CH21
「こんな素敵なお宅に招待して頂けるなんて、本当になんてお優しいんでしょう」
お婆様の声が、玄関ホールに響いた。
「ジェーンにこんな素敵なお友達がいるなんて」
お婆様は思わせぶりな視線をジェーンに投げかけると、ホホホと大げさに笑った。ハンスはどうもお婆様の御眼鏡に適ったようだ。
「僕は用事で留守にしますので、ご自分の家だと思ってお寛ぎ下さい」
「あら、どちらにいかれるんですか?」
お婆様は残念そうにハンスを見た。
「ちょっと用事がありまして、実家の方へ」
「そうですか――、そうだ、ジェーン、あなた一度もこの街から出た事がないんだから、ハンスさんに一緒に連れって行って頂けば? 」
「お母様、お仕事で行かれるのに、ジェーンは邪魔になりますよ」
あまりの祖母のずうずうしさに、母が口を挟まなければ、ジェーンは身の置き場がなかった…
「いや、簡単な用事なので、ジェーンが行きたいのなら是非」
ハンスは大きな笑みを浮かべてジェーンを見つめた。
「そう、良かった、ジェーン、直ぐに用意してきなさい」
祖母は強引にジェーンを階段に押しやると、「スカンジノビアの春はきっと美しいのでしょうね」とハンスにニコニコ微笑みかけた。
ジェーンは複雑な気分で、先程中身を出したばかりの大きなボストンバックに洋服を詰め直していた。するとその時カーテンが大きく揺れて、ナディアが部屋に現れた。
「ジェーン、お願いです、ハンス様と、かの地へ行かないで――」
ジェーンはナディアがあまりにも弱弱しく見え、一瞬誰なのかわからなかった。それ程、いつも堂々としていて、ジェーンに敵対心剥き出しなナディアからは想像できないほどか細い風体だったのだ。
「お願い……」
懇願するナディアの目には大粒の涙が浮かんでいた。
「そんな事言われても……もう約束してしまったし……」
ジェーンに優越感が無かったかと聞かれれば、きっと否定できなかっただろう。ジェーンはナディアのいつもの態度から、ただ単にジェーンをこれ以上ハンスに近づけたくないのだろうと単純に思ったのだ。
その時扉をノックする音がした。ナディアはハッとドアを見ると、何か言いたげな瞳のまま窓から飛び出していってしまった。
「ジェーン、用意は出来たかい?」
窓からドアに視線を戻すと、そこにはハンスが立っていた。
「ええ」
ジェーンは窓を閉めると、心配そうな瞳を外に向けた。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
ハンスはジェーンの荷物を軽々と持ち上げると、もう一方の手をジェーンに差し出した。
ジェーンはお姫様の様なその扱いに心を奪われてしまい、ナディアの事はどうでも良くなり、頭の隅に押しやってしまった。
「もうすぐ着くよ」
ハンスが指差す方向に大きな建物が見えてきた。
「あれがそう?」
広大な敷地に大きな建物が4棟建っている。周りは湖に囲まれ、小さな庭園(といっても、敷地面積に対してであって、実際は大きいのだが)が数箇所点在している。
「うん。今は観光用のホテルに改装してしまったから、それ程重厚な造りではなくなってしまったんだけどね」
ハンスは謙遜したが、ジェーンには十分立派な造りに見える。確かにお城というよりは大きなお屋敷が立ち並んでいるように見えるが、どこから見ても、豪華な事には変わりなかった。
真ん中の棟に車が止まると、ずらっと、お手伝いさんが並んでお出迎えしていた。
「お帰りなさいませ、ハンス様。よくおいでになられましたジェーン様」
中央にいた女性がニコニコ笑いながらジェーンとハンスの手をかわるがわるに握り締めた。
「ジェーン、女中頭のサマンサだ。僕の城の管理を千年近くしてくれている」
「よろしくお願いします」
