第26話【テラ VS 大喰い】
――【次元の狭間 赤の森】
大木が並び、樹の香りが漂う。
周囲は薄暗く、足元は覚束ず。
この狭間では、禍々しくも空が赤く染まり、視界は良好とは言えない。
ただ、この場の生命反応は二つのみ。動物や虫はいないのだろう。
「お嬢ちゃん、随分と好戦的そうねぇ。私と闘りたい?」
対峙する二人。
狐の獣化を済ませてあるテラに対し、重そうなリュックサックを背負う小柄な敵――通称『大喰い』。
「……キレイな毛並みだなあ。剝いだらさぞかし美味しいお肉があるんだろうね!」
リュックを降ろし、ジャケットを脱いでタンクトップ姿になると、一気に殴り掛かる。
メガネの奥に狂気が走った…!
「闘る気満々じゃん!」
唐突なストレートパンチ。この一撃が重く、腕でガードしたテラは呻き声を上げる。
フィンガーレスグローブを装着した拳が、見かけよりも遥かに強力だった。
「あは♡ お姉さんめちゃくちゃ強いんだね。骨も砕けてないなんて」
「……ッそりゃ、どうも」
今の攻撃ではっきりした。大喰いは、ただの細身で小柄な女性なんかではない。
内に秘められた力はハッキリと強く、恐らくスポーンよりも火力がある。
「わたし、今朝あまり食べて来なかったんですよ~。だからあなたの力、いただきます!」
右手だけが、巨大化していく。これが大喰いの能力……!
その掌には口がついてあり、今にも丸飲みしてくるのだろう。
終始笑顔で、テラに飛び掛かる!
「――『栄養補給』」
人間一人を飲み込めるサイズにまで変貌を遂げたその右手が、頭上から降りかかる。
「……舐めてんじゃねえぞ」
降りかかる手の下をスライディングで突き抜け、大喰いの顎に自身の左膝を豪快に当てた。
大喰いのメガネが吹き飛び、一瞬の怯みに合わせてグルッと回転し、続けて右脚で踵を頭に打ち込む。
「……ガッ……ハッ……」
「さっさと醜い手を片付けな、お嬢ちゃん」
膝から踵へ繋いだ二連撃が決まった。手応え有りと思ったその時、大喰いは笑った。
「あ……あはは、あははは!!」
シュルシュルと右手が元通りになる。
下を向いたまま、その三つ編みがダラリと垂れ下がった。
「あ~、もうちょっと本気出さないと、あなたには勝てない気がするんだよね~。『大盛』で倒せないなんて初めてだよ~」
プッと草木に口内の血を吐き捨てると、顔を上げる。無論、笑顔だ。
一切の油断はなく、テラが身構える。
「わたしの能力はですね~、食事から得たエネルギーを無限に蓄えられるんですよ。それをコントロール出来るので、いつでも力に変えたり出来るんです……こんな風に!!」
ビキビキビキッッ!!
「あら、ステキ。魅惑のボディーじゃないの」
身長はテラを超えた。引き締まった筋肉、顔付きも少し大人っぽくなっている。
タンクトップから零れそうな、豊満となった胸も、格闘家の引き締まり方をしていた。
「あははは!! これで『特盛』です、さあ食事を再開しましょ!」
「良い意味で狂ってるよ、アンタ。嫌いじゃない」
大薙ぎの蹴りをバク転で避けるテラ。
その蹴りは爆弾のようで、大木が破壊され、折れて倒れる。
続けて、ボクシングのように拳を繰り出し、連打を浴びせるも、これも当たらない。
スッとギリギリのラインで躱し、反撃の機を伺っていた。
「へぇ~、やっぱりお姉さん強いや。お名前は?」
「あたいはテラ。お嬢ちゃんは?」
「わたしはね、『大喰い』!」
ドガッー!! バキバキバキ……!
森での闘いは、通常であれば障害物だらけで戦闘には不向きだ。
しかし、それをものともしない大喰いの攻撃は、本命には当たらずとも周囲を破壊し続ける。
「違うよ、アナタの本当のお・な・ま・え♡」
華麗に避けるテラ。その様子を見て、大喰いも薄々だが勘付いた。
「……『綿藤カンナ』。なんで……なんで当たらない?」
「ふふっ、あたいの能力――『完全回避』」
――既視感という言葉を知っているだろうか。
実際には初めて体験することも、以前に体験したことのように強く感じ取れる。
テラの能力……歪みの力はこの『既視感』。
戦闘におけるあらゆる危機を、想定ではなく実体験として追従し、近未来を先取りするかのように予見するタイプの力である。
「――だから、当たらなければどうということはないのよ」
「ほえ~……そりゃやばいな、どうしよう」
対話をしながらも、攻撃の手は止まらない。
避けるテラの余裕が伺えるが、大喰い――もとい、カンナのスタミナも際限が無いだろう。
「さっきから掴もうと思っても躱されるし、困ったな~」
「あら、ギブアップ?」
その言葉を聞いて、ようやく動きが止まる。
シンプルな能力が故に、決定打に欠けていたが、発想を変えた。
カンナは、この場で衣服を脱ぎ始め、靴も脱いでちょこんと纏める。
腰に手を当て、ドヤ顔を決めた。
「えっと……なぜハダカに?」
「ふっふっふ。まぁ見てなさい」
更に自身を強化する――
ググッ……ググググーー!!
「――『巨大化』。これならどうかな!!」
「……ワァオ」
それは、もはや大樹だ。
一気に10メートル級に巨大化したカンナ。
当然と言えば当然だが、衣服が破ける前に脱いだのだ。
赤い空を見上げると、大樹の葉に覆われたカンナの身体は、まるで巨人そのもの。
「テラさーーん!! すみませんが、踏みますよーー!!」
森全体に響き渡る声。
律儀な声掛けと共に、スタンピングが開始される。
ドドドドドドドッッガガガガッッッッ!!!!
最早、森は森ではなくなった。
巨大クレーターが完成する頃、ようやく巨人は攻撃を収めた。
それだけの動きをしても、呼吸の乱れは一切無い。
「いや~、ちょっとやりすぎたかな。テラさんの気配がまったくわからんな~」
「おつかれさま♡」
「ッ!?」
隠密行動を得意とするテラは、気配を消した状態で――巨大化したカンナの肩に立っていた。
驚きの反応より早く、カンナの耳に向けて、テラが口に手を添えて囁く。
「――『認知の崩壊』」
刹那、カンナの瞳孔は消えて白に染まる。
彼女の神経機能にズレが生じ、脳が正常な処理を行えなくなったのだ。
シュルルルとその場で元の姿に戻ると、地面に倒れる前にテラが身体を支えた。
獣化を解いて上着を脱ぎ、それをカンナに被せて抱く。
そこに、カンナの意識は無かった。
「……いやぁ~めちゃくちゃ可愛い敵だった。その狂気、惚れるわカンナ♡」
女の闘いに観客がいなくて良かったと、心底思ったテラだった――
綿藤カンナです! 大喰いです!!
めっちゃ食べます! 無限に食べられます!
誰か一緒にデカ盛り店巡りしませんか?
賛同してくれるそこのステキなあなた!
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それじゃあ、楽しみにしてますね~~!!




