第38話:いびられたいシンデレラと、おいたが過ぎる実家の壁
「……はぁ。最近、学校でも家でも、どうして俺の周りには刺激の強い女の子しかいないんだ……」
週末のレンカノ修羅場の数々を経て、俺の精神生命力は完全に消滅寸前だった。今度こそ、俺に特別な感情や歪んだ設定の執着を抱いていない、ごく普通の大人しそうな女の子と静かに過ごしたい。俺は携帯を操作し、新しい超マイナーなレンカノアプリで、プロフィールに【お掃除やお料理が得意です。不条理な環境にも負けず、あなたのために一生お尽くしいたします】と書かれた、一番家庭的でまともそうなキャストを指名した。
デート当日。ヨーロッパの古城を思わせる、クラシカルなホテルのラウンジ。
「――お待たせいたしましたわ、私の王子様! さあ、私を思う存分いびり、雑巾がけを命じ、灰まみれにしてくださいまし! それが私の極上の愛のプロットですわ!」
「ぶっっっ!!!!???」
お冷やの高級ロイヤルミルクティーを盛大に吹き出した。
出会い頭に、フリルのついたエプロンドレスの裾を握りしめながら、あまりにも不条理すぎる前振りをブチかましてきたのは、映画『友達100人』の撮影当時、健気な薄幸の少女役としてひっそり出演していた元共演者の美少女――灰原えまちゃんだった。
実は彼女、前世や異世界とかではなく、童話の世界から魔法使いの力で飛ばされてきた『本物のシンデレラ』という、これまた凄まじい秘密を持っていた。
彼女のいた世界では、義母や義姉が優しすぎて一切いびってくれず、結果として王子様が義姉と結婚してしまい、「話が違う!」と魔法使いに文句を言ったら、この駆たちの世界へ生活費を稼ぐために子役として飛ばされたらしい。出会った当初から俺を本物の王子様だと認識して猛烈なアプローチを仕掛けてくれていたのだが、鈍感な俺は一切気づかず、結果として俺の義母や義姉の実家連合から「これ以上駆に近づかないでくれる?」と物理的に邪魔をされ(いびられ)続けていたのだ。
「灰原ちゃん!? なんでレンタル彼女にいるんだよ!? というか、なんでいびられたがってるんだ!?」
「カケル様の義母様や義姉様にいびられることこそ、私の真骨頂! つまり大河内家は、私にとって世界一素晴らしい理想の継母環境なのですわ! だからこうしてレンタル彼女であなたに襲いかかり、正式に大河内家の娘としていびられに参りましたの!」
目を血走らせて熱弁してくる灰原ちゃん。だが、俺は毎週毎週、詩織たちのコンプラ違反の突撃や高坂マネージャーのコンプラ教室、神崎トレーナーの理詰めの指導を経験している。
ボッチのくせに、俺の『レンカノ対応』と『大人の男のオーラ』は、すでにそこらのトップ俳優を瞬殺できるレベルにまで勝手に強制進化してしまっていたのだ。
「……灰原ちゃん。とりあえず座って。周囲の目が集まるから大声を出さない。ほら、冷める前に紅茶お読みよ。君、昔から本番前に無駄に設定を作り込んで空回りする癖、全然変わってないね。でも、そういう君のブレないお姫様世界観、俺は嫌いじゃなかったよ」
俺としては、これ以上個室で大騒ぎされて詩織たち芸能界のエリート組に見つかったら人生が白紙化するので、穏便に終わらせるための手慣れた大人の対応(ただの紳士的なお茶の勧め)を繰り出しただけだった。
「ひゃうんっ……!?(な、何よこれ。子役の時はあんなに無邪気なボッチの男の子だったのに……デートになった瞬間、何この圧倒的な洗練されたエスコートと、余裕のある大人の男のオーラは……っ!?)」
灰原ちゃんは小さな悲鳴を上げて顔を真っ赤に染め、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。
いびられにカチコミを仕掛けにきたはずの元シンデレラの心に、まさかの角度からガチ恋の火を付けてしまい、見事な返り討ちにしてしまうのだった。