ジェーンはサマンサに頭を下げると、サマンサは慌てたようにお辞儀を返し、
「まあまあ、なんて丁寧な娘さんでしょう! ハンス様にとてもお似合いですわ!」
と大きな体を揺すって豪快に笑った。 シルバーアイズらしからぬ暖かい雰囲気を持ったサマンサをジェーンは一瞬で好きになった。
「さあジェーン疲れただろう、部屋に案内するよ」
ハンスはジェーンの手を取ると、階段を上り、大きな扉をくぐり抜けた。
豪華なホールに続く螺旋階段を上に上がり直ぐの部屋に通された。天蓋つきの大きなベットの横には暖炉が設置されてあり、その上には大きな風景画が掛かっている。その反対には木彫りの扉があり、ハンスはその扉を開け放した。
「こっちが僕の部屋だから、いつでも入って来ていいよ」
ハンスは片目をつぶると、
「これから僕はちょっと出てくるから、夕食まで、とりあえずゆっくりしていてね。また後で呼びに来るから」
ハンスが続き部屋に消えると、ジェーンは気が抜けてどさりとベットに横になった。天井にはシャンデリアが掛かっていて、窓からの光を反射してきらきら光っている。ジェーンはとりあえず持ってきた荷物をクローゼットにしまおうと立ち上がると、クローゼットを開けた。
「!?」
クローゼットの中には沢山の洋服が既に掛かっていた。
「TO:ジェーン 気に入ってくれると嬉しい。夜ご飯にはドレスアップして来てね」
ジェーンは掛かっている洋服の手触りにうっとりしながら、1枚ずつドレスをベットに広げてみた。沢山ありすぎて目移りしてしまうが、その中でも薄い水色のシルクのドレスに目を奪われた。これ程美しいドレスを手にしたのは始めてかもしれない。ジェーンは着ていた服を脱ぐと、そのドレスに着替えてみた。シルクの肌触りがスベスベと肌に気持ちいい。ジェーンは鏡の前に立つと、髪の毛を下ろして綺麗に整えた。ドレスのお陰だろうが、悪くない気がする。ジェーンはいそいそとスーツケースからピンクのチークとリップを取り出した。
「コンコン」
ノックの音が響くとハンスが扉から顔を出した。
「思った通りだ、凄く良く似合うよ」
ハンスはジェーンをまじまじと眺めた。
「ありがとう」
ジェーンは照れながら、意味も無くスカートの表面を撫でた。
「ご飯を食べにいこうか」
ハンスは左腕をジェーンに差し出した。ジェーンはその腕に自分の腕を絡ませた。
「疲れてないかい?」
「全然。飛行機で寝たから……」
「良かった」
ハンスは階段をジェーンのペースに合わせてゆっくりと下りると、物々しい甲冑の前を通り過ぎ、天井の高いダイニングルームへと入った。テーブルの上には二人分のテーブルセッティングがされている。
ハンスはジェーンの椅子を引いて席に着かせると、自分もサッと着席した。ハンスが座った瞬間にサマンサがダイニングルームに入って来た。
「お飲み物と前菜をお持ちしました」
ハンスにはカクテルを、ジェーンにはピンク色の炭酸を、そして前菜はグリーンサラダの上に、パテの様な物が彩り良く並べられた物を運んできた。
「美味しそう」
飛行機でずーっと寝ていたので、ジェーンはとてもお腹が空いていた。
「スコール!」
ハンスはグラスを持ち上げると、ジェーンの方に少し傾けた。ご飯にばかり気を取られていたジェーンは急いでグラスを持ち上げると
「乾杯!」
と小さな声で囁いた。ピンクの炭酸は、ラズベリーのソーダ水だった。甘酸っぱくってさっぱりとした味のソーダ水をジェーンは一気に飲み干してしまった。
「すぐに御代わりをお持ちしますわ」
サマンサはニコリと笑うと、ダイニングルームを後にした。ジェーンは一気に飲んでしまったのはお行儀が悪かったかもと、ばつが悪かった。
「ジェーンは表情がコロコロ変わって本当に面白いね」
