第5.5話:抜け駆け禁止(自分は除く)同盟
大河内駆が週末のデートを終え、のんきに月曜日の学校生活を送っていた頃。
都内最高級ホテルの最上階スイートルームでは、一般人が見れば卒倒するようなメンバーによる、超厳戒態勢の秘密会議が開かれていた。
国民的トップ女優・白雪詩織。
西園寺財閥の令嬢・西園寺麗華。
包容力カンストの女子大生・音無つむぎ。
普段は男装しているはずのクラスメイト・蓮。
そして、新進気鋭の映画監督の娘・新藤未来。
映画『友達100人にできるかな? ザ・ムービー』の元主要キャスト陣(全員美少女)が、円卓を囲んで火花を散らしている。
口火を切ったのは、映画監督の娘である未来だった。
「いい? みんな。私たちが裏で『カケルの指名枠』を巡って小競り合いをしている間に、事態は一刻を争うレベルまで悪化しているわ」
未来は円卓の真ん中に、一眼レフで撮影した駆の写真をドンと置いた。
「恐ろしいことに、あいつが『レンタル彼女』を使っているという噂が、徐々に業界の裏ルートで広まりつつあるのよ」
その言葉に、ツンデレお嬢様の麗華が顔をしかめる。
「……まさか。あの伝説の映画に出演した女子は、エキストラや他事務所の子役、果ては主題歌を歌った歌姫まで含めれば、私たち以外に**残り95名**もいるのよ!?」
「そのまさかよ」と未来は苦々しく頷く。
「このままだと、駆に狂わされた残り95名の有象無象どもが、噂を嗅ぎつけて雪足りを打つようにレンカノサイトに突撃してくるわ。そうなれば、あいつの予約枠なんて一瞬で埋まって、私たちは指名すらできなくなる!」
「それは、絶対に阻止しなければならないね……」
おっとりとした聖母の微笑みを浮かべながら、つむぎの瞳の奥がスッと据わった。
ヤンデレ幼馴染の詩織も、冷徹な笑みを浮かべる。
「ええ。駆くんの初めて(のレンカノ枠)を奪い合ったのは私たち5人だけで十分。外の泥棒猫たちに、駆くんの髪の毛一本触れさせるもんですか」
全員の利害が一致した。
ここに、残り95名の参戦を防ぐための【共同防衛戦線】が構築される。
「だったら、提案よ」
麗華がフンと顎を上げた。
「ここにいる5人で**『抜け駆け禁止同盟』**を結びましょう。お互いの指名スケジュールを厳重に監視し合い、順番に駆とデートするの。……どうかしら?」
「いいよ」「異議なし」「それで手を打ちましょう」
蓮も含めた5人が、一斉に同意の声を上げる。
「(……ふん、好都合だわ。あいつらをこれで油断させて、**私だけは**裏でこっそり駆くんと毎日密会すればいいんだから)」
「(……バカな奴らね。この同盟を盾にしてあいつらの動きを縛り、**私だけは**西園寺の権力を使って特別枠をもぎ取るわ)」
「(……みんな可愛いわねぇ。でも、駆くんが一番甘えられるのは私だから、**私だけは**いつでも別腹で指名されちゃうんだよね)」
「(……あいつら、絶対に裏切る。こうなったら**私だけは**学校が同じ強みを活かして、放課後に毎日駆を連れ回すしかない……!)」
「(……ふふ、同盟なんてただの紙切れよ。私のカメラ(愛)で、**私だけが**あいつの特別になればいいのよ)」
全員が、笑顔でがっちりと握手を交わした。
お互いの腹の内にある**『抜け駆け禁止(※ただし自分は除く)』**という邪悪な本音を隠したまま、同盟は秒速で締結――そして、事実上の不成立(泥仕合)を迎えたのだった。
――会議終了後。
ホテルのエレベーターに乗り込んだ瞬間、5人は一斉にスマホを取り出し、音速のブラインドタッチを始めた。
詩織:「マネージャー? 駆くんの使ってるサイトのサーバー、今すぐサイバー攻撃で落として。私の専用回線だけ生かして」
麗華:「西園寺の権力で、あのレンカノサイトの運営会社ごと今すぐ買収しなさい。駆の指名画面、私の写真しか表示されないようにシステムを書き換えるのよ!」
未来:「役員特権で、来週の駆の予約履歴を強制的に私の名前に書き換えっと……」
表向きは95人を牽制しつつ、裏では全員が秒速で同盟を裏切り、駆の奪い合いを激化させる美少女たち。
しかし、彼女たちはまだ知らなかった。
この最高機密であるはずの『同盟チャットグループ』の存在を、さらに最凶の身内――**駆の義理の母と姉妹**にハックされ、全て筒抜けになっているという恐ろしい現実を。
無自覚天才ボッチの駆を巡る戦いは、ついに家庭内へと飛び火しようとしていた。




