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サラエボの丘  作者: はまゆう


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1/6

第1話 「サラエボの丘を見下ろす者たち」

1


アミール・ハジモヴィッチが生まれ育ったサラエボは、かつて「ヨーロッパのエルサレム」と呼ばれた街だった。

モスクの尖塔と教会の鐘楼が並び、ユダヤ人街の石畳を歩けば、どの店でも違う言語が聞こえた。

宗教も文化も混ざり合い、誰もがそれを当たり前だと思っていた。


だが1992年、旧ユーゴスラビアが崩壊すると、その多様性は一瞬で“境界線”に変わった。

民族と宗教の違いが、政治の争いに利用され、街は分断されていった。

そしてついに――サラエボは包囲された。


街を取り囲んだ武装勢力は、4年近くにわたり、外界との道をすべて封鎖した。

食料も薬も届かず、電気も水も途切れがち。

市民は、狙撃手の射線を避けるため、建物の影を縫うように走り、

「この道は今日、生きて渡れるか」を毎日賭けていた。


アミールは地方紙の記者として街に残った。

「誰かが、この狂気を記録しなければならない」

その思いだけが、彼を支えていた。


2


そんなある日、彼は耳を疑う噂を聞く。


――“丘の上に、外国人が来ている”

――“軍の案内で、狙撃地点を見学している”

――“金を払って、銃を撃っている”


最初は、戦時下のデマだと思った。

だが取材を進めるほど、噂は輪郭を持ち始めた。


サラエボを包囲する側の軍関係者が、密かに組織した“ツアー”。

参加者は世界中の富裕層。

支払う額は、家が一軒建つほどの金。

そして――標的は、街を逃げ惑う民間人。


アミールは、怒りより先に“理解不能”という感情に襲われた。

人間が、そんなことを本当に望むのか。

金を払って、命を奪う行為を“娯楽”と呼ぶのか。


3


取材の末、彼はある元情報員に会う。

男は、長い沈黙のあと、低い声で語り始めた。


「彼らは、スポーツのように銃を撃った。

 スコープ越しに子どもを見て、笑っていた。

 撃ったあと、記念写真を撮って帰っていった」


アミールは言葉を失った。

胸の奥で静かに燃え上がる怒りは、やがて“使命”へと変わっていく。


「この事実を、世界に伝えなければならない。

 金があれば何をしてもいいと信じた者たちが、

 どれほど人間性を踏みにじったのかを」


4


その夜、アミールは暗い部屋で原稿を書き続けた。

外では砲撃の音が響き、窓ガラスが震えている。

だが彼の手は止まらなかった。


“戦争は狂気だ。

 だが狂気を選んだのは、人間だ。

 そして狂気を娯楽に変えた者たちがいた。

 この不条理を、私は決して忘れない。”


その原稿は、後に国際社会を揺るがす証言の一つとなる。


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