ハンスは半分本気で感心している様な顔をした。
「言葉を発しなくても、何を考えてるのか全て顔にでるから分かりやすいし」
ハンスはニヤリと笑ったかと思うと、今度はジェーンの怒った顔を見て爆笑した。
その時、ちょうどラズベリーソーダを運んできたサマンサは驚いた様に目を見開いた。
「ハンス様が声を上げて笑われているのは初めて見ましたわ! ハンス様はよく微笑まれますが、声を上げて笑うのは初めてに思います」
サマンサは小さい声で感謝の祈りのような言葉を呟くと、ジェーンの頬にキスをした。
「ジェーン様に祝福を」
サマンサはグラスをテーブルに置くと、優しい微笑をジェーンに向けた。
「スープとメインをすぐにお持ちしますので、前菜を召し上がってくださいね」
サマンサが去ると、ハンスは決まりが悪そうに笑った
「僕のほうが全然年上なんだけど、サマンサは僕の事を小さな子供の様に扱うんだ。君を連れてくると知った時も大変な喜びようでね……僕が全然女性に興味を示さなかったものだから、心配していたようなんだ」
照れた様に笑いながら、ハンスはフォークを持ち上げ前菜を食べ始めた。
「そうなんだ」
ジェーンは、サマンサがジェーンの事を認めてくれた事がとても嬉しかった。ジェーンは優しい気持ちで一杯になった。そしてハンスが前菜を口に運ぶ動作を眺めた。
「一緒に食べてくれてありがとう」
ジェーンは素直に感謝の気持ちを伝えた。ハンスは食べる必要の無い物をジェーンの為に食べてくれていると思うと、とても嬉しかったのだ。
「こちらこそ、一緒に来てくれてありがとう」
ハンスはジェーンをジッと見つめると、真剣な表情で口元だけをきゅっと引き上げた。ジェーンはその微笑に見とれてしまい暫くボーっとしてしまった。
「お腹空いてるんじゃないのかい? さっきまではお皿まで食べそうな目つきで見つめていたのに」
ハンスはいつもの砕けた表情に戻ると、片目をつぶってみせた。
「なんか、緊張しちゃって。こんなにドレスアップした事も、こんなに豪華な部屋で食事をするのも初めてだから」
本当はハンスの微笑みが原因だが、ハンスに伝えた事もまんざら嘘でもない。
「ゆっくりお食べ。時差に慣れる為に、今日は少し遅くまで起きていたほうがいいからね」
ハンスは銀のフォークをゆっくり動かすと、小さく切ったパテを口に運んだ。ジェーンもハンスに習い、パテを口に含んだ。
その後、サマンサはカボチャのクリームスープに鴨のロースト、付け合せにポテトとアンチョビのグラタンを持ってきた。ジェーンはそれらを全て平らげ、デザートのチョコレートプディングまで十分に楽しんだ。
「美味しかった」
ジェーンがほぅっと息を吐くと、ハンスは
「そんなに細い体のどこにこれだけの食べ物が入るんだろうね」
と笑った。
最初は緊張してしまって食べ物が喉を通らなかったのに、美味しくて、我を忘れて食べ過ぎてしまった自分が信じられなかった。しかもハンスの前でガツガツ食べてしまうなんて、かっこ悪すぎる。ジェーンが真っ赤になって下を向くと、
「ごめん、嫌な意味じゃなくて、本当に感心してるんだ。食べ物を残さず食べるのはとても良い事だし、美味しそうに食べているジェーンを見るのはとても嬉しい」
ハンスはニコニコ笑った。
「腹ごなしに夜の散歩に行かないかい?」
スッと立ち上がり、ハンスはジェーンに手を差し出した。
「ええ」
ジェーンはハンスの手をとると、ダイニングルームを後にした。
外に出ると、雲一つない空にぽっかりと満月が浮かんだ、とても明るい夜だった。風も無く穏やかな夜ではあったが、春とは言えまだまだ冷たい空気に、ドレス姿のジェーンの肩がヒヤッとした。無意識のうちに肩を摩ったジェーンの為に、ハンスは凄い速さで家に戻ると、ジャケットを片手にすぐに戻ってきた。
