第28話【法則】
「……アカリさんの指、小さいすね」
「ジータスさんの手は……大きくて逞しいです」
『偽善』こと『蘭堂アカリ』の手をニギニギしているジータス。
お互い、まんざらでもない様子で、ぴったり肩を並べて体育座りをしていた。
「――んでよォ、鬼拳3の大会の日とライブの日が重なっちまってよ。2026年格闘ゲームエクスポの……」
「うわー覚えてる! スポやんが居ないから、まともな対戦相手がいなくて俺が優勝した年だ!」
『ゲーム』こと『ルシア』と談笑するスポーン。
実力を認め合ったのか、はたまた趣味が合うからなのか、二人は意気投合していた。
「テラさぁぁん♡ 美容液何使ってます? 覆面しているのにお肌超キレイ♡」
「あたいのは通販専用だよ。店頭で売ってないやつね。カンナだってお肌スベスベだよなぁ~」
密着する両名。テラと対峙した『大喰い』こと『綿藤カンナ』は、互いの肌に触れ合いながら、コスメチックな話題で盛り上がっていた。
戦闘中に脱いだ衣服はきちんと着用され、中身が不明な大きなリュックサックも体育館の床にしっかりと置かれている。
「……おいBOT、どうなってんだこれ」
「いえ……わかりまセン」
呆気に取られる『似内ハルカ』と『BOT』だったが、無論この場にいたチーム『ダーク』の『法則』『ソシオ』はもちろんのこと、チーム『ビースト』の『ケーボーイ』『音咲スミカ』『湖沼ケンタ』もただ茫然とそれを眺めていた。
体育館内で動けなかった生徒と教師たちは、未だ全員が夢の中。
「みんな、無事だったんだね!」
ここで、私『音咲スミカ』がようやく声を上げる。
その言葉と同時にパチパチと拍手を始める『法則』こと『万杯ユウ』。
――皆の視線が彼に集中した。
「素晴らしい、感動しましたよ」
何が? って顔で見ていたのは私だけではない。
状況をいち早く理解したのは法則ともう一人。
「……どうやら、賭けは僕の勝ちのようだね、ユウ」
ケーボーイは黒いパーカーの首元から、フィガロチェーンのネックレスを手繰り、取り出す。
先端には、何やら菱形の赤い宝石が付いているが、何の宝石なのか私にはわからない。
「ユウが探している『始まりの啓典』は、このスフィアの先にある。肌身離さず、僕がこれを守っている。『終焉の啓典』は、ユウ、今もキミが持っているんだろう?」
ふふっと笑う法則。
だが、直ぐに睨みつけるような眼でケーボーイを視た。
「タツヤ。手を煩わせて申し訳ないのですが……場所を変えたいので、我々以外の人間に、貴方の能力で記憶を改ざんしていただけますか?」
会話を聴いていた全員が法則からケーボーイへ視線を移す。
スッと一歩前へ足を進め、ぐるりと360度、体育館全体を見回す。
「……わかった」
ギィンッッ!!!!
「け、ケーボーイの獣化ッ!? ま、まだだ。気絶するのはまだ早いぞスミカ……」
手の指先から頭までリアルな毛に包まれた、どこか禍々しい雰囲気の羊の獣が目の前にいた。
独特の青いオーラを全身に纏い、両手をバッと開いて能力を発動――
「――『追憶の軌跡』」
パアアァァァァ……!!
生徒と教師らの頭上に、青い光のサークルが出現した。
眠っている全員に数秒間、パラパラと光の欠片が降り掛かると、最後はサークルが額に収まってスウッと消える。
300人を超える数だというのに、その対象全てに、正確に能力を発動出来るなんて……。
「終わったよ」
ケーボーイが腕を下げると、テラが声を発した。
「ケーボーが来ることを前提とした計画か。ここまで大事にして……そんなにウチらを殲滅したかったのかい?」
再び笑みを零す法則は、ハンドポケットを止めて、両手をゆっくり取り出す。
「ふふっ……いいえ。タツヤが現れなければ、ビーストごと集団失踪にするつもりでした。そして――」
ブゥンッ!!
