第五話裏話 未来視点
### 【新藤未来の視点】私の映画の主演(初恋)は、あなただけ
私の父親――新藤監督は、映画業界では誰もが恐れる偏屈で、完璧主義の塊のような人間だった。家でも滅多に人を褒めず、家族に対しても常に冷徹な目を向けていた。
それなのに、映画『友達100人にできるかな?』の現場では違った。父親は、主演の駆の演技を見るたびに、「天才だ」「100年に一人の逸材だ」と、まるで我が子のように彼ばかりをべた褒めしていた。
子供だった私は、父親を駆に奪われたような気がして、猛烈な嫉妬を抱いていた。だから現場に同行しては、駆に突っかかり、泥を投げつけ合うような大喧嘩を何度も繰り返した。
でもある日、取っ組み合いの喧嘩の末に、息を切らせた駆が、私に向かってニカッと笑いながらこう言ったのだ。
『監督の娘ちゃん、そんなに怒るってことは、僕の演技を一番真剣に見てくれてるってことだよね! 僕さ、君が「そこはもっと走れ!」とか出してくれる指示、パパの指示より分かりやすくて大好きなんだ!』
……胸が、ドクンと跳ねた。
誰も私の言葉なんて聞いてくれないと思っていたのに、その『天才』は、私の映画への情熱を誰よりも理解し、肯定してくれた。あの日、私の中で「新藤監督の娘」ではなく、「一人の映画監督・新藤未来」としての夢が、そして駆に対する特別な感情が始まった。
それなのに、映画が大ヒットした後、あいつは突然芸能界から消えてしまった。
私の初恋も、私の映画監督としての情熱も、あの日、あいつが去った瞬間から止まったまま。あいつのいない世界で、誰を撮ればいいのよ。あいつ以上の被写体なんて、どこを探したっていやしないのに。
だから、詩織や麗華たちが「カケルがレンタル彼女を漁ってる」と裏のネットワークで大揉めしているのを嗅ぎつけた時、私は直感した。
これは、神様がくれた(あるいはあいつが自分で蒔いた種がもたらした)最初で最後のチャンスだと。
私は映画監督の血筋と、ありとあらゆるコネを職権乱用して使い、マイナーなサービスの枠を強引に譲らせてあげる形で、カケルの前に立った。
川沿いの公園のベンチ。そこに座っているだけで、あいつは嫌でも絵になってしまう。レンズ越しに見る大河内駆は、引退してボッチになった今でも、私の心を狂わせる最高の被写体のままだった。
「なんで未来までレンタル彼女にいるんだよ!?」と慌てるあいつの顎をくいっと持ち上げ、至近距離で睨みつける。怯えるあいつの顔も、ゾクゾクするほど魅力的だ。
「今日、私はあんたの『彼女』としてデートする。だけど、私の目的はあんたの『最高の表情』をこのカメラに収めること。そして――もう一度、私の映画の主演として、私の前に立たせることよ」
私はあいつの『彼女』になりたい。だけどそれ以上に、あいつの才能をこのままボッチの世界で腐らせるなんて、映画の神様への叛逆だ。
私がもう一度、あんたを最高のステージに引きずり戻してあげる。私のカメラの前で、あの日以上の、世界を泣かせる最高の顔をさせなさい――。