「ありがとう」
ハンスはジャケットをジェーンの肩にかけてくれた。
「こういう時にはシルバーアイズのスピードが役に立つだろう?」
ハンスは片目をつぶると、ジェーンの肩を抱き寄せた。
「早咲きのバラが咲いているか見に行こうか?」
ハンスは湖に掛かる橋を渡ると。館の裏側へとジェーンを導いた。
「うわー、凄い」
館の裏には庭園が広がっていて、月明かりに照らし出され、無数の小さなバラが白く輝いていた。ジェーンはその美しさに魅せられ、ぼんやりと佇んでいた。
「この風景を君に見せたかったんだ」
ハンスはジェーンの肩に回した手に力をこめると、反対の手でポケットから小さな箱を取り出した。
「これ、受け取ってくれる?」
ジェーンはハンスから箱を受け取ると、蓋を開けてみた。そこには月明かりに光輝く、美しいエメラルドの指輪が入っていた。
「これは?」
「代々うちに伝わるエメラルドなんだけど、暫く行方が分からなくなっていたのが、っていうか、あまり興味が無かったからほっといていたんだけど、君にプレゼントしたいと思って探したんだ。先日やっと行方がわかって、新しい台にセッティングして貰ってたのを今日取りに行って来たんだ」
ハンスは少し照れたようにはにかむと、ジェーンの指にエメラルドの指輪をはめた。その指輪は大きなラウンドカットのエメラルドの周りに無数のダイヤモンドがぐるりと囲んだ、とても綺麗な指輪だった。月明かりの中でさえも、美しく輝くそれはとても高価な物に思えた。
「こんな高そうな物、貰えないわ」
反射的に指から指輪を外そうとしたジェーンの指をハンスは静止すると、
「君が学校を卒業したら、結婚してくれないか?」
と真剣な瞳でジェーンを見つめた。
突然のプロポーズにジェーンはビックリしてしまい、何と答えてよいのか頭の中が真っ白になってしまった。ジェーンは目を見開いて暫くハンスを凝視してしまった。そして、その時、ハンスの手が震えている事に気付いた。その瞬間ジェーンの中に、ハンスへの愛しさが湧き上がった。二〇〇〇年も生きていて、どんな事でも簡単にこなせてしまうハンスが、ジェーンにプロポーズをした事で、手を振るわせるほど緊張しているのがとても可愛く思えたのだ。
「僕は古い人間だから、お付き合いイコール結婚に直接結びついてしまって……今どきそんなのは流行らないよね。急に結婚なんて持ち出してごめん、忘れてくれていいよ……」
ハンスは焦ったように言い訳をすると、悲しそうに目を伏せた。
「はい。是非」
「え?!」
「結婚してください」
ジェーンが小さい声で囁くと、ハンスは大げさに溜息をついた。
「こんなに緊張したのは産まれて初めてだ……」
ハンスはうっとりとした目でジェーンを見ると、ゆっくりと顔を近づけた。
「これだけ長く生きてきて、まだ初めての事が経験できるとは思わなかった」
ハンスは呟くと、ゆっくりとジェーンの唇に唇を重ねた。
「愛している」
そう呟いた瞬間、ハンスは激しく咳き込んだ。
「どうしたの? 大丈夫?」
一瞬何が起こったのかわからず、ジェーンはハンスの肩に手を伸ばした。
「ハンス、大丈夫?」
ハンスは口を覆った手をゆっくり下ろした。その手にはべったりと血が付いていた。
「!?」
驚いたジェーンは顔を上げたハンスを見て更に驚愕した。
「ハンス、あなた、目が……」
明るい月明かりの下で、ハンスの見慣れた銀色の瞳は、真っ青な深い蒼い瞳に変わっていた。
「何て皮肉なんだ、これが僕の犯した罪の報いなのか……」
ハンスは乾いた笑いを上げたかと思うと、絶望的な瞳をジェーンに向けた。
「どういう……事?」
ハンスはジェーンから目を逸らすと、
「一つだけ、君に伝えていない事がある……」
