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サラエボの丘  作者: はまゆう


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22/22

第21章 「アディスの未来」

1


包囲が解けて数年。

アディスは、少年から青年へと成長していた。


背は伸び、

顔つきは引き締まり、

目の奥にはあの日の光がまだ残っている。


だがその光は、

かつての“生き延びるための光”ではなく、

“未来を見据える光”に変わっていた。


アミールは、

その変化を誇らしく見つめていた。


2


■ 新聞社の見習い


アディスは高校を卒業すると、

地元紙の見習い記者になった。


最初の仕事は、

市場の再開の記事だった。


「パン屋のマルコさんに取材してきます」

アディスはノートを抱えて走っていった。


その姿を見て、

アミールは胸が熱くなった。


かつて命がけで“真実を運んだ”少年が、

今は“日常を記録する”青年になっている。


それは、

街が生き延びた証でもあった。


3


■ 初めての記事


数日後、アディスは原稿を持ってきた。


「アミールさん、読んでほしいんです」


アミールは静かに目を通した。


“パンの匂いは、

 この街が再び朝を迎えた証だ。

 戦争は街を壊したが、

 人は壊れなかった。

 だからパンは焼かれ、

 子どもたちは学校へ行き、

 広場には歌が戻る。”


アミールは、

言葉を失った。


「……アディス、お前はもう記者だよ」


アディスは照れくさそうに笑った。


「アミールさんの真似をしただけです」


「いや、違う。

 これはお前の言葉だ。

 お前にしか書けない言葉だ」


4


■ 過去との向き合い


ある日、アディスはアミールに言った。


「僕……

 あの丘に行こうと思うんです」


アミールは驚いた。


「怖くないのか」


アディスは少しだけ考えてから答えた。


「怖いです。

 でも……

 あの場所を“過去の場所”にするためには、

 自分の足で行かなきゃいけない気がして」


二人は丘へ向かった。


かつて狙撃手がいた場所。

かつて富裕層が笑っていた場所。


今は、

ただ風が吹き、

草が揺れているだけだった。


アディスは静かに言った。


「ここで……

 僕は死んでいたかもしれないんですね」


アミールは頷いた。


「だが、生きた。

 そして今、お前は未来を書いている」


アディスは目を閉じ、

深く息を吸った。


「……もう大丈夫です。

 この丘は、僕の未来を奪う場所じゃない。

 僕が未来を書く場所です」


その言葉は、

アミールの胸に深く刻まれた。


5


■ 新しい使命


アディスは新聞社で働きながら、

夜は大学でジャーナリズムを学んだ。


彼のノートには、

いつも同じ言葉が書かれていた。


“真実は、誰かが語らなければ消える。”


それは、

アミールがかつて彼に教えた言葉だった。


だが今は、

アディス自身の信念になっていた。


6


■ そして、未来へ


ある日、アディスはアミールに言った。


「僕、いつか本を書きたいんです。

 この街のこと。

 包囲のこと。

 生き延びた人たちのこと。

 そして……

 僕を助けてくれた人たちのこと」


アミールは微笑んだ。


「書けるさ。

 お前はもう、語り部の一人だ」


アディスは頷いた。


「アミールさん。

 僕は……

 あの日、死ななかった意味を探してきました。

 でも今は分かります。

 “生き延びた者には、語る責任がある”って」


アミールは静かに言った。


「その通りだ。

 そしてお前は、その責任を果たすだろう」


夕陽が丘を照らし、

二人の影が長く伸びた。


その影は、

過去と未来をつなぐ橋のようだった。


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