第24話【スポーン VS ゲーム】
「ちょこまかと動き回りやがって……ッ!!」
瓦礫の山となった遺跡の上で狼が吠える。
速さに自信のある様子の敵――通称『ゲーム』を捉えられず、苦汁を舐めていた。
「へへーん! 捕まえてみろよ脳筋ビースト!」
「ッッ!! この野郎ッ!!」
スポーンは左手を伸ばし、何も無いはずの目の前――『亜空間』から、更にもう一本のハンドアクスを取り出す。
全身から噴き出すように赤色のオーラを纏い、更には手にした双斧にも伝達させ、気合いを込める。
脚にググッと力を込め、まるで大砲のように瓦礫の山から勢いよく射出して斬りかかる……が。
「ざんねーん! またまたハズレ!」
難なく左に避けるゲーム。大地に斬り込み、食い込んだ斧をそのまま左方向へ薙ぎ払い、大量の石礫がゲームに追従するも……またもやそこには彼の姿は無い。
「クソッッ!!」
立ち位置が逆転するように、瓦礫の山の頂上でゲームが声を上げる。
「クソなんて汚い言葉を使うなよビースト! ちゃんとう○こって言えよ!」
「ッッ~~!!」
何を思ったのか、上半身が完全に狼となっていた獣化を解くスポーン。
口元だけが開けている狼の覆面からフゥーッと大きく息を吐き、双斧を亜空間に収納する。
「……ッハァァァ、めんどくせェ。冷静になれ俺。相手の思う壺だ」
その様子を見たゲームは、わざとらしく瓦礫から地面へと降りながら挑発を続ける。
「えっ? もうおしまい? その程度の実力で俺らに牙向いたの?」
被っていたカラフルな帽子の鍔をグイッと180度回転させ、パーカーの袖を捲った。
目に優しくはない虹色のオーラを全身から溢れさせ、眼力を強める。
「……それじゃ、鬼ごっこも飽きたことだし、クリアしちゃおうかな」
スポーンは怯むことなく、指をパキパキ鳴らす。
「挑発は終わりか? 『逃げ担当』のガキだろうが俺は容赦しねェぞ。本気を出すなら今のうちだぞコラ」
その言葉に、こめかみがピクッと反応し、怒りが沸き起こる。
「……あ? 誰が逃げ担当だ? ざけんじゃねーぞオラ」
「どうせ毎日引き籠ってゲームしてたくちだろてめェ。人生から逃げてばかりで本気なんて出したことあんのかコラ」
身長差はあれど、ついにゼロ距離まで互いに近づき、スポーンの胸の辺りにゲームの見上げる顔が当たる。
二人とも歯を剝き出しにしたままオーラがぶつかり合う。睨み合いが続いていた。
「……やってやんよ。俺の能力見てビビるんじゃねーぞ」
「好きにしろや。殴る勇気も無いクソガキ」
大人げない。ゲームは瞬時に後方へ跳躍し、右手を伸ばす。
そしてスポーン同様、亜空間からヘッドフォンを取り出した。
「! てめェも物を取り出せんのか」
それを首に掛けてから両先端を耳に当てると、眼が赤く変色していく。
「――インストール『格闘ゲーム・鬼拳3』。『ハイパーコンボ』……いくぜッ!」
ガガガガッー!!
強烈なパンチとキックのコンボが始まり、ギリギリ防御が間に合ったスポーン。
手足を駆使して相手の攻撃を受ける。
「おっ、グッ、こいつ……!!」
「オラオラオラァッ!!」
ドガガガガッッーー!!
激しい轟音。カウンターの隙が無く、顔面、上半身と下半身、狙われた箇所を必死に防ぐ最中――スポーンはあることに気付いた。
「よっ、フッ、投げ抜けェ!!」
バチンッ!!
