃん。
結果――えまちゃんは大敗。正美ちゃんが誇る、ミリ単位の埃すら許さない完璧な規律の雑巾がけの前に、床をただ水浸しにするだけのえまちゃんは為す術なく敗北した。
そして第三戦・洗濯対決。対戦相手は、なぜか目がバグっている幼馴染の白雪詩織。詩織は普段から「駆くんの衣服は私が24時間体制で洗濯(管理)しているからね♪」と豪語する、自称・洗濯のプロ(ヤンデレ)だ。
結果――まさかのえまちゃん、大勝利(初白星)。
なぜなら詩織は、駆の脱いだ服を綺麗に洗う「洗濯」などハナからしておらず、預かった駆の衣服をすべて自分の神殿(部屋)に永久保存し、ただ『全く新しい新品の衣服と勝手に交換』しているだけだったため、洗濯対決としてのスコアが泥塗れの完全ゼロ(コンプラ違反)だったからだ。
「詩織ちゃん!? それは洗濯じゃなくて、ただの不純な物品強奪とすり替えだから! 競技のルールすら成立してないでしょ!」
俺の切実なツッコミが家庭科室に虚しく響き渡る。
二敗一勝(実質全敗)というボロボロの結果を前に、えまちゃんはガクッと膝をついた。
しかし、その散らかった家庭科室の惨状を見て、俺はハッと重要な本質に気づいた。
「……なるほど。いくらいびられたいからって、家事が全くできないやつに無理にやらせたら、後の片付け(リカバリー)が絶望的に大変なことになるだけなんだな。つまり、いびられる(働く)にも、最低限のスキルという『最低条件』と、自分が置かれている『環境の理解』が必要不可欠なんだよ」
俺がスッとえまちゃんの目を見つめ、これまでの修羅場で洗練された大人の余裕で優しく諭す。
何事にも求められる最低条件の大切さに気づかされたえまちゃんは、目から鱗が落ちたように感動。
「素晴らしいわ、カケル様! 現代日本の家事の本質、完璧に理解いたしましたわ!」
と、これ以上ないほど綺麗な日常の空気で、めでたしめでたしなハッピーエンド――。
――になるはずが、その家庭科室のドアが、バガァァァン!! と凄まじい爆音を立てて蹴り破られた。
「ちょっと待ちなさいよ大河内駆!! 家事のスキルと最低条件を競い合うというのなら、次は私たちがカケルを審査員にした『駆お世話係(正妻)3本勝負』を開会するべきよ! さあ、西園寺の財力を尽くして、今すぐあなたの身の回りのお世話を手取り足取りしてあげますわ!」
「カケルくんの初めてのお世話(三本勝負)のお相手は、この白雪詩織に決まっています! あなたたち全員、駆くんの衣服の所有権(※洗濯)を邪魔するのはコンプライアンス違反よ!」
「駆! お前、俺という大事な相棒を差し置いて、内緒で女子高生たちと家事の居残り特訓なんてずるいぞ! ほら、俺とも三本勝負しろよな!」
「ぶっっっ!!!!???」
俺が放課後の家庭科室で女たちと「3本勝負」を繰り広げていたという噂が裏のチャットで爆速で広まった結果、白雪詩織、西園寺麗華、蓮の【出し抜き同盟】の面々が、完璧に目を血走らせて一斉に家庭科室へなだれ込んできたのだ。
さらにその後ろからは、「駆先生の濃厚な個人家事レッスン(※大いなる下心)の枠は渡さない!」と、モブモブ同盟やマネジメント同盟の面々までもが、総勢二十七名というあまりにも多すぎるクソデカ感情のプレデターの瞳で殺到。
「駆三本勝負の第1位は私です!」「西園寺のマネーパワーでこの勝負の全運営権を買い占めますわ!」と、教室の中は一瞬で「誰が駆の身の回りのお世話をするか」という大混乱の大爆発乱闘へと発展した。
「ひいいいいい無理ぃぃぃぃぃ!!! 本当にただ家事ができるか質問してコロッケ感覚(※様式美)で勝負しただけなのに、なんで学校の中で第2次世界大戦が始まるんだよぉぉぉぉ!!!!」
俺の切実な絶叫は、エントリー枠(所有権)を巡って再び火花を散らし始めた彼女たちの怒号にかき消され、日常閑話のはずの家事対決は、結局いつも通りのなっからカオスな大爆発暴走エンドで幕を閉じるのだった。




