第27話【ハルカ VS BOT】
――【次元の狭間 緑の地下研究所】
「で、私の相手はあんたってわけか」
コツ……コツ……。
「……」
緑色のライトに照らされた広い一室。試験管やフラスコ、ビーカー……機械仕掛けの何かがある、ここは化学研究所のようだ。
互いに距離を取り、ゆっくりと歩みを進めていた。
都立AP学院 の音楽教師『似内ハルカ』――愛称ニッタと、もう一人。
臙脂色の中折れ帽に手を添えた、茶色のダッフルコートを着た男。
「今朝テラが教えてくれたダークって組織のメンバーだよな? 他のみんなは無事なのか?」
「……」
天井までがかなり高い。多少暗いものの、周囲は見渡せた。
部屋の両端には階段があり、二階の通路までがセットで一つの空間といったところか。
「……何とか言ったらどうだ? 私一人にしゃべらせてんじゃねえよ」
「……質問が多いデスね。アナタに話すことなど一つもナイというのに」
ハルカは身構えた。
大人気音楽バンドグループのノバディフラワーこと、ノバフラメンバーの4人と違って、ハルカは戦闘経験が浅い。
それに比べて対象の男は玄人感が滲み出ている。恐らく、これまで何人もの命を奪ってきたのだろう。
「アナタの人生はここで終わりデス。お疲れサマでした」
「うーわ、口調が完全にロボじゃん。なんだこいつ」
ピクリと僅かに反応した男――通称『BOT』。
人の身体でありながら、温もりは皆無な、どうやら完全自立型の何かだろう。
「ロボ違います。ワタシはBOTです」
「ほら、ロボットじゃん。いいから掛かって来いよ」
クイクイッと指を揃えて手招きすると、開きのあった距離が一瞬で詰められる。
BOTが一度の踏み込みで飛び出し、右の拳を繰り出す。
「……ヌルポ」
ガッ!!
左腕でBOTの一撃を止めたハルカは、そのまま右の拳で腹に一発お見舞いする。
鈍い音が響くも、手応えは無い。
後方に下がって、再び飛び込むBOT。踏み込んだ床がバキバキに凹んでいた。
ブォンッ!!
コートに隠れた左脚から上段蹴りが炸裂するも、僅かに頭を下げるだけで躱すハルカ。
その回転を利用して今度は中段、腰を目掛けて蹴りを放つBOT。だが、これも側転で難なく避ける。
「ッ! ――『リミット解除』」
ババババババババッッ!!!!
相手の猛攻を、涼しい顔で避け続けるハルカ。腰の辺りまで伸びた茶色の長い髪が、激しく揺れる。
四肢を全て駆使し、時に回転し、時に空中から……BOTはただ黙々と攻撃を続けた。
ババババ……ガガガガッ!!!
回避不可能な動きになってくると、ハルカも手足でそれを抑え始めた。
防御は完璧で、ダメージはここまで一切無い。
「おぉりゃっ!!」
隙を見てBOTの腹に強烈な蹴りを食らわせる。
置かれていたテーブルごと、豪快な音と共に壁まで吹き飛ばした。
「ふうっ……」
赤いジャージの胸元がかなり開けていたが、如何せん今は戦闘中、気にする様子もないハルカだった。
「やりマスね」
ガラガラと壁の中から立ち上がるBOT。その帽子が脱げることなく、その頭に収まっていた。
「……ここからは能力を使いマスよ」
「……はぁ~。あんま乗り気じゃないけど、私もやるかぁ。ったく、仕方ねぇよなぁ」
何かぐちぐちと文句を言いながら、さらっと亜空間から取り出した赤縁眼鏡を掛けた。
覚醒した自身の力、能力を完全にコントロール出来ているハルカ。
ここにきて、敵に対して初めて能力を発動する――
「私は文句言うけど、何が起きてもあんたは文句言うなよ?」
「……そちらこそデス」
緑色のオーラを全身に纏うBOT。
対するハルカは赤色のオーラを纏った。
「――『治癒超過』」
「――『無限広角』」
能力は、同時に発動された。
両手をへその辺りで組み、勢いよく開いた掌で緑色のオーラをハルカに飛ばす。
対するハルカは、ただ眼鏡を指でクイッとしただけで、微動だにしていない。
オーラをぶつけられた筈だが――
「ッッ!? ば、ばかナ!!」
「うるせーハゲ。ばかじゃねえ」
もし、BOTが機械仕掛けの人形ならば、情緒が乱れたりすることはない。
だがしかし、その歯車が狂いだし、彼は饒舌になってしまう。
「回復能力を過剰に搭載することにより治癒を超えて肉体の細胞分裂が過剰に行われた結果逆に肉体の滅びを招く最大にシテ最強の攻撃手段に転ジルというワタシの必殺技とも言エルこのオーバーキルがなぜこの女には効果が得られナイのだあとハゲじゃないヨうごごご……」
「うるせぇな。落ち着け」