「なっ!? おまえ何で俺の動きを!?」
豪快に手を弾かれたゲームは、驚きを隠せなかった。確殺コンボの筈だったのだ。
今までこの技に対応できた者などほとんどいなかったと言わんばかりに、歯を食いしばる。
「だははは! てめェのその動きは『ドギ』!」
「はぁ~!? な、なんで――」
鍛え抜かれた右腕をぐるんぐるん回して、上機嫌のようだ。
「鬼拳3で超有名な『ドギ使いのルシア』だろ!! 何回闘ったと思ってんだ!」
「な、は!? 何回って……えっ!?」
この指摘、想像以上に恥ずかしさが込み上げる。
何を隠そう、音楽と筋トレ好きの脳筋スポーンは、格闘ゲームも大好きだったのだ。
「この動きを見やがれ!! オラッ! ドリャァッ! 胴回し回転蹴りィッ!!」
「ああああーッッ!! おまえもしかして『ダムダ使いのスポやん』!?」
格闘ゲーム内のトップランカー同士だからこそ、二人は気付いてしまったのだ。
驚きを隠せない『ゲーム』……もとい、『ルシア』は、怒りと興奮が入り混じった不思議な気持ちになっていた。
「てめェは、クセが無いタイプのキャラに独特のクセを持ち込み連勝を重ね続ける、神童『ルシア』だな」
「そう言うおまえは、本来は投げ特化キャラなのに攻防バランスが神がかって上手い、KO量産マシン『スポやん』か」
この場にある4つの赤い目が、それぞれを見つめる。
無言で近づくと、熱く拳を合わせた。
「……わりィが、俺たちは決着をつけなきゃならねェ」
「……あぁ、わかってるよ」
一瞬、何かこう友情的なものが芽生えたかと思えば、やはりお互い敵同士。
平和には終われない。
「スポやん」
「スポやん言うなや」
「俺の持つ究極の能力を出さなければ、おまえには勝ったことにはならない」
一度耳からヘッドフォンを外し、再び装着し直す。
静寂と沈黙の後、眼の色が漆黒になる。
「……いいぜ、来いよ、全力でな!」
「――インストール『RPG・ドラスペ7』。『絶対攻略』」
シーーーン……。
じわりと汗が滲むルシア。何秒経過しただろうか。耐え切れずにスポーンが口を開く。
「……来いや」
「……」
帽子を脱ぎ捨て、そっと地面に置くと、大きなため息を吐く。
短く整えられた黒髪を両手でかき上げながら、今にも泣きそうな眼で訴える。
「……スポやん」
「スポやん言うなや」
「とりま100回だ」
首を傾げながら腕を組み、頭にクエスチョンマークを浮かべるスポーン。
「100回挑んだ。筋肉量なのか身長差なのかわかんねーけど、一回も勝てねぇ」
「……」
再びの沈黙。僅かな時間ではあったが、今度は涙目になってしまった。
「強い……強過ぎるよ!!」
「いや俺、何もしてねェし」
「あらゆる攻撃パターンを駆使して挑んだんだよ!! 全力で、何回も、何回もロードして!! すべて受けきって、たまに獣になって、最後には殴られた!! 一回も勝てなかったんだ!!!!」
何となくだが、意図を察したスポーン。
戦闘直前にこの空間、この時間を『保存』し、不利な状況に陥ったら今度は『読み込み』して、保存した時間まで巻き戻して再戦する。
これを彼は、幾度となく繰り返したのだ――自身の能力の中で。
「……ルシア。俺がてめェにしてやれることは、一つしかねェ」
「……スポやん」
ルシアの右肩にスポーンの左手が置かれる。見つめ合う二人。
何も起きない訳がなく――
「ふんぬッ!!」
ドゴッーー!!
「がはぁっ!?」
右の拳が、ルシアの身体ごと吹き飛ばした。
やはり筋肉、筋肉は全てを解決する――
俺はゲーム! ルシアは本名だ!
あらゆるジャンルのゲームに精通しているぜ!
中でも格ゲーとRPGは無限に遊べちゃうぜ!
俺と対戦したいヤツがいたら、コメントや☆評価、ブックマークで教えてくれよな!
それじゃあ、また遊ぼうぜーっ!




