第6章 「世界が見た“価格表”」
1
翌朝、アミールは壊れたラジオの前に座っていた。
雑音の向こうで、外国のアナウンサーが早口で何かを読み上げている。
「――サラエボ包囲戦に関する新たな証拠が――」
「――民間人を標的とした“娯楽行為”の疑い――」
アミールは息を呑んだ。
ついに、世界が知ったのだ。
だが、世界の反応は一枚岩ではなかった。
2
■ 欧州のニュースルーム
ロンドンの通信社。
編集長は、机に広げられた“料金表”のコピーを見つめていた。
「……これは、戦争犯罪の証拠になり得る」
「だが、出所は?」
「サラエボ内部の記者から。信頼できる筋です」
編集長はしばらく沈黙し、
「掲載しろ」と短く言った。
その決断は、
翌日の欧州各紙の一面を飾ることになる。
“子どもと妊婦が高額、老人は無料――
戦争を娯楽に変えた“価格表”の存在”
読者の反応は激しかった。
怒り、恐怖、そして信じられないという声が渦巻いた。
3
■ 国連本部の会議室
ニューヨーク。
国連の会議室では、緊急の非公開会合が開かれていた。
「この文書は本物なのか?」
「軍の印章、日付、文書形式……すべて一致しています」
「もし事実なら、国際法の重大な違反だ」
だが、別の代表が冷静に言った。
「証拠が“どこから出たか”が問題だ。
内部告発なら、関係者の安全はどうなる?」
会議室には、
“正義”と“外交”の板挟みの空気が漂っていた。
誰もが動きたい。
だが、動けば誰かが傷つく。
その現実が、議論を重くしていた。
4
■ 国際ジャーナリストたち
パリのカフェ。
複数の記者が集まり、
“料金表”のコピーを囲んで議論していた。
「これは、ただの戦争じゃない。
“娯楽としての殺戮”だ」
「人間の倫理が崩壊した証拠だ」
「この街で何が起きているのか、もっと掘り下げる必要がある」
彼らは取材班を編成し、
サラエボ周辺へ向かう準備を始めた。
世界の目が、
初めて“丘の上”に向けられた瞬間だった。
5
■ 一方で――
包囲側の軍関係者は激怒していた。
「内部に裏切り者がいる」
「情報が漏れたルートを探せ」
「市民の動きを監視しろ」
街の検問はさらに厳しくなり、
外出する市民の数は一気に減った。
アミールは、
世界が動き出した喜びと同時に、
街に迫る危険を肌で感じていた。
6
■ サラエボの小さな部屋で
アミールはラジオを切り、
深く息を吐いた。
世界は動いた。
だが、それは“救い”ではなく、
“嵐の前触れ”でもあった。
彼は窓の外を見つめながら呟いた。
「真実は届いた。
あとは……この街が持ちこたえられるかどうかだ」
その夜、
サラエボの空には、
いつもより多くの砲撃の光が走った。
世界が知ったことで、
戦争は新たな段階へと進んでいく。