現在進行形でBOTの『治癒超過』は実行されているにも拘らず、ハルカへの影響は不思議と起こっていない。
「どうする? いるか? 説明」
「……お願いしマス」
「いるのか」
ビビビビッとビームを受けたような音が鳴り響く中、ハルカは語りだす。
「私が能力を使えば、私には何も受け付けない。逆に相手には全て受け付けさせる。一生届かないぞ、そのビームみたいなやつは」
言葉の通り、正確には、届いていなかった。
ハルカの身体に纏ったオーラを能力で無限化し、たとえ矢でも鉄砲でも、一切の行動を阻止可能なのだ。
「ッ!!!!」
「じゃあ、私があんたにこの能力をぶつけたら、どうなると思う?」
フッとBOTの手が止まり、膝をついて絶望する。
「や……やめてくだサイ……」
「……あんたが今まで殺した人もそう言ってたんじゃねーのか」
コツ……コツ……。
目の前まで歩くと、見下せる位置にまで下がった頭に手を置くハルカ。
硬そうな帽子を掴んだまま、会話を続ける。
それも、可愛いらしい笑顔で……。
「一瞬だよ。粉々ですらない、ただ『無』になるだけ」
「ひっ、ヒィッ!!」
力関係がはっきりした。決着の刻――
目の前でしゃがみ込み、両手でBOTの肩を握った。
「……やらねーよ。その代わり、質問には答えろよ。あんた、人間だろ? 心の深いところから、優しい音がしてるぜ」
「……あ……」
チーム『DARK』のリーダーである法則に背くことは許されていない。
が、今この瞬間、一人の人間として認められた相手に応えるのは、己の意思だった。
――【次元の狭間 緑の地下研究所 中央】
なぜかBOTは正座していた。
胸の前で腕を組みながら、怪訝な顔で彼を見るハルカ。
「私は、法則に拾われた元研究者デス」
「おう、それで?」
「細胞についテ、失われル治癒力を元に戻す研究を追求した結果、私は歪みまシタ」
「おう。もっと完結に話せ」
非常に絵が怖い。しかし、状況が仕方ない。
BOTは続けた。
「私自身を被験者とシテ……あ、サイボーグデス。ようするニ」
「大変だったな。んで? 今まで何人殺したおめーは」
ハルカは容赦ない。かと言って正義を前面に出すタイプでも無い。
これは納得のための儀式だ。
「犯罪者に限定シテ、私は4人デス」
「ん、限定?」
――ここで、組織の意図を知ったハルカ。
匿名の闇サイトを利用した、悪意ある人間を始末する活動。
また、収監された犯罪者の出所後を狙っての殺人など、多岐に渡る。
「――話はだいたい分かった。じゃ、今からあんたは私の部下になれ。もう人を殺すな」
「そ、それは出来ませン。規律を重んじル我々は、ルールを破ればそれ即ち死デス」
あちゃーと頭を抱えたハルカ。
申し訳なさそうにペコつくBOT。
「あんた……いや、名前は?」
「BOTです」
「いや、人間の名前……」
考える素振りをした後、違和感のある答えが返ってきた。
「……私の……本当の名前……? わ、わからナイ。なぜだ……」
「ん? そのさっき聴いた妖魔の血の件が影響してんのか? ……思い出したら教えろよ、約束だ」
約束、という言葉を深く胸に刻み込むBOT。
彼の心と身体のバランスは、未だ保てていないのかもしれない。
「じゃあ、戻るぞ。ボットの空間転移で私らを4組に分けたんだろうし、帰りも頼むぞ」
「ハイ、わかりましタ」
ここで何か思い浮かんだのか「あ、その前に」と加えるハルカ。
「いいか、私たちのチーム『ビースト』は、たとえどんな奴が相手だろうと殺しはやらない。つまり、ウチらが全員勝っていれば、体育館へは8人全員が戻ってくることになる。ボット、治療は任せたぞ?」
熱く手を握った。誓いの握手は果たして守られるのだろうか。
「ハルカさン……ありがとうございまシタ」
「おう、これでも教師だからな。生徒を正しく導くのが役目だ。期待しているぞ」
肩をポンポンと叩き、どことなく嬉しそうなBOTだった。
「それでは行きマス……幻想転移!」
ブゥンッ!
――【次元の狭間 都立AP学院 体育館】
――【2028年 3月1日 AM9:27】
「な、なんだこれは……!!」
「ど、どうなっているんデスか……?」
体育館へと戻ったハルカとBOT。
そこで見た光景とは――
BOTです。名前はまだわからナイ。
声を掛けてくださル皆さんに感謝を伝えたいと思いマス。
いつも応援ありがとうございマス。
本当の自分ヲ見つけた時、誰かの力になれると信じていマス。
感想や☆評価、ブックマークにレビューなど応援よろしくお願いしマス。
以上デス。