と呟き、また激しく咳き込み、地面にぐらりと崩れこんだ。ジェーンは必死でハンスを支えると、今まで出した事もない大声で、助けを呼んだ。
「ジェーン、すまない……どうやら僕は人間に戻ってしまったようだ……あれ程、人間に戻りたかったのに……」
ハンスは苦しげに言葉を切ると、肩でゼイゼイと息をした。
「誰か、助けて、誰か!」
ジェーンの叫びを聞きつけて、館から数人の召使が走って来た。
「ハンス様……いったい」
サマンサはハンスを抱き上げると、突風のような速さで、屋敷へと戻った。ジェーンは急いで後を追い、ハンスの部屋に戻った時には、ハンスは自分のベットにぐったりと横たわっていた。
部屋の外では、サマンサが慌てた声でお医者様に電話をしているのが微かに聞こえた。
「ハンス……」
ジェーンは何が何だか訳が判らず、ハンスの手をギュッと握る事しかできなかった。
「ジェーン」
ハンスは薄く目を開くと、乾いた唇からゼイゼイ息を吐きながら、辛そうに話した。
「僕はローザがいなくなってから、自分の体を痛めつける様に、酒をあおり、自暴自棄な生活を送っていた……呪いをかけられなかったら、いつ死んでもおかしくない状態だったんだ……」
「もう、話さないで」
辛そうに話すハンスの唇にジェーンは人差し指をかざした。
「いや……いいんだ……人間に戻ると言う事は……死を意味する事だと……前から分かって……」
ハンスはゴホゴホと咳き込んだ。
「もう、いいから」
ジェーンの頬を涙がつたった。
「まさか、こんなに簡単に呪いが解けてしまうとは……あれほど……人間に戻る方法を探していたのに……皮肉なものだ……」
ハンスは弱弱しい瞳でジェーンを見上げた。
「君と生きる新しい人生を夢見た途端に……こんな事になるとは……もう少し君と一緒に過ごしたかった」
「ハンスもう、いいから、話さないで」
その時、大きな音がしたかと思うと、窓から人が飛び込んできた。
「ハンス様」
それはナディアだった。
「ハンス様、私の血で、再度シルバーアイズに」
わなわな震えながら、ナディアが自分の腕を喰いちぎった。
「止めるんだ……ナディア……僕がどれだけ人間に戻りたかったか……君が一番良く知っている筈だ……君は長年僕の為に……人間に戻る方法を探して居たのだから……」
ナディアは美しい顔を歪ませて、涙を流した。
「知っています。だから、ハンス様が本物の愛を見つけないように、見張ってきたのですから……」
「ハ……ハ……そうか、君は既に呪いを解く方法を知っていたのか!」
ハンスが弱弱しく微笑むと、ナディアは静かな声で呟いた。
「美女と野獣の話は作り話ではなかった様です。ただし、バラ、満月、真実の愛と揃わないと発動されない様でした」
「あの話が……」
ジェーンは絶句した。
「真実なんて……そんなものだ」
ハンスは咳き込むと、ナディアを見つめた。
「人間の命は尊い……なぜなら、皆一つの命しか持っていないのだから……その命を精一杯生きる事が、人間にとって最も大切な事だ……我々シルバーアイズも元は人間……アーネストに決断をと……すまないと」
ナディアは一粒涙を流したが気丈な声で、
「ハンス様の呪いが解けた今、シルバーアイズ達にも人間に戻る道が開けた事になります。まだ確認はしていませんが、一度でも愛を経験したシルバーアイズならば人間の血を一滴目に垂らすだけで、人間に戻れる筈です。もちろん、人間に戻りたいと願っていればですが」
と続けた。
「そうか……僕が皆の足枷になっていたのだな」
ハンスはゆっくりとジェーンに視線を移した。
「ジェーン……君に出会え……最後に願いが叶ってとても幸せだ……君は時の牢獄から……僕を救い出してくれた……ありがとう……」
ハンスは少し笑うと、
「愛している……」
と呟き、静かに目を閉じた。