――【次元の狭間 宇宙空間】
ここは空間と呼べるのだろうか。
星に囲まれ、大地が無く、惑星も見当たらない謎の場所に、どうなっているのか、私たちは立っていた。
私もケンタも、キョロキョロと見回したが、既に他の皆は冷静さを取り戻している。
「――そして、この場で皆さんを始末することで、我々の目的の一部が達成できる」
「ちょっと待ってくれよ法則! 一般人には危害を加えないルールだろ!?」
ルシアが彼の言葉を止めた。隣にはスポーンが構える。
「集団失踪って……学生諸君ヲ皆殺しにするつもりだったのデスか?」
BOTも質問を並べる。ハルカが腕を組みながら彼を見つめた。
「そんな無粋な真似はしません。妖魔の生贄……いえ、士気向上の道具と言えば、理解できますか?」
「ほえ? なんで妖魔に~? そいつらも敵だって法則が教えてくれたんじゃん?」
カンナが疑問を口にする。テラは手を腰に添えて半身になる。
「要するに……法則個人の目的のためだけに、私たちを利用したのですか?」
自らの肩を抱くアカリ。ジータスが首をコキッと鳴らす。
「いいえ、偽善。あくまでも、我々のチーム『DARK』の目的が全てです。勿論、ルールには従ってもらいますが……」
ここで、法則の隣に立っていたソシオが、彼に向って語気を強める。
「だからよ、そのルールをボス自ら破っていいのかって聴いてんだよ!!」
ゾクッ……!!
圧倒的な悪寒。言葉に反応するように、丸眼鏡の奥からジロリと細目でソシオを睨む法則。
「……何か、勘違いをしているようですね。今回のミッション……失敗したのは……誰ですか?」
瞬間――この場にいる全員が、地面のない地面へと押さえつけられる。
「あぁッ……!!」
「ぐっ!!」
私も、私の前のケーボーイも、敵のメンバーも。
皆、彼の生み出した重力に抗えない。
「――『万有引力』。私の命じた任務をこなせなかったのは、一目瞭然。私が来た時点で、少なくとも、そこの学生くらいは消していると思っていましたが……」
「うっ、ぐぅぅ……!!」
法則はゆっくりと浮上し、私達を見下せる位置へと移動した。
「『ゲーム』『偽善』『大喰い』『BOT』『ソシオ』……皆さんにはチャンスを与えます」
歯を食いしばりながら、法則を何とか見るが、手も足も出ないなんて。
さっきの金縛りどころではない、圧迫される痛みに耐えるので精一杯だ。
「チャンス……だと……!?」
「私はね、帰納法により妖魔に関する、ある結論を導き出したのですよ」
ソシオにだけではない、自身のチームメンバーに向って語り掛ける。
「上級妖魔の血は、その強力なオーラによる進化の可能性を秘めている。そして、進化を引き起こすための方法をようやく発見出来たのです――」
ダークのメンバーが法則の傍に引き寄せられ、私達と対面になる。
「さぁ、追加ミッションです――『群化処理』!!」
ドォォンッッッッッッ!!!!!!!!
グオオオォォォォォォオッッーーーー!!!!!!!!
爆風が起こり、それらは出現した――
「おいルシア!! ……クソが、やるしかねェってのかよ!!」
「アカリさん!? ……俺が……俺が助けます」
「カンナ……いま楽にしてやるよ」
スポーン、ジータス、テラが、重力に逆らい立ち上がる。
ギィンッッ!!!!
三人同時に獣化完了。
そして、押さえつけていた能力の効果が薄れたのか、私も、ケンタもニッタも……ケーボーイも立ち上がる。
「みんな、最初から全力だ。救うぞ――」
チーム『ビースト』は頷いた。
上級妖魔の比ではない、絶望的なオーラが五つ。
紫色の肌が、よもや人間だった頃の姿を忘れさせる。
共通して双角が頭に、そして翼が生えていた。爪は鋭く伸び、殺気を纏わせて――
「どうやら、強制的に覚醒進化させてしまうと、自我が薄れてしまうようですね。まぁ、問題ありません。想定内です」
「……ユウッ!!」
獣の牙を剥き出しに、ケーボーイは身構えた。
掌をこちらに向けて大きく開く法則。
「皆さん、獣たちを蹂躙しなさい」
闘いの火蓋が今、切られる――
湖沼ケンタです。えーっと、僕の活躍はまだですかね?
こんなところで終わる男ではない、とハッキリ言っておきますよ!
音咲さ……スミカさんにはまだ僕の気持ちを伝……って何を言わせるんですか!?
「言ってないよ(笑)ほら、ケンタ、宣伝して」
テラさん!? あぁもう!!
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それが僕たち『ビースト』の力になるからね!!
それじゃあ、次回もお楽しみに!!